7月10日 USPS人員削減第一弾 
Source :USPS estimates 7,400 employees may take buyout offers (GovExec.com)
長いことかかっているUSPSの人員削減だが、ようやく第一歩が踏み出されたようだ(「Topics2012年4月30日 USPS救済法案」参照)。 後者については、労働組合APWU(American Postal Workers Union)が労働協約違反であると非難している。さて、これでUSPSの財政状況が改善するのかどうか、はなはだ疑問である。

※ 参考テーマ「労働市場」、「解雇事情/失業対策

7月9日 救済策の副作用 
Source :Pension Relief Bill Presents Risks (PLANSPONSOR.com)
MAP-21の効果は限定的、どころではない(「Topics2012年7月6日 救済策の効果は限定的」参照)。副作用があるという主張だ。例示されているのは、次の2つのケース。
  1. 3年も経つと、給付債務額は金利に感応的でなくなる。もしも金利が上昇した場合、給付債務額はほとんど変化しないのに、国債のようにクーポンが固定されている債権は価格が下がってしまい、アセットの価格が縮減してしまう。結果、積立不足が拡大する。

  2. しばらく金利が下がり続けた場合、救済策の効果は4〜5年もすれば剥がれ落ち、その後の金利低下がもたらす給付債務額の急増は厳しいものとなる。
金利が上がっても下がっても、副作用が伴うことになる。所詮は一時しのぎの対策でしかない。

※ 参考テーマ「企業年金関連法制

7月8日 ペナルティにならない 
Source :Is the Individual Mandate Really Mandatory ? (Tax Analysis)
とっても難しいんだけど、とっても面白い分析なので、なるべく忠実に要約をしておく。結論は、
『連邦最高裁は、PPACAが定めたペナルティは税なんだからOKとしているけど、本当にペナルティになるのだろうか』
というものである。

T 一般的な課税プロセス

  1. 一般論として、自発的な申告納税以外に、徴税権を確保する手段として、IRSには3つの手法が認められている。
    1. tax lien(先取り特権の設定)
    2. administrative levy(差し押さえ)
    3. offset power(還付との相殺)

  2. これらの手法は強制措置となるため、発動の前にいくつかの前提条件を満たさなければならない。
    1. assessment(査定)
    2. advance notice(査定の通知)
    3. issue(徴税の確定・通知)

  3. これらの手続きの終了後、最初に発動される手法が、先取り特権(lien)の設定である。税に関する先取り特権は、公開され、ほとんどの民間債権に優先する。

  4. 次に発動されるのが、差し押さえ(levy)である。これも第三者に対しては強い権利を有している。例外的に、失業給付、給与などは免除される。

  5. 最後の強制措置が、還付金(refund)との相殺(offset)である。
U PPACAのペナルティの場合
  1. 納税者がペナルティを納税しない場合でも、起訴や刑事罰にはならないことを明確にしている。

  2. IRSがペナルティ徴税のために差し押さえ(levy)措置を発動することを禁じている。

  3. 先取り特権(lien)の設定については特に禁じてはいないが、lienとlevyは一体で初めて有効となることを考えれば、lienの実質的な意味合いは薄くなる。

  4. 加えて、IRSがlienの通知を発行することを禁じている。従って、第三者にとって、先取り特権が設定されているかどうかはわからない。これは、破産処理の際に問題となろう。

  5. 従って、最後に残された手法が、還付金との相殺(offset)である。通常、給与所得者は源泉徴収されているので、本来負担すべき税額よりも納税額の方が大きくなっている。IRSは、この差額を還付することになるが、ペナルティが課されている場合には、還付金との相殺により、ペナルティを徴収することができる。

  6. しかし、慎重に納税額を調整する人や低所得者については、還付すべき額が発生しないことになる。その場合は、相殺もできず、実質的にペナルティを徴収することはできない。

  7. 結局、PPACAでペナルティは規定されているものの、その実効性は相当低いこととなる。加入義務規定は、実質的には強制力のないものとなっている。
おそらく、立法者の意思として、ペナルティは税ではない、ということを強調したかったのであろう。だからこそ、通常の徴税手法に制約を加えたのだと思う。それを、連邦最高裁が税だから加入義務規定はOKとしてしまった。

最高裁判決が付焼刃であったことの証左ではなかろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月7日 Medicaid拡充に慎重(2) 
Source :Court Ruling Could Let States Cut Medicaid Rolls; More States Weigh Opting Out Of Expansion (Kaiser Health News)
Medicaidの拡充、"Exchnage"の創設に消極的な州が広がりつつある(「Topics2012年7月4日 Medicaid拡充に慎重」参照)。
州 名Medicaid拡充"Exchange"創設
Florida××
South Carolina×
Texas×
Louisiana×
Iowa×
New Jersey××

※太字が追加分
このほか、Missouri州議会も、Medicaidは拡充すべきではない、と州知事に迫っているようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル」、「無保険者対策/連邦レベル

7月6日 救済策の効果は限定的 
Source :Despite Funding Relief, DB Contributions May Stay Above Minimum (PLANSPONSOR.com)
上記sourceでは、昨日紹介したオムニバス法案(MAP-21, HR 4348)のうち、「1. 給付債務算定利子率」の方の政策効果を論じている(「Topics2012年7月5日 PBGC保険料大幅引上げ」参照)。短いコメントだが、ポイントは次の通り。
  1. これまでも、多くの企業が、拠出最低限を上回る拠出を行なってきた。

  2. 今回の拠出限度の緩和策が講じられたとしても、良好なB/Sを維持している企業は、拠出最低限を上回る拠出を継続するだろう。

  3. 従って、今回の緩和策で恩恵を被るのは、給付債務が巨額になっているような一部の企業に限られるだろう。
最低拠出限度額が下がってそれに合わせて拠出額を削減したとしても、その分、給付債務が残るだけである。企業のB/S上は、キャッシュをどこに置こうが同じである。いや、むしろ年金基金に拠出した方が、 というメリットがある。

そういうことなのであれば、今回の緩和策は、業績の苦しい企業を助け、DB年金プランの傷口を広げることにしかならないかもしれない。

※ 参考テーマ「企業年金関連法制

7月5日 PBGC保険料大幅引上げ 
Source :Congress Passes Pension Funding Stabilization, PBGC Premium Increases (FEI)
6月29日、連邦議会はオムニバス法案(MAP-21, HR 4348)を可決した。そこには、企業年金に関して2つの項目が含まれている。Obama大統領は今週中にも署名すると見られている。7月6日にObama大統領署名
  1. 給付債務算定利子率

    • 現行では、給付債務を算定する際の利子率は、@0〜5年、A5年超〜15年、B15年超の3段階毎に、過去2年間の平均を基準に設定している。投資適格の社債利子率より算出した利子率曲線をベースにする。(「Topics2006年8月9日 Pension Protection Act of 2006 概要」参照)

    • これを、MAP-21では、過去25年間の平均とするとともに、上下に許容範囲を設ける。具体的な許容範囲は次の通り。

      Year Minimum/Maximum
      2012 90%/110%
      2013 85%/115%
      2014 80%/120%
      2015 75%/125%
      After 2015 70%/130%
    要するに、最近の超低金利による給付債務の急膨張を、企業の裁量により可能な限り抑制できるようにしようということである。

  2. PBGC保険料率(単独事業主プラン)
    固定保険料可変保険料
    (賦課対象)加入者一人あたり積立不足$1,000あたり
    現 行$35$9
    2013年$42$9
    2014年$49$14
    2015年$49$19

    ※ 可変保険料については、加入者一人あたり$400の上限を設ける。
  3. PBGC保険料率(複数事業主プラン)
    固定保険料
    (賦課対象)加入者一人あたり
    現 行$9
    2013年$11
    2014年$11
    2015年$11
PBGCによる保険料の決定権(「Topics2011年6月14日 PBGCに保険料決定権(2)」参照)は認められなかったものの、これにより、年間収入は$10.6B増える見込みである。逆に、年金プラン運営側から見れば、積立不足が大きいほど、厳しく負担が増えることになる訳で、これでDBプラン凍結・廃止の流れは加速されることになろう。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11」、「企業年金関連法制

7月4日 Medicaid拡充に慎重 
Sources :Republican Governor of Florida Says State Won’t Expand Medicaid (New York Times)
States Balk At Expanding Medicaid (Kaiser Health News)
Gov. Jindal joins mobilization against ObamaCare: Louisiana won't be part of another government-run program we can't afford and sustain (Fox News)
連邦最高裁判決により、個人加入義務規定を削除できなかった共和党出身の州知事達は、同じ判決で「Medicaid拡充策に従わない州へのペナルティは違憲」とされたことに基づき、Medicaid拡充策に消極的な姿勢を強めている。同様に、罰則規定のない"Exchange"についても、創設しないとの姿勢を強めつつある。

上記sourcesでは、次の州の知事達が方向性を示している(×は消極的の意)。
州 名Medicaid拡充"Exchange"創設
Florida××
South Carolina×
Texas×
Louisiana×
余談だが、本より州政府レベルでの"Exchange"創設の動きは、極めて鈍い。NCSLの分析によれば、今年6月5日現在、 となっている。全部足しても18州にしかならない。

では、Medicaid拡充になぜ反対なのか。賛否両論を比較してみる。
賛 成反 対
・拡充に必要な財政負担の全部またはほとんどを連邦政府が負担するから州政府にとってはお得。

・低所得の無保険者が減れば、他の保険制度への賦課が軽減される。

・Medicaid拡充策に伴う連邦負担分が拠出されれば、医療関連産業の雇用が拡大する。
・負担割合は連邦政府の方が大きいのは確かだが、絶対的な負担額は増額となる。州政府の財政状況は極めて厳しい。

・制度運営のためのIT整備や人件費は州政府が負担する。

・今の制度案ではそうなっていても、連邦政府が財政赤字削減を理由に負担割合を下げてくる可能性は高い。
それにしても、Medicaid拡充策と"Exchnage"創設が州政府のオプションになってしまうと、2つの重大な影響をもたらす。
  1. 低所得の無保険者対策としての政策効果は、大きく減殺される。

  2. 低所得の無保険者対策が採られている州と採られていない州とに、大きく二分されることになる。
さて、連邦政府はどのような対応策を考えているのだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル」、「無保険者対策/連邦レベル

7月3日 最高裁判事の相性 
Sources :End-of-Term Statistical Analysis - October Term 2011 (SCOTUSblog)
Stat Pack (SCOTUSblog)
先週末にOT11(October Term 2011)を終了した連邦最高裁の判事は、次の通りである。

Current Justices of the US Supreme Court (as of July 2nd, 2012)

Name Born Appt. by First day
John G. Roberts
(Chief Justice)
01955-01-27 January 27, 1955 George W. Bush 02005-09-29 September 29, 2005
Antonin Scalia 01936-03-11 March 11, 1936 Ronald Reagan 01986-09-26 September 26, 1986
Anthony Kennedy 01936-07-23 July 23, 1936 Ronald Reagan 01988-02-18 February 18, 1988
Clarence Thomas 01948-06-23 June 23, 1948 George H. W. Bush 01991-10-23 October 23, 1991
Ruth Bader Ginsburg 01933-03-15 March 15, 1933 Bill Clinton 01993-08-10 August 10, 1993
Stephen Breyer 01938-08-15 August 15, 1938 Bill Clinton 01994-08-03 August 3, 1994
Samuel Alito 01950-04-01 April 1, 1950 George W. Bush 02006-01-31 January 31, 2006
Sonia Sotomayor 01954-06-25 June 25, 1954 Barack Obama 02009-08-08 August 8, 2009
Elena Kagan 01960-04-28 April 28, 1960 Barack Obama 02010-08-07 August 7, 2010
上記sourcesでは、これらの判事達がOT11でどのような行動を取ったのかを、統計に基づいて分析している。
  1. まず、意見の一致度合い。今期の全判決における意見の分かれ具合を見てみる。
    9-08-17-26-35-4
    44%11%8%17%20%
    ちなみに、過去5年間は次のようになっている。
    こうしてみると、今期は全員一致が多くなるなど、全体的に融和ムードが高まっている。また、「保守vsリベラル」のような理念対決で、5対4という僅差になる場面も少なかったと言えよう。

  2. 次に、多数派意見に与する割合を、判事毎に見てみる。

    • 全判決
    • 5対4に分かれた判決
    まず目立つのが、Kennedy判事が多数派に入る頻度が高いということである。特に、5対4で対立した際には、圧倒的に高くなる。Kennedy判事が中立的立場で決定権を握っていることが統計的にも明らかになっている。

    また、5対4に分かれた場合、Kennedy判事を除き、保守派の判事達が上位を占めており、頻度も6割以上となっている。これは、Kennedy判事が6割程度保守派に軸足が寄っていることを示している。この傾向は、過去5年間も同様である。

  3. 逆に、単独行動が多いのは、Ginsburg判事。上記の多数派割合も最低だが、一人になっても反対意見を貫く場合が目立った。
  4. 最後に、判事同士の意見の一致度はどうか。当然、保守派とリベラル派の間には大きな溝がある。そして、保守派、リベラル派の中でも相性の濃淡があるようだ。
    全 判 決5対4に分かれた判決
    5対4に分かれた判決では、さすがにリベラル派同士の結束は見られるが、全判決で見ると、相性のいい順位で上位6組が保守派同士、下位4組がリベラル派同士となっている。4人の中から2人を抽出する組み合わせは、"4x3/2=6"で6組しかない。つまり、保守派の結束は常に固い、ということなのである。
こうした状況やその他の統計数字を眺めていると、連邦最高裁判事の相関関係は、概ね次のように見えてくる。余談だが、ここからも、Roberts裁判長が医療保険改革法でリベラル派に与したのは尋常ではないことがわかる。
なお、判決では全く相性の悪いScalia判事とGinsburg判事は、法廷の外ではとても親しいそうだ。

さて、次期は同性婚という大テーマが待っている。こうした判事の相互関係の中で、果たしてどのような判決が下されるのだろうか。

※ 参考テーマ「司 法

7月2日 最高裁判決を巡る噂 
Source :Rumours abound in US on Roberts' decision (Financial Times)
先月28日に示された連邦最高裁の判決を巡り、様々な噂が飛び交っているらしい(「Topics2012年6月30日 医療保険改革法に合憲判決」参照)。上記sourceで示された噂は、次の3つである。
  1. Kennedy判事が提出した意見書で、個人加入義務規定に関するGinsburg判事の意見を参照する際、Ginsburg判事の反対意見という意味で"dissent"という用語を使用している。

    Merriam-Websterでdissentを調べると、次のように出てくる。
    "a justice's nonconcurrence with a decision of the majority − called also dissenting opinion"
    判決内容からすると、Ginsburg判事の意見は主文に賛成する意見なので、"concurring opinion"と表現しなければいけないのに、Kennedy判事はそれを"dissenting opinion"と主文に反対する意見と表記している。これは、Kennedy判事が判決直前まで「違憲」判決になると理解していた証拠ではないのか。

  2. 同じく、Kennedy判事は、「個人加入義務が違憲とされた場合、医療保険改革法全体が無効である」との主張を述べている。ところが、その矛先はGinsburg判事にばかり向けられており、彼女と同じ意見を持っていたRobert裁判長には向けられていない。これは、Kennedy判事が直前まで「Robert裁判長が合憲側に回る」とは考えていなかった証拠ではないか。

  3. 保守派の評論家が、5月末頃から一斉に、『リベラル派のメディアがRobert裁判長に圧力をかけている』と糾弾し始めた。これは、彼らが、Robert裁判長が再考しているとの何らかのシグナルを受け取っていた証拠なのではないか。
やはり、アメリカ人達も何らかの違和感を覚えているようである。ただし、真実は永遠に闇の中である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「司法

7月1日 低所得者の不安 
Source :For Uninsured in Texas, Supreme Court Ruling Adds to Uncertainty (New York Times)
連邦最高裁で医療保険改革法の個人加入義務規定は合憲との判決が下された。一方で、Medicaidの拡充策について、州政府が応じない場合のペナルティ(=連邦負担分を拠出しない)は認められないこととなった(「Topics2012年6月30日 医療保険改革法に合憲判決」参照)。

この判決により、州政府側がMedicaid加入資格の拡充策に応じない可能性が高まった。医療保険改革法では、
  1. Medicaid加入資格を、2014年からFPL133%以下(現行は100%)とする

  2. 加入資格緩和に伴う財政負担について、2014〜16年は連邦政府が100%負担する

  3. その後、連邦政府負担割合を徐々に下げ、2020年以降は90%とする
としている(「アメリカ医療保険改革法案比較」参照)。

確かに、連邦政府負担割合が高く、州政府は大きな負担増とならずにMedicaid加入者を増やすことができる。しかし、当websiteでは何度も紹介しているように、州政府の財政状況はかつてないほど厳しい。2013年度の予算編成で各州議会とも四苦八苦している。そうした中、たとえわずかでも負担増を歓迎することはできない。

州別の無保険者割合のランキングを見ると、全米平均(18%、2010年)を上回っている州が、全部で14州ある。これらの州のFPL139%以下の無保険者割合は軒並み30%を超えている。この層の州民がMedicaidに入ってくることになれば、割合はともかく相当な負担額になることは間違いない。

実際、最も無保険者割合が高いTX州のSuehs保険委員長は、「Medicaidの抜本改革をしないまま加入資格を緩和すれば、州政府の負担は急増する」との懸念を表明している。

一方、個人にとっても複雑な問題である。"Exchange"が創設され、そこで保険購入すれば、低所得者層には連邦政府から補助金が提供される。しかし、所詮は所得が低い訳だから、加入する保険プランも下位とならざるを得ないし、負担感もかなり高いものとなってしまう(「Topics2012年5月5日 Silver Planの負担感」参照)。

また、重大な疾病を抱えている場合には、下位のプランに加入しても保険給付がない場合が多い。そこで、子供に疾病がある場合には、所得を落としてでもSCHIPに加入しようとすることになる。SCHIPの場合、Medicaidよりも所得基準が高く設定されている州が多いこともその背景にある。

医療保険改革もまだまだ途上にあると言わざるを得ない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル」、「SCHIP