10月20日 パートタイマーにシフト 
Source :Health changes spur test of more part-time workers (AP)
先日、Searsが来年から民間版"Exchange"を利用することを紹介した(「Topics2012年10月2日 民間版"Exchange"を使え」参照)。Searsと同様、Darden Restaurants Inc.という企業も、同じ民間版"Exchange"を利用することになっている。同社は、Olive GardenRed LobsterLongHorn Steakhouseといった大規模レストランチェーン店を経営している。店舗総数は2,000件、約18万人を雇用しており、そのうちの約75%がパートタイマーである。

このDarden社が一つの実験を試みているという。全米の中から4つの地域を選出し、その地域内の店舗におけるパートタイマーの割合を高めるというものである。狙いは、PPACAのもとで保険プラン提供義務とペナルティが課されるなかで、人件費を削減するにはどうすればよいのかを確認することという。

PPACAでは、週30時間以上の労働を提供する場合にフルタイマーと定義する(「Topics2012年5月1日 誰が"full-time worker"か」参照)。従って、Darden社は、30時間未満のパートタイマーを増やしてみて、従業員に関する医療コストがどうなるかを試してみようというのである。

こうした動きは、McDonald's Corp.も示唆しているそうで、来年になると一気に表面化する可能性もある。

これまでいくつかの記事を読んできた中で、Darden社は、PPACAへの対応策として3つの政策変更をしようとしている。
  1. Self-insuredプランからCDプランへの変更(これは後日紹介する予定)(「Topics2012年10月8日 大企業保険プランに追加コスト」参照)

  2. 民間版"Exchange"の採用

  3. パートタイマーへのシフト
もしかしたら、今後の大企業の医療保険プランは、こうした大きな方向に流れていくことになるかもしれない。できれば、パートタイマーに対して、Darden社がどのような医療保険プランを提供しようとしているのか、または提供しないのか、その戦略について知りたいものである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン」、「CDプラン」、「Private "Exchange"

10月19日 退職者受難の時代 
Sources : As More Employers Drop Coverage, Retirees Turn To Specialized Insurance Exchanges (Kaiser Health News)
Local Governments Take Budget Knife to Retiree Health Plans (New York Times)
Big rate hike for care is closer (Sacramento Bee)
官民ともに、退職者医療プランの見直しを進めている。 アメリカ国民にとって、退職してからMedicare受給者(65歳)になるまでのつなぎが重要になりつつある。

ところで、またまた英語ネタだが、上記sourceのNYT紙の記事で、次のようなフレーズが出てくる。
"In addition, retiree health insurance is relatively low-hanging fruit for government budget cutters because there is no legal obligation for coverage, sparing governments from the type of lawsuits filed by labor unions over cuts to pension benefits for workers such as teachers, police officers and janitors. "
"Low-hanging fruit"をCollins(online)で調べてみると、"a course of action that can be undertaken quickly and easily as part of a wider range of changes or solutions to a problem"、まさに「やりやすいところからやる」という意味である。判りやすい表現だと感心した。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「Private "Exchange"」、「自治体退職者医療/GAS 45

10月18日 NY州の雇用情勢 
Source :New York’s Rising Jobless Rate Poses Test for Cuomo (New York Times)
次の2つのグラフを見較べていただきたい。いずれも2001〜2012年(直近)の失業率を表したものである(BLS)。



2010年からゆっくりと低下しつつある方(上図)がUS全体、2011年から再び上昇基調に入っている方(下図)がNY州の失業率である。Cuomo州知事が2011年1月に就任して以降、失業率が悪化しているのである。しかも、NY州は、全米で唯一失業率が悪化している州になっているとのことである。

Cuomo州知事は、他の指標を用いていろいろと反論しているようだが、実態は確かによろしくない。 となれば、失業率が上昇しても仕方があるまい。

そうした構図になってしまう一つの要因は、労働人口の流入にあるのではないだろうか。

すべてとは言わないが、全米レベルでなかなか雇用情勢が改善しない中、失業者が職を求めて、大都市中の大都市NYに集まってくるのは、ある意味自然であろう。これは大都市NYを抱える州の定めかもしれない。

※ 参考テーマ「労働市場

10月17日 一時金払い選択制への移行加速 
Source :Lump-sum payouts moving into fast lane (Pensions & Investments)
Ford、GMが先頭を切って、年金プランの一時金払い選択制を採用した(「Topics2012年5月2日 "De-risk":Ford年金プラン」「Topics2012年6月6日 一時金払い:GM先行」参照)。その後、MAP-21(俗称"Highway law", HR 4348)が成立し(「Topics2012年7月5日 PBGC保険料大幅引上げ」参照)、一時金払い選択制の導入が加速されているそうだ。

上記sourceで導入例として挙げられている社名は、次の通り。
A.H. BeloSears HoldingNCR Corp.Archer Daniels MidlandEnergy Future Holdings
EquifaxNew York TimesVisteonThomson ReutersYum! Brands
また、一時金払い制度を導入している企業をリストアップしているサイトもある(Pension Right Center)。

MAP-21により一時金払い選択制の導入が加速されている理屈は次の通りだ。
PBGC保険料率引き上げ給付債務算定利子率の実質底上げ
加入者数が減れば負担を軽減できる給付債務が圧縮される
一時金選択者は加入者から外れる一時金選択制の要件である積立比率80%を確保しやすくなる
一時金選択制の導入一時金選択制の導入
MAP-21の規定は企業年金(DB)プランの救済が目的であったはずなのに、一時金払い選択制の導入を加速し、結果的にDBプラン加入者を減らす方向に作用している。まさに意図せざる副作用といえよう。

ところで、ここでもSearsが登場している(「Topics2012年10月2日 民間版"Exchange"を使え」参照)。相当コスト・コンシャスな経営を行っているようだ。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「企業年金関連法制」、「PBGC/Chapter 11

10月16日 WARN不要論に反発 
Source :Federal contractors grilled on pre-sequester layoff notices (Government Executive)
"財政の崖"を控えながらも、具体的な歳出削減策が明確になっていない中、WARNを発出する必要性はないとの政府見解が示され、防衛産業の大手企業も様子見を決め込んでいる(「Topics2012年10月12日 WARN不要」参照)。

こうした状況に対して、下院共和党が疑問を呈している。下院行政改革委員会(Committee on Oversight and Government Reform)のIssa委員長は、防衛産業企業10社に対して、 といった内容のレターを発出した。その一方で、DOL、OMBに対して、WARNは不要とするガイドラインの法的背景を説明するよう求めるレターも出している。

上記sourceの表題は、10社が非難されている、との主旨になっているが、Issa委員長の意図は、むしろObama政権に対する批判である。
  1. 行政の都合で、WARN法を逸脱しようとしているのではないか。

  2. OMBが、『WARNを出さなかったことで法的コストがかかるようなことがあれば、契約者である連邦政府が負担を肩代わりする』としていることは、契約企業の行動を誘導しているのではないか、納税者に新たな負担を求めることにならないか。
といった2点を突いているようだ。

企業の側は、『歳出削減策が明確になり、具体的な契約内容の変更が分かった時点で、必要があればWARNを出し、決められた60日間を経て解雇を行う』として、あくまでも解雇時期をずらすことで法を順守するとの考えを示している。企業側は法律に則って対応することを強調している。下院共和党も、本来、意思疎通のよいはずの防衛産業企業と事を構える気はないだろう。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策

10月15日(1) Kodak:退職者医療プランを廃止 
Source :Kodak cuts mean crisis for thousands (Democrat and Chronicle)
Kodak to End OPEB Benefits (PLANSPONSOR.com)
Kodakは、今年1月に入ってChapter 11を申請し、現在、再建計画中である。そのKodakが、10月11日、退職者医療保険プランを廃止する計画を発表した。再建計画に参加している退職者委員会は既に合意しており、今後は破産裁判所の承認を得て、年末に廃止の予定である。

退職者医療プラン廃止の概要は次の通り。 破産している企業に対する無担保債権をいくらもらっても役に立たないと思うが、会社側は一応、債権の30%は返還できると見込んでいる。もしもその割合で返還されれば、退職者委員会が保有する資産は、$210Mとなる。退職者委員会は、この資産を退職者の医療費負担への補助に利用と考えているようだ。残念ながら、UAWが設立したようなVEBAにはならないのだろう。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

10月15日(2) Specter元上院議員が他界 
Source :Former US Senator Arlen Specter dies at 82 (Financial Times)
Specter元上院議員が亡くなった。当websiteでも何度か登場していた。ご冥福をお祈りする。 上記sourceで初めて知ったのだが、彼は35歳までは民主党員として登録していたそうだ。その後、共和党議員となり、最後の最後でまた民主党に戻ったということである。本人としては、初心にかえったということだったのかもしれない。

※ 参考テーマ「政治/外交

10月14日 StateからCountyへ 
Source :Maryland's other pension problem (Washington Examiner)
州政府レベルでの年金・退職者医療の積立不足について、深刻な状況であることに変わりはないが、それでも少しずつ手が打たれ始めている(New York Times)。

しかし、どうしても現役州政府職員については手をつけられず、将来の新入職員から制度変更するものが多いことに加え、訴訟を起こされている場合が多く、本当に実現されるかどうか、不透明な部分が残されている。

そして、州政府にとっては、自らの年金プランばかりでなく、countyレベルでの年金・退職者医療の問題が押し寄せつつある。当websiteでは、CA州、IL州でそうした問題が発生しつつあることを既に紹介しているが、上記sourceでは、Maryland州(MD州)の事例を紹介している。

管理人もMD州Bethesda(Montgomery County)に住んでいたので、やはり心配になる。

Maryland Public Policy Instituteは、MD州各countyの退職者給付(年金、退職者医療等)についての初めての報告書をまとめ、公表した

例示として、次のような数字が挙げられている。
各countyの年金・退職者医療等 (FY 2011)
年間支出額積立不足額
Montgomery County$ 284.3M$ 4.5B
Prince George's County$ 320.7M$ 3.4B
まさに、一桁違う問題になっている。

しかも、この積立不足額は今後年々広がっている見込みである。なぜなら、MD州では安易な増税策が採られたために、高所得者がMD州から逃げ出しており、税収不足がさらに拡大するとみられているからである。

この報告書をまとめた研究者は、『早晩、固定資産税の大増税論議が起きる』と予測している(「Topics2012年10月5日 Chicago市長の危機感」参照)。そうなれば、ますますMD州からの逃避者は増えるだろう。州知事・議会は大きな決断を迫られている。

※ 参考テーマ「地方政府年金

10月13日 USPS人員削減第二弾 
Source :Thousands of USPS mail handlers and postmasters accept separation incentives (Government Executive)
USPSの人員削減第一弾(「Topics2012年7月10日 USPS人員削減第一弾」参照)は、ほぼ目的を達成した。
項  目PostmastersMail handlers
対象者数21,000人43,000人
応募者数3,800〜4,200人2,800〜3,200人
応募結果4,189人2,952人
早期退職インセンティブ$20,000$15,000
これに続き、USPSでは、American Postal Workers Union (APWU)所属の職員11万人以上に対し、早期退職者を募る予定にしている。インセンティブは、フルタイム職員の場合には$15,000で、パートタイマについては、年間労働時間に応じて減額する予定である。

目標人員は不明だが、厳しい削減策になることは間違いなさそうだ。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策

10月12日 WARN不要 
Source :Too little info for pre-sequestration layoff warnings, contractors say (Government Executive)
"Fiscal Cliff"がカレンダー上、近づいている。"Budget Control Act of 2011"では、2013〜2021年にかけて、自動的な歳出削減措置を講じることになっており、その配分は、国防と非国防で半分ずつとなっている(「Topics2011年8月2日 Budget Control Act of 2011」参照)。つまり、国防費は相当集中的に歳出削減が割り当てられる可能性が高い。

こうした状況を踏まえ、軍事産業に携わる企業は、どういった削減プログラムとなるのか、自社が国防省と契約しているプロジェクトのどこが削減されるのか、といった詳細を開示するよう求めている。これに対して、国防省は、そうした詳細を開示するには至っていない。

一方、WARN法では、大量解雇が発生する場合に、従業員に対してその2ヵ月前に通知を出すことを義務付けている(「Topics2009年3月1日(2) WARN」参照)。軍事産業企業は、国防省から大幅カットされるようなプロジェクトについては、大量解雇が発生する可能性があるとして、通知を出すべきかどうか、迷っているところである。

ところが、労働省(DOL)は、自動歳出削減が行われるかどうか明確になっていないので、大量解雇可能性の通知は発出する必要はないし、法律違反にもならないとのスタンスを示している。OMBもこの方針を支持している。

こうした政府機関からの方針表明は、@単純に『決まってないからいいじゃん』ということなのか、A自動歳出削減は起こさせないという現政権の意思表明なのか。管理人としては、後者であることを祈っている。

ところで、上記sourceでは、盛んに"sequestration"という単語が出てくる。"Sequestrate"をLongmanで調べても、
to take property away from the person it belongs to because they have not paid their debts
としか出てこない。これでは普通の借金のかたの差し押さえ、の意味にしかならない。ところが、Wikipediaの"Budget Control Act of 2011"を読んでいると、自動歳出削減("across-the-board cuts ")の意味で使用されていることが分かった。もっといい英語の辞書を買わないとだめになってきているのかもしれない。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策

10月11日 必要書類が揃わない 
Source :Undocumented Life Is a Hurdle as Immigrants Seek a Reprieve (New York Times)
退去猶予申請には、いくつかの要件が課されている(「Topics2012年6月17日 若い不法移民を保護」参照)。申請者はこれらの要件を満たしていることを、自ら証明しなければならない。

上記sourceでは、その悪戦苦闘ぶりがいくつも紹介されているのだが、共通しているのは、学校に通っていた、または卒業したという証明は簡単にできるが、その他の期間で働いていた、もしくはアメリカ国内に居住していたことを証明することが難しいようだ。

それもそのはず、不法移民というステータスで、国内で働いてはならない、国内に居てはならない人達が、そこに居ましたと証明しなければならないのだから。むしろ、学校が簡単に入学を認めていることの方が驚きだ。

当局は、申請受付開始から最初の1ヵ月で最大25万人の申請があるものと見込んでいたが、こうした手続きの難しさからか、実際の申請はその1/3にも満たなかったそうである。

また、退去猶予申請を行うことに伴うリスクとして、次の2点があることもわかった。
  1. 申請者の親達は間違いなく不法移民であるため、申請により国外退去の対象となるのではないか。

  2. 申請者が働いていたことを証明しようとすると、雇った側は不法移民を雇用したことでペナルティを受けるのではないか。
申請者本人だけでなく、関係性のある人々にもリスクが広がっていく可能性がある。これだけの困難さとリスクを背負いながら退去猶予申請をするには、相当な精神力が必要になると思う。

話題は逸れるが、自分が自分であること、居住していることを自ら証明することは本当に大変だった(「アメリカにおける外国人の生活 (2003/7/1) 」参照)。アメリカ社会で外国人が生きていくのは難しい。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者