6月20日 E-Verifyは崩壊
Source :Omaha ICE raid a reminder of E-Verify’s flaws, attorneys say (HR Dive)
6月10日、Nebraska州Omahaで、大規模な"worksite enforcement"が実行された(「Topics2025年6月13日(2) Worksite Enforcement」参照)。AP通信が伝えた捜査、摘発の模様は次の通り(ICE News Release)。
  1. 6月10日午前9時頃、ICEの捜査員がGlenn Valley Foodsの精肉梱包工場に対して捜査に入った。同社は、精肉から加工肉製品の製造、レストランなどを経営している。

  2. 捜査員は、97人の被疑者リストを持参していた。

  3. 従業員達は全員持ち場から動かされ、①正式なアメリカ国民であることを証明する書類を保有している者、②有効な就労許可証を保有している者、③そうした書類を保有していない者に分けられ、最終的に約70人を拘束して連行した。

  4. ICEは、NE州では最大規模の"worksite enforcement"であったと公表した。
同社経営者は、現場で『E-Verifyに登録している。必要なことはすべてやっている。何故捜査対象となったのか?』と捜査員に問うたところ、捜査員は『E-Verifyは崩壊している』と回答したそうだ。同地区選出のDon Bacon共和党下院議員は、ICEに照会したうえで、次のように情報提供している(Press Release)。 要するに、問題になるのは、盗まれたIDが利用されていることである(「Topics2019年8月28日 E-Verifyの致命的欠陥」参照)。上記sourceで紹介されている専門家のアドバイスは、いつもと同じである(「Topics2025年4月16日(1) ICEの不法移民摘発」参照)。やはり、E-Verifyは信頼できない制度になってしまっているのである(「Topics2024年10月24日(4) CA州:E-Verify不人気」参照)。

6月14日、トランプ大統領は、ICEに対して、農家、精肉業者、ホテル、レストランでの取り締まりを一旦停止するよう命じたと報じられている(AP)。ところが、すぐにMAGA派からの反発を受けて、トランプ大統領は、6月15日、市長が民主党の地域での摘発を再開するよう、ICEに指示したとされている(AXIOS)。

不法移民の就労を取り締まるICEと、不法移民に労働力を頼らざるを得ない企業の睨み合いは、続きそうである。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

6月19日(1) FRBのインフレ懸念
Source :Fed holds interest rates steady, signals rate cuts of 0.5% later this year (NPR)
6月18日、FRBは政策金利の据え置き(4.25~4.50%)を決定した。4回連続の据え置きである(「Topics2025年5月8日 FRB 3回連続据え置き」参照)。今回も全員一致のようである(Statement)。
経済情勢に対する認識は次の通り。インフレ率の上昇に懸念を示している(「Topics2025年6月13日(1) CPI上昇率じわり」参照)。
"Economic activity has continued to expand at a solid pace. The unemployment rate remains low, and labor market conditions remain solid. Inflation remains somewhat elevated.
それは、FOMCメンバーによる経済予測でも現れている(Projections)。
インフレ率上昇懸念の要因として挙げられている項目は次の通り。
  1. トランプ関税(「Topics2025年4月11日(1) インフレは緩和だが」参照)

  2. イスラエルのイラン攻撃(日経【中東情勢】

  3. 大幅減税(「Topics2025年5月23日 Big Beautiful法案下院可決」参照)

  4. 不法移民の摘発、強制退去(「Topics2025年6月13日(2) Worksite Enforcement」参照)
他方、このところ、長期国債の金利が上昇している。
国債費は既に、公的年金、Medicareに次ぐ3番目に大きな財政支出となっており、これが納税者への大きな負担として戻ってくる可能性がある。また、住宅ローンやカーローンの金利にも影響し、景気の下押し要因となりかねない。

FRBは難しい舵取りを迫られている。

※ 参考テーマ「労働市場

6月19日(2) 『2033年問題』
Source :Social Security benefits face big cuts in 2033, unless Congress acts (NPR)
6月18日、Social Security and Medicare Boards of Trusteesが公的年金、Medicareの財政見通しを発表した("A SUMMARY OF THE 2025 ANNUAL REPORTS" by Social Security and Medicare Boards of Trustees)。
公的年金の基金は2033年に枯渇する。連邦議会が何もしなければ、6,000万人の受給者の年金受給額が23%削減されることになる。この削減率も、昨年のレポートよりも大きくなっている(「Topics2024年5月7日(1) 2033年公的年金基金枯渇」参照)。

一方、Medicare(HI)の基金の枯渇も2033年と、昨年の予測よりも3年早まった。こちらは、医療費高騰が影響したとのこと。基金が枯渇した後は、全体の給付は11%削減されることになる。

アメリカの社会保障にとって、『2033年問題』が大きな課題となっている。

※ 参考テーマ「公的年金改革」、「Medicare

6月18日 HR1の世論調査
Source :Medicaid keeps getting more popular as Republicans aim to cut it by $800 billion (NPR)
現在、歳出フレーム法案(H.R.1 - One Big Beautiful Bill Act)は、連邦議会上院で審議されている(「Topics2025年5月23日 Big Beautiful法案下院可決」参照)。そこでは、さらにMedicaid支出を削減しようとする動きも出ている。上院での採決の目途は、7月4日の会期末となっている。

7月17日、KFFは、そのH.R.1に関する世論調査結果を公表した(KFF Health Tracking Poll: Views of the One Big Beautiful Bill)。ポイントは次の通り。
  1. そもそも、Medicaidに関してどう思っているかを聞くと、好ましいとの回答が83%を占めている。それも、近年の傾向よりも強まっている。
  2. PPACA(医療保険改革)への支持率は年々高まっている。
  3. HR1を好ましくないと思っている割合が64%となっている。ほぼ支持党派別とはなっているが、共和党非MAGA派での支持率が低いことが特徴。
  4. 法案成立により無保険者が増えると分かるとその不支持率は74%に、地域医療機関に対する支出を削減すると分かると79%に上昇する(「Topics2025年6月11日 HR1で無保険者急増」参照)。
  5. 共和党支持層では、その支持率が大幅に低下する。MAGA支持者でさえ、同様である。
  6. 就業義務規定導入には、68%が賛成している。
このまま共和党がHR1成立に突っ込めば、中間選挙で国民の反発を受けるかもしれない。法案内容が具体的に医療保険に反映されるのは、来年1月からとなるからだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

6月17日(1) Worksite Enforcement:農業
Source :After early reprieve from immigration enforcement, farming industry reckons with raids (NPR)
当初、農業は不法移民の摘発のターゲットになっていなかった(「Topics2025年4月16日(1) ICEの不法移民摘発」参照)。しかし、摘発のギアが一段引き上げられた現在では、最大のターゲットの一つとなっている(「Topics2025年6月13日(2) Worksite Enforcement」参照)。

農業省の推計によれば、農作物栽培労働者(crop farmworkers)のうち、42%(2022年)が不法移民労働者である。
これだけ不法移民が多く就労している理由は、アメリカ人が就労したがらないということが根本にあることに加え、就労ビザ(H-2A)取得には相当のコストがかかるという事情がある。雇用主は、住居、交通手段の提供に加え、医療サービスも付与しなければならない。自給換算すると$39にものぼる、との推計も示されている。そのため、visaを取得している外国人就業者数割合は20%を切ってしまっている(2022年:19.1%)。

トランプ大統領は、「農業を守る。不法就労者全員を強制送還することはできない」と述べている。他方、HSS長官は「不法移民の就労はおかしい」と公言している。また、大統領府の国境警備担当補佐官は、「worksite enforcementを強化する。トランプ大統領は、利益のために不法に労働者を働かせることを許さないだろう」と述べている。さらには、農業長官までもが、「全ての不法外国人を国外に追放する。農業、食料産業に大きな影響をもたらすことになろうが、国外追放を優先する」としている。

農業生産者達は、パンデミック期間中に起きた食料供給の崩壊を思い出してほしいと懇願しているが、トランプ政権にその声は届いていないようだ。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

6月17日(2) Worksite Enforcement:在宅ケア
Source :Home health workforce at risk from Trump’s immigration crackdown (Modern Healthcare)
上記sourceによれば、外国出身のアメリカ労働者は5人に一人の割合だが、在宅医療支援で40%以上、個人ケアで30%近くの割合を占めている。これらの仕事に就いている外国人の間で、不法移民摘発を恐れて、退職が相次いでおり、地域住民の間にも不安が広がっているという。

BLSの推計によれば、在宅医療支援・個人ケアは今後最も必要とされる職業であり、2033年までに21%増加すると見られている。アメリカ社会の高齢化に伴い、それだけニーズが大きくなるということである。ただでさえ、低賃金で求職者が少ない分野で移民の就業が見込まれないとなると、アメリカ社会の格差はますます広がっていく。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

6月17日(3) 給与情報の開示義務
Source :A running list of states and localities that require employers to disclose pay or pay ranges (HR Dive)
上記sourceは、州レベル、自治体レベルで、給与情報の開示を法定義務化しているところをリストアップしている。今後の参考として掲示しておく。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

6月16日(1) HSA資産運用は低調
Source :While Account Balances Rise, New Health Savings Account Research Report Finds One-Third of Accountholders Withdrew More Than They Contributed (EBRI)
HSAに関する独自のデータベース(2023年、1,450万口座)を基に、EBRIが調査結果を公表した。ポイントは次の通り。
  1. HSA口座の残高は順調に伸びている(「Topics2025年4月5日(3) HSAは順調な伸び」参照)。

  2. 約1/3の口座では、拠出よりも引き出しの方が大きくなっている。

  3. 事業主拠出を受けているのは43%。

  4. 口座の半数以上で医療支出がなされており、その平均支出額は$1,801。

  5. HSAの勘定で資産運用を指示しているのは、15%に過ぎない(「Topics2016年6月22日 401(k)よりHSA」参照)。
※ 参考テーマ「HSA

6月16日(2) IndeedとUdemy
Source :Indeed partners with Udemy to bring upskilling to job seekers (HR Dive)
6月3日、IndeedとUdemyが提携し、求職者にキャリア形成サービスを提供する事業を開始すると公表した(Business Wire)。企業側が『スキルが基本』との採用方針を打ち出していることに対応するためである。

求職者は、Udemyでスキルをアップし、その情報を基に求職活動を行なう、ということで、有利になる。アメリカ社会は、生産性向上のための機会を、大学だけでなく、企業も提供している。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

6月15日 公的年金受給申請急増
Source :Why there's an unexpected surge in people claiming Social Security (NPR)
今年に入り、公的年金の請求数が増えているという。例年に較べて1月から5月の間の請求数は18%ほど多いとのこと。
上記sourceで紹介されている事例で各人が挙げている理由は次の通り。 所管するSSAの分析は次の通りになっている。
  1. Baby Boomersの退職がピークを迎えている。

  2. 制度変更により、企業年金を受け取っている公的年金受給者の受給額が増額となる。

  3. 配偶者が給付を受けていた人で申請をし直して、自分の記録に基づく給付を申請する人が増えた。

  4. 62歳の高額所得者の申請が増えており、金融的な理由以外の理由によるものとみられる。
トランプ大統領は、「公的年金給付を減額することはない」と公言している(「Topics2025年4月28日(1) トランプ大統領給付削減に反対?」参照)。それでも、トランプ政権下で、公的年金制度に対する不信感、不安感が高齢者の間に広まっていると思われる(「Topics2025年4月5日(2) 医療/年金への不安広がる」参照)。

そして、何よりも根源的な課題として、公的年金制度の持続可能性に対する懸念が大きくなりつつある。依然として、連邦議会も大統領も、この問題に対応しようとしていない(「Topics2024年5月7日(1) 2033年公的年金基金枯渇」参照)。

※ 参考テーマ「公的年金改革

6月13日(1) CPI上昇率じわり
Source :Consumer Price Index Summary (BLS)
6月11日、BLSは5月の消費者物価指数(CPI-U)を公表した。前年同月比2.4%の上昇と、僅かに前月を上回った(「Topics2025年5月15日(1) CPI上昇率僅かに低下」参照)。コアの伸び率は2.8%で横ばい。
足許については前月比でプラスの0.1%に低下した。
食料品価格は2.9%と若干上昇した。高値が続いていた卵の上昇率が低下している(NPR)。
エネルギー価格はマイナス幅拡大が続いている。中でもガソリン価格の低落が大きい。
逆に、電気代の上昇が大きくなっている。
住居費は前年同月比3.9%増とほぼ横ばいが続いている。
サービス業の価格上昇率は3.6%と横ばい。
5月の実質時給は、前月比0.3%増、前年同月比で1.4%増となった(Real Earnings News Release)。
※ 参考テーマ「労働市場

6月13日(2) Worksite Enforcement
Sources : Immigration raids could 'devastate' construction in the United States, says industry leader (NPR)
Day laborers staying away from LA area job centers amid immigration raids (LAist)
U.S. Immigration and Customs Enforcement(ICE)による不法移民の摘発(「Topics2025年4月16日(1) ICEの不法移民摘発」参照)が、大きな騒動を巻き起こしている(NHK)。

混乱の背景にあるのが、ICEの"Worksite Enforcement"である。このページは3月12日に更新されて今に至っている。実際には、トランプ第2期政権下発足直後の1月31日から職場における不法移民の摘発が開始されている(1/31 News Release)。

そのターゲットとなっているのが、農業、レストラン、建設業などである。上記sourceによると、建設業では従業員の23%(2021年推計)が不法移民とみられている。

また、違う観点からの指摘によると、日雇い労働者がターゲットになっている。LA周辺には、日雇いを斡旋するNPOがいくつもあるそうだ(Pasadena Community Job Center)。こうした斡旋場所で摘発が行なわれているため、職を求めてやってくる労働者は90%減少したという。

不法移民は、サラリーマンのような就職はできないので、こうした日雇いに頼らざるを得ない境遇にある。摘発を恐れて斡旋所に出向かなければ、やがて生活に困窮する。一方、不法移民に頼ってきた企業も人手不足から仕事ができなくなる可能性が高い。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

6月13日(3) DBプランへの回帰
Source :Are defined benefit plans back? Half of CFOs are now using them (CFO)
上記sourceによると、大企業のCFOはDBプランに対する見方を変えつつあるそうだ。ポイントは次の通り。
  1. DBプランを運営している企業の半分は、自社のDBプランを長期に維持したいと考えている。2年前は36%しかなかったので、大きな変化を示している。その背景には、DBプランの財政状況がよいこと、労働市場からの圧力(人手不足)などがある。

  2. DBプランに関するリスクを移行しようとする考え方は依然として強い。70%が今後2年間に一時金による支払いを検討している。

  3. 依然に閉鎖または凍結したDBプランを保有する企業のうち、58%がプランの再開を検討している。余剰積立の活用や従業員の引き留め策としての利点が魅力となっているが、実際に再開した企業はまだ少ない。
※ 参考テーマ「DB/DCプラン

6月11日 HR1で無保険者急増
Source :Estimated Effects on the Number of Uninsured People in 2034 Resulting From Policies Incorporated Within CBO’s Baseline Projections and H.R. 1, the One Big Beautiful Bill Act (CBO)
6月4日、CBOは、下院が可決した歳出フレーム法案(H.R.1 - One Big Beautiful Bill Act)が成立した場合の無保険者増加数について、推計値を公表した。2034年時点で、元々現行法制のもとでは510万人増加するところ(Baseline)を、審議中の法案が可決されればさらに1,090万人増加し、合計で現在よりも1,600万人増加することになる。
何のためにこれまで無保険者を減らす努力をしてきたのか、と嘆息せざるを得ない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「政治/外交