2月10日 ネットワーク拡大要請 
Source :Obamacare Insurers May Be Forced to Add Medical Providers (Bloomberg)
Exchangeで提供されている保険プランは、『保険料を下げるために、医療機関のネットワークを絞っている』ということを紹介した(「Topics2013年9月25日 Exchange低保険料の秘密」参照)。McKinseyの調査では、 こうした事態を受け、2月4日、CMSは、連邦立Exchangeに保険プランを提供している保険会社宛にレターを発出し、 との意向を伝えた。

仮にこうした措置を連邦政府が講じた場合、保険会社の反応は、次のような3つのタイプに分かれるのではないだろうか。
  1. わかりました。ネットワークの範囲を30%に広げます。でもそれだとコストがかなり高くなります。20%以上保険料を上げることにします。

  2. わかりました。ネットワークの範囲を30%に広げます。でもそれだとコストがかなり高くなります。でも保険料を大幅に引き上げることはできないでしょうから、免責額の引き上げを認めてください。

  3. ネットワークを広げておいて、保険料は上げるな、免責額の引き上げは認めませんというのではやってられません。Exchangeから撤退します。
さて、連邦政府はこうした反応への対応策を用意しているのであろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般」、「医療保険プラン

2月9日 MyRA提案の欠陥 
Source :MyRA won't close the nest egg gap. Maybe the states can (Reuters)
大統領一般教書で提案された"MyRA"に対する評価が、少しずつ出始めている(「Topics2014年2月2日 "MyRA"提案」参照)。

総体的には、『アメリカ国民、特に低所得層の貯蓄率を少しでも高めるためにはいいことがたくさん盛り込まれている』(Dallas Salisbury, president and CEO of the Employee Benefits Research Institute)との評価が一般的のようである(CNN Money)。

ただし、専門家からは、普及のための決定的な要素が欠けている、との指摘がなされている。それは、PPAに盛り込まれたような"automatical enrollment"の規定が含まれていないことである(「Topics2006年8月16日 Pension Protection Act of 2006 概要(2)」参照)。

しかし、"automatical enrollment"の規定を盛り込むためには、連邦議会の承認が必要となる。Obama大統領は、この種の制度創設について連邦議会の承認がなかなか得られないから、大統領令による"MyRA"創設を提案したのであり、そもそも"automatical enrollment"の規定を盛り込むことは不可能なのである。

加えて、上記sourceは、大統領の"MyRA"創設は、2つの重要法案の審議に悪影響を及ぼすのではないかと懸念している。その2つの法案とは次の通り。
  1. USA Retirement Fund Act - sponsored by Senator Tom Harkin (D-Iowa)

    • 連邦政府が運営する確定拠出プランを創設する。

    • 運用対象は、低コストの投資商品に限定する。

    • 退職後は、確定給付プランのような年金給付を行う。

    • 従業員10人以上の企業に、提供を義務付ける。ただし、事業主によるマッチング拠出は義務付けない。

    • 自営業者の加入も認める。

    • 従業員の"automatical enrollment"を設ける。ただし、従業員本人が参加しない選択肢を認める。

    • 従業員の拠出額は、給与の6%。

  2. "Expansion of Social Security benefits" - sponsored by Senator Tom Harkin (D-Iowa) & Senator Mark Begich (D-Alaska)

    • COLAを高めて、現行よりも物価スライドを大きくする。

    • 給付計算式を変更し、低・中所得者について、月額約$70の増額となるようにする。

    • 年金保険料計算対象所得の上限($117,900)を引き上げる。
いずれも、上院民主党議員が提案する格差是正策である。Obama大統領が本気で"MyRA"創設を進めれば、間違いなくこれら法案とバッティングすることになる。いわば民主党内部の主導権争いに発展しかねない。Obama大統領は、この問題については、民主党内との対話が求められている。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「公的年金改革

2月8日 失業給付延長法案否決 
Source :Senate Fails to Pass 3-Month Extension of Jobless Benefits (New York Times)
2月6日、連邦議会上院は、緊急失業給付(EUC)を3ヵ月間延長する法案を否決した。Obama大統領が先の一般教書演説で求めていた措置は、復活しなかった(「Topics2014年1月29日 Obama大統領も賃上げ要請」参照)。

成立しなかった大きな要因は、$6.4Bにのぼる財源について、両党の間で折り合いがつかなかったことにある(Washington Post)。この状況は、昨年末に両党が議論した2年間の予算に関する決議とその後の失業給付を巡る非難合戦と、何も変わらない(「Topics2013年12月30日 失業給付延長打ち切り」参照)。

大統領も民主党も、解決策を示さないまま延長を叫び続けているのであり、明らかに政治ショーの様相となっている。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策

2月7日 PPACAで労働供給減少 
Source :Health Care Law May Result in 2 Million Fewer Full-Time Workers (New York Times)
2月4日、CBO"The Budget and Economic Outlook: 2014 to 2024"を公表した。その中に、補論として、PPACAが経済に与える影響を推計している。 PPACAが労働インセンティブを削ぐだろうとの推計は、民主党・Obama大統領にとっては大きなダメージである。共和党は、労働需要の方に問題が生じるだろうとの論陣を張っていたが、これで供給側にも問題が発生するということになれば、ますますPPACAをやり玉にあげやすくなる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「労働市場

2月6日 連邦立Exchangeでミス多発 
Source :HealthCare.gov can’t handle appeals of enrollment errors (Washington Post)
昨日、『連邦立Exchangeのwebsiteの不具合が大きな話題になったが、そちらは徐々に収まりつつあるようだ』と書いてしまったが、どうもそうではないらしい(「Topics2014年2月5日 州立Exchangeの明暗」参照)。Websiteからの加入手続きはできるようになったものの、ミスが多発しているそうだ。

ミスの内容としては、 など、多岐にわたっているようである。その総数は、公表されていないものの、上記sourceによると、22,000件ほどのクレームが寄せられているという。これも、間違いがあることに気付いた人達だけであり、これから実際に医療機関に行ってみたら、こんなはずではなかった、という人達も出てくるだろう。

最もお粗末なのは、連邦政府の職員が記録を直接確認して訂正することができないシステムになっているため、クレームは紙ベースでしか届けられず、websiteを通じて訂正しようとすると、まったくゼロから登録のやり直しをしなければならない。

CMSは、こうした事態に対処するため、『クレームに関するヒアリングを開始する』と述べてはいるそうだが、具体的にいつからどこで、ということは決まっておらず、準備ができていないことを露呈している(Reuters)。

このような状態がずるずると継続するようでは、3月末の保険加入申請締切日も延期せざるを得なくなるのではないだろうか。いつまでも続くトラブルに、国民の苛立ちは高まっていくことだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

2月5日 州立Exchangeの明暗 
Source :Glitches in State Exchanges Give G.O.P. a Cudgel (New York Times)
昨年10月1日の受け付け開始時は、連邦立Exchangeのwebsiteの不具合が大きな話題になったが、そちらは徐々に収まりつつあるようだ。むしろ、今現在は、州立Exchangeのトラブルに国民の目が向いている。上記sourceによると、うまくいっている州立Exchangeとそうでないものの明暗がくっきりと浮かび上がっている。

中でも、MA州はショックだろう。PPACAのモデルとなるような"Connector"を既に運用していながら、システム変更によって不具合を発生してしまったのだから。

ところで、うまくいっていない上の4つの州にHawaii州を加えた5つの州では、共和党が民主党への攻撃材料を準備している。例示されているのは、Exchange責任者達の報酬や休暇に関する情報収集である。また、再選を目指す州知事にとっても厄介な政策課題であることは間違いない。

でも、本当の被害者は、加入手続きを進めたくてもなかなか進められない州民なんですけどね。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般」、「無保険者対策/MA州」、「無保険者対策/MD州」、「無保険者対策/MS州」、「無保険者対策/OR州

2月4日 下院共和党の移民制度改革案 
Source :House G.O.P. Issues Immigration Plan With Path to Legal Status (New York Times)
1月30日、下院共和党の内部会合で、移民制度改革案の基本方針が示されたそうだ。
  1. 一定の要件をクリアし、自立した生活のできる不法移民には、アメリカ滞在のための法的地位を賦与するが、市民権は賦与しない

  2. 両親によって違法な形で連れてこられた若年の不法移民には、アメリカ滞在のための法的地位と市民権を賦与する機会を設ける

  3. 移民法の執行のための強制力を確保する。

  4. 国境警備を強化する。
ポイントは下線部である。民主党の主張及び上院が可決した移民改革法と、基本的に相異する点である(「Topics2013年4月21日 超党派移民改革法案」参照)。法的地位が賦与される対象が大幅に絞られることになる。

だからといって、民主党が失望しているかというと、そうでもないらしい。むしろ、共和党が独自の案を出してくることによって、政策協議が始まる可能性の方に期待しているようだ。

両院議会がそのように動いたとして、Obama大統領がそれに満足できるかどうか。本当に移民制度改革案を実現したいのなら、両党の橋渡し、連邦議会のお膳立てをWhite Houseが行なうべきなのではないかと思う。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

2月3日 州政府版EITC
Source :States Can Adopt or Expand Earned Income Tax Credits to Build a Stronger Future Economy (Center on Budget and Policy Priorities)
このところ、"Earned-Income Tax Credit(EITC)"の話題が目につく(「Topics2014年1月20日 NY市:単身貧困者援助策を試行」「Topics2014年1月29日 Obama大統領も賃上げ要請」参照)。

上記sourceは、州政府レベルで実施しているEITCを紹介したものである。実は、州税でEITCがあるとは、この資料を読むまで知らなかった。

州政府版EITCの特徴として、次の3点が挙げられる。
  1. 州税制でEITCを組み入れるかどうかは、まさに州政府の判断次第。実際、EITCを導入している州は、25州+D.C.にとどまっている。

  2. 州政府版では、還付制度のないところが4州ある(右図参照)。

  3. 連邦税制の仕組みにのっかる形で簡素な仕組みにしたうえで、連邦の税額控除額の○%という形式を採っている州が大半である(上記source Table 1)。
上記sourceに言及はないが、連邦政府のEITCの仕組みに乗っている以上、子供のいない世帯への給付は極めて限定的になっているものと思われる(「Topics2014年1月20日 NY市:単身貧困者援助策を試行」参照)。

※ 参考テーマ「労働市場」、「解雇事情/失業対策」、「最低賃金

2月2日 "MyRA"提案 
Sources :Obama Unveils Savings Proposal for Workers Lacking 401(k) (Bloomberg)
Obama’s MyRA program seen as a modest first step to get people saving for retirement(Washington Post)
Obama大統領は、先の一般教書演説で、新たな貯蓄勘定 "MyRA" の創設を提案し(「Topics2014年1月29日 Obama大統領も賃上げ要請」参照)、早速その翌日の29日、DOTに対して創設のための大統領令を発した。

上記sourcesは、その制度概要を紹介しているので、ポイントをまとめておく。
  1. 401(k)プランのような確定拠出型プラン。

  2. 税制上の取り扱いは、Roth IRAと同様(課税後所得から拠出、運用益・受取時非課税)。

  3. プラン加入資格者は、年間家計所得が$191,000以下の被用者(単身者は$129,000以下(2/6追記))で、事業主が参加することを決めた場合(DOT)。

  4. 当初の投資額は$25以上。拠出額は月額$5以上。拠出金は事業主からの天引きによるものとする。事業主によるマッチング拠出はない。

  5. 勘定残高の上限額は$15,000。

  6. プランの投資対象は、連邦政府債券に連動する基金のみ。残高は連邦政府が保証。

  7. 引き出し制限は59.5歳まで。ただし、経済的困難者は、大きなペナルティなしに引き出しできる。

  8. プラン管理費は連邦政府負担。事業主は天引きに要する事務的コストのみ負担。
401(k)プランと較べると、マッチング拠出がない、残高上限額が低いなど、魅力に欠けることは否めないが、401(k)プランさえ提供されていない従業員にとっては、一つの選択肢として歓迎されることだろう。

ただし、ここでも疑問が生じるのが、大統領令に基づく制度創設である。特に、所得税に関する扱いが入っている以上、連邦議会の承認が不可欠なのではないだろうか。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン

2月1日 CA州不法移民免許証の実務 
Source :Immigrant driver’s licenses prompt concerns about required documents, legal risk (Sacramento Bee)
CA州の不法移民に免許証を発行するための法案が、昨年9月に成立した(「Topics2013年9月16日 CA州:不法移民に運転免許証」参照)。この州法を受けて、現在、Department of Motor Vehicles (DMV) が、発行のための実務を詰めている。

しかし、法案成立直後から、同法の施行に疑問が生じていた。その疑問とは次の4点(「Topics2013年9月30日 不法移民免許証への疑問」参照)。
  1. 完全な免許証ではなく、連邦政府関係では利用できない。
    ⇒これは、就職活動、公的扶助、投票権登録などには利用できないことを意味する。

  2. 免許証発行に居住証明が必要となる。
    ⇒公共料金請求書、家屋の賃貸契約書などでよいとされる。しかし、これで本当にそれが申請者本人であるかどうか、本当にそこに居住しているのかどうかを確認するには大変な作業が必要となる。

  3. 完全免許証であることを示す"DL"(for driving license)ではなく、それとは異なるイニシャル(例えば"DP"(for driving privilege)を免許証番号の前に記すことになる。
    ⇒これにより、連邦政府関係の手続き等では利用できないことになる。そして、次の懸念につながる。

  4. 強制国外退去対象者リストになり得る。
    ⇒これは当websiteで何度も言及してきたところである。
やはり、実務上の観点から、DMVが大きな課題として位置付けているのが、上記2.と3.だそうだ。2.の居住証明について、公共料金の請求書は、2次証拠としては有効だが、本当にそこに居住しているかどうかを証明する力はない、というのがDMVの見解である。

管理人の経験でも、MD州で運転免許証を取得する場合、MDAに住居証明を提出しなければならなかった。その際、証明書のメインは『住居の賃貸契約書』で、公共料金請求書、自動車保険証などは副次的な証明書という位置付けであった(「ベセスダ生活情報/公共サービス」参照)。CA州のDMVも同様の立場に取っているのである。

また、3.のマークが付くことにより、差別を受けるのではないか、4.の強制国外退去につながるのではないか、との懸念は、払拭しようがないのではないか。連邦レベルでIDとして使えるものと区別しろ、という要請は、連邦政府側から下ろさない限り、州政府としてはどうしようもなかろう。

このように、カッコよく成立はさせたものの実務がついて来られない立法は、関係者を不安または不安定にさせることになる。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者