1月31日(1) トランプ初の一般教書演説
Source :President Donald J. Trump’s State of the Union Address (the White House)
1月30日、トランプ大統領初の一般教書演説が行われた。これまでのトランプ政権の実績や様々なエピソードの紹介が多数ちりばめられていたが、当websiteが関心を寄せる分野の新たな提案は次の通り。
  1. 終末期患者に"right to try"を提供しよう。治療を求めて国中を巡るのではなく、地元で可能性のある医療を試すことができるようにしよう。

  2. 処方薬の価格を引き下げる。これは政権の最優先課題の一つだ。

  3. 法人減税で新たな雇用が生まれている今、労働の質の改善、職業訓練に投資しよう。大規模な職業訓練校を開設しよう。

  4. 有給休暇制度を普及させて働く家族を支援しよう。(連邦レベルの法制化を意図しているのかどうかは不明)

  5. 移民法改革案の4本柱は次の通り。
    1. DACA対象者を含む180万人の不法移民(子供の時に親に連れてこられた)に、審査のうえで市民権を賦与する。

    2. 国境警備を万全にする。

    3. くじ引きによるグリーンカード制度を廃止する(「Topics2017年4月19日 H-1Bビザの見直し」参照)。

    4. 遠い親戚の呼び寄せ移民を根絶する。
あまり具体的な提案はないのだが、それでも一応、大統領の考えは明らかになった。

※ 参考テーマ「一般教書演説

1月31日(2) 3社で医療費抑制
Source :Amazon, JPMorgan Chase and Berkshire Hathaway Pursue The Health Care 'Unicorn' (NPR)
1月30日、Amazon、JPMorgan Chase、Berkshire Hathawayの3社は、共同で従業員の医療費抑制と質の向上に取り組むと発表した(Press Release)。具体的にはこれから検討とのことだが、まずは技術的な解決策を検討するとのことだ。

これまでも企業連合によって医療費を抑制しようとした動きはあるものの、根本的な解決策を見出した事例はないそうだ。ただ、3社ともレジーム・チェンジの実績を持っている企業であり、先鋭的なスキームを生み出す可能性を秘めていると誰もが思うだろう。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

1月30日 Medicaid:就労義務規定の許容
Source :How Trump may end up expanding Medicaid, whether he means to or not (Washington Post)
1月11日、CMSは、これまでの運用規定を変更し、州政府がMedicaid受給要件に『就労』を加えることを認めるとの通達を発した(Opportunities to Promote Work and Community Engagement Among Medicaid Beneficiaries)。 肝となる部分は次の通り。
Today, CMS is committing to support state demonstrations that require eligible adult beneficiaries to engage in work or community engagement activities (e.g., skills training, education, job search, caregiving, volunteer service) in order to determine whether those requirements assist beneficiaries in obtaining sustainable employment or other productive community engagement and whether sustained employment or other productive community engagement leads to improved health outcomes. This is a shift from prior agency policy regarding work and other community engagement as a condition of Medicaid eligibility or coverage,12 but it is anchored in historic CMS principles that emphasize work to promote health and well-being.
州政府が就労を要件とすることを認める運用は初めてとのことである。トランプ政権になって、Medicaidにおける州政府の裁量を拡大するとの方針が示されており、今回の措置もその一環である。

この通達を受け取った州政府の側では、これまでMedicaid拡充に消極的であった共和党主導の州が、Medicaid拡充に動き出そうとしている。就労義務を課すことで、共和党保守派の議員や州知事にMedicaid拡充を容認するよう、求めやすくなったからだ。

現在、31州+D.C.がMedicaid拡充を行っており、残る19州は拡充していない。そのうち17州は共和党主導の州となっている。

Center on Budget and Policy Priorities
こうした州では、Medicaid受給資格を得るには所得が高すぎ、Exchangeでは充分なtax creditを受け取れないという"Medicaid gap"が存在する。連邦政府の特別な負担を使ってこのMedicaid gapを解消したいという動きは、民主党に限らず、共和党穏健派の中でも根強く支持されている。

上記sourceで動きがあると報じられているのは、次の州。
Utah, Idaho, Wyoming, North Carolina, Virginia, Kansas
ところが、こうしたMedicaid拡充の方向、つまりは連邦政府負担の増大の動きは、トランプ政権、連邦議会共和党幹部たちの考えるMedicaid改革の方向性とは真逆である(「Topics2016年12月2日 Medicaidに危機感」参照)。現在の共和党幹部達の考え方は、 というものだ。

裁量権の拡大を先行して一部認めたために、逆の方向に州政府が動こうとしている。トランプ政権はどのように受け止めるのだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般

1月28日 企業保険プランに満足
Source :Findings from the EBRI/Greenwald & Associates 2017 Health and Workplace Benefit Survey (EBRI)
EBRIがアメリカの医療保険制度に関する意識調査結果を公表した。ポイ加入しているントは次の通り。
  1. 医療制度はアメリカで最も重要な課題との認識が強い。
  2. アメリカの医療制度は、まあまあだとの評価。
  3. しかし、医療制度の将来については不安感が強い。
  4. 現在加入している企業保険プランについては6割強が満足している。
  5. ただし、コストについては不満が高く、完全に満足している割合は2割程度でしかない。

  6. 保険料等のコストが上昇していることから、年金や貯蓄への拠出を減らしていることが多い。
企業保険プランについて従業員の満足度が高いというのは、別の調査(HR Daily Advisor)でも明らかになっている。
  1. 過去5年間で医療保険、健康増進プログラムを改善してきたと回答した人事責任者は66%。

  2. 従業員の9割が、自社の医療保険、健康増進プログラムを支持している。
企業も従業員も、医療保険プランが人事政策上重要なベネフィットであると認識している結果である。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

1月27日 NLRB:新メンバー指名
Source :Latest Nomination Expected to Boost NLRB’s New Agenda (HR Daily Advisor)
1月12日、トランプ大統領は、NLRBの新メンバーとしてJohn Ring弁護士指名した。当然、Ring氏は共和党である。上院で承認されれば、任期は2017年12月17日から5年間となる。

加えて、議長の退任に伴ってKaplan氏(R)が新議長に昇格(2017年12月21日)、事務局長が民主党から共和党出身者に変更されている(「Topics2017年9月30日 NLRB:共和党が多数」参照)。現時点でのメンバー構成は次の通り。
【2018年1月27日時点】
役 職氏 名政 党指名者任 期
ChairmanMarvin E. KaplanRPresident Trump2017.8.10〜2020.8.27
MemberMark Gaston PearceDPresident Obama2013.8.28〜2018.8.27
MemberLauren McFerranDPresident Obama2014.12.17〜2019.12.16
MemberWilliam J. EmanuelRPresident Trump2017.9.26〜2021.8.27
Member to beJohn RingRPresident Trump(2017.12.17〜2022.12.16)
事務局長Peter RobbRPresident Trump2017.11.17〜2021.11.16
Ring氏指名が上院で承認されれば、共和党出身者主導の体制が固まることになり、政策の変更が打ち出され始めるだろう。

※ 参考テーマ「労働組合

1月26日 DACA救済策に言及
Source :Trump Says He Is Open to a Path to Citizenship for ‘Dreamers’ (New York Times)
トランプ大統領が、DACA対象者について10〜12年経過した後に市民権を賦与することについて議論していい、と発言したそうだ。一度は民主党幹部との対話の中で保護策に言及し、その後、反故にした経緯がある(「Topics2017年9月19日 DACA:民主党とディール」「Topics2017年10月10日 移民政策:ハード路線に回帰」参照)。

DACAは今年3月5日に失効する。本当の期限が刻々と迫ってきている(「Topics2017年9月7日 DACA段階的終了」参照)。そうした中、70万人の一生がかかった判断が、政治ゲームの中で行われようとしている。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

1月25日 HHS長官上院承認
Source :Alex Azar confirmed by Senate as new head of Health and Human Services (Washington Post)
1月24日、連邦議会上院は、Alex Azar氏HHS長官指名を承認した。投票結果は、賛成55、反対43。民主党からの賛成が7人、共和党からの反対が1人となった。

Price前長官が更迭されてから、実に4ヵ月近く空席だったことになる(「Topics2017年10月16日 オバマケアへダブルパンチ」参照)。巨大な歳出を扱うHHSのトップがこれだけ長く空席が続いたというのは、異常事態としか言いようがない。

ただ、このAzar氏は、HHS幹部として既に2回の経験を持っている。また、直前10年間はEli Lillyの経営陣に加わっており、HHS関連の知識と経験は豊富な人物ということだ。

上院の公聴会で、Azar氏は次のように発言している。 トランプ大統領からの圧力をかわしながらHHS行政をどれだけ進めることができるのか、注目の閣僚である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

1月24日 Cadillac Tax 2年延期
Source :Health Care 'Cadillac Tax' Delayed Until 2022 (SHRM)
1月22日、連邦議会は、2月8日までの連邦政府活動費を確保するための法案(HR 195)を可決した。大統領は即日署名し、これで連邦政府機関の閉鎖は3日間で一旦は終了した。

この法案の中には、オバマケア財源確保のための課税措置を凍結する項目が含まれている。 わずかな期間のための財源確保策に盛り込まれるとはいかにもパッチワーク的だが、経済界がこぞって反対し、連邦議会両党からも賛成を得ている。いっそのこと、廃止してしまえばいいのにと思うが、そこまで来ると面子の問題になってしまうのだろう。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル

1月23日 5つの対抗手段
Source :Recommended Actions For States To Protect Their Health Insurance Markets (Health Affairs)
昨年成立した減税法案で、個人保険加入義務は残しながらペナルティ課税を0%にすることが決まった(「Topics2017年12月21日 ペナルティ課税ゼロ」参照)。このペナルティ課税ゼロが個人保険市場に与える影響は甚大だ(CBO推計)。 上記sourceは、このような悪影響を回避するために、州政府レベルでできる対抗措置を5つ提案している。いずれも効果的かつ実現可能性が高いとしている。
  1. 個人保険加入義務を維持し、実質的なペナルティ課税を採用する。

  2. 再保険制度を設けるとともに、免責額、保険料を抑制する。

  3. 加入者保護の規定を維持し、逆選択が起こることを避ける。

  4. 保険給付内容に関する規制を維持する。

  5. 保険加入促進策を講じる。
おそらく、オバマケア反対論者は連邦法と異なる対抗措置は無効だとの訴訟を起こすだろう。こうした政策措置がどこまで広がっていくのか、時間のかかる話になりそうだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般」、「医療保険プラン