2月10日 推計無保険者数が増加 
Source :Obama's Health-Insurance Expansion Eroding, CBO Projects (Bloomberg)
CBOが、PPACAに関連する現時点での推計値を公表した。上記sourceがポイントとして指摘しているのは、次の2点。
  1. PPACAの本格施行により、2017年時点までに無保険者が保険に加入する人数を2,700万人と見ているのだが、これが以前の推計値よりも減少しているのである。
    2010年時点2011年時点2012年時点(今回)
    3,200万人3,400万人2,700万人
    つまり、PPACAの効果が当初期待したほどではなくなっている、ということである。これは、当websiteで何度も紹介している通り、

    1. 州立Exchangeの創設が想定外に少なく、連邦立Exchangeの準備がほとんど進んでいない

    2. Medicaidの拡充を決定した州は少なく、決定した州でも法的準備はほとんど進んでいない

    といった事情を反映したものである。

  2. 企業が提供する保険プランに加入する人数は、2018年時点で800万人減少すると推計している。この推計値は、2010年当時の推計300万人から大幅に増えている。Exchangeを利用しようという動きがだんだん現実味を帯びつつあるのかもしれない。実際、Exchangeを通じた保険加入者数推計は、2010年時点の2,400万人から2,600万人に増えている。
このように、PPACAによる無保険者対策は、ExchangeとMedicaidに負うところ大である。しかるに、それらの準備が進んでいないことは深刻であり、今年10月時点でアメリカ社会に混乱を引き起こす可能性がある。

なお、少し脱線するが、今頃になって、労組は『PPACAはうまい取引ではなかった』と後悔しているらしい(NCPA)。その最大の要因は、PPACAの規定により、保険給付の上限設定が禁止されたことだそうだ。

それまでは、診療や処方薬などに関する保険給付に上限を設けていた。これは給付が際限なく増えることを抑えるための手段であったが、これが禁止されたために、労組従業員の負担する保険料が上昇することになるのだ。

あれだけ組織を挙げてPPACAを推進していたのに、今さら何を、という感じだが、『コストを考えない政策要求はすべきではない』という教訓として記憶しておこう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル

2月9日 "Navigator"の課題 
Source :For insurance exchanges, states need ‘navigators’ — and hiring them is a huge task (Washington Post)
"Exchange"で提供される保険プランには、"Navigator"と契約することが求められている。
"Require qualified health plans participating in the Exchange to meet marketing requirements, have adequate provider networks, contract with essential community providers, contract with navigators to conduct outreach and enrollment assistance, be accredited with respect to performance on quality measures, use a uniform enrollment form and standard format to present plan information." (Kaiser Family Foundation)
一部の人々はフライトの予約を取るようにオンラインで保険プランを選択できるが、多くの国民にとって無数の選択肢の中から適切な「プラン+オプション」を選択するのは難しい。そこで、選択のためのヘルパーとしてnavigatorの役割が期待されているのである。

ところが、このnavigatorという職種は新しいものであり、人数の確保、雇用コスト等々、様々な課題が残されており、各州政府は頭を悩ませているそうだ。以下、上記sourceで示されている課題を整理しておく。
  1. まず、大量の人数が必要となる。CA州だけでも21,000人は必要とされている。CO州は、24時間対応のためには15万人と契約しなければならないと考えている。

  2. また、それだけの人数を雇うための財源が必要になる。Exchange設立当初は、連邦政府からの補助や州政府の財源も期待できるが、中長期的には、保険会社からの契約金、つまりは個々人の保険料で実質負担することになる。

  3. Navigatorの所掌範囲が明確になっていない。Navigatorが有償で選択プランを推奨したりすると、それで手数料を稼いでいた保険ブローカーは仕事を失ってしまう。

  4. 連邦立exchangesの場合、navigotar制度の確立は連邦政府の責任となるが、その準備は遅々として進んでいない。

  5. Navigatorについて厳しい資格制度を設けて、質を確保しようとしている州もある。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル

2月8日 下院共和党のスタンス 
Source :G.O.P. Open to Residency for Illegal Immigrants (New York Times)
5日、いよいよ移民制度改革に関する議論が連邦議会下院で開始された。そこで浮かび上がってきた下院共和党のスタンスのポイントは次の2点。
  1. 米国内に滞在する不法移民に対して、市民権を賦与するのではなく、居住権を賦与する。

  2. 移民制度改革法案は、少しでも制度改革が進展するよう、分割法案にして審議を進める。
いずれも、民主党にとっては簡単にのめる話ではないが、1.はブッシュ(Jr.)大統領の頃から根強くある発想で、住むことは認めるけど、一般国民と同様の権利はあげられない、というものである。まずはジャブの応酬、というところであろう。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

2月7日 Solicitor Generalの悩み 
Source :Obama’s Shifts May Affect U.S. Legal Plan on Gay Marriage (New York Times)
今年は、同性婚に関する連邦最高裁の判決が示される予定で、アメリカ社会にとって重要な年となるはずである。

その判決の前に、連邦最高裁で行なわれる意見陳述について、連邦のSolicitor Generalはどういう姿勢で臨むべきか、対応に悩んでいるのではないか、と上記sourceは伝えている。

意見陳述の具体的なスケジュールは次の通り。

 @3月26日:CA州のProposition 8の有効性について

 A3月27日:DOMAの合憲性について

今のところ、Solicitor Generalは、後者のDOMAについては意見書を提出して意見陳述する予定である。当然、Obama政権のもとでは、『DOMAは違憲である』と主張することになろう。

一方、前者のCA州のProsotion 8については、当事者ではなく、意見を提出する予定もない。従って、そのまま静観するという選択肢もあるのだが、同性婚推進派からは、Proposition 8は無効であるとの論陣を張ってくれ、と要請されている。Obama政権としても、同性婚推進の片棒を担ぎたいところである。

Solicitor Generalの悩みは、Obama大統領の立ち位置の変化である。

上記sourceによれば、昨年5月のテレビインタビューで、Obama大統領は、『同性婚問題は連邦政府の課題ではなく、各州政府に委ねられるべき課題である』と明言していた。ところが、先に紹介した通り、2期目の就任演説で、Obama大統領は、同性婚問題を州政府の課題として片付けるような素振りは一切見せず、むしろ積極的に同性カップルに権利賦与していくべき、とのメッセージを発した。

州政府の課題として位置づけたままであれば、@は州民の判断であるから静観、Aは違憲と主張、ということである。しかし、これでは、CA州の同性婚禁止を認めてしまうことになる。結果において、矛盾した主張を展開することになってしまう。

一方、連邦政府が積極的に取り組むのであれば、@についても無効と主張することになる。これで、同性婚推進という一定の方向性を出すことができるようになる。 しかし、そうなると、「連邦政府は州民投票に介入するのか」というより大きな、そして根源的な問題に突き当たることになる。これでは、アメリカ社会を分裂される切っ掛けとなった「医療保険制度改革」と同様の対立構造に入り込んでしまうことになる。

連邦政府の権限なのか、州政府の権限なのか。根深い問題をアメリカ社会はどのように解決していこうとするのだろうか。

※ 参考テーマ「同性カップル

2月6日 大統領は二兎を追うのか 
Source :In immigration debate, same-sex marriage comes to the fore (Washington Post)
移民制度の抜本改革を議論しようという機運が高まっている。Obama大統領は、その移民制度改革の議論の中で、同性婚問題も含めて議論しようとしている。

先に紹介したように、移民制度改革に関する大統領演説で、同性カップルに関する直接の言及はなかったものの、White Houseが配布した"Fact Sheet"では、明確に同性カップルを異性カップルと同様に扱うよう求めている(「Topics2013年1月30日 超党派の移民制度改革骨子案」参照)。

同性婚推進者はこうした動きを歓迎しているが、ヒスパニック団体は複雑な心境だ。同性婚問題が絡むことで、移民制度改革論議が頓挫する可能性があるからだ。

実際、gang of eight senetorsのマケイン上院議員は、『移民制度改革論議に社会問題を突っ込めば、間違いなく議論は停止する』と警告を発している。

移民政策に同性婚を絡めて二兎を追おうとするのか。おそらく、今月12日予定の一般教書演説でObama大統領の方針が明らかにされるだろう。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「同性カップル

2月5日 PPACA:州政府は準備不足 
Source :Only 11 States and the District of Columbia Have Taken Action to Implement the Affordable Care Act's 2014 Health Insurance Market Reforms (The Commonwealth Fund)
上記sourceでは、PPACAの重要な要素について、各州が州法または規則の設定により執行の準備ができているかどうかを確認している。その結果、完全に準備ができているのはCT州のみ。不完全ながらもいくつかの項目について準備ができているのは、たった11州+D.C.という。
もっとも、調査時点は昨年10月で、大統領選の行方を見守っていた州政府は、まだまだ本気で準備をしていなかったという面もあることを考慮しておく必要がある。。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル

2月4日 ペナルティ免除 
Sources :White House Proposes Individual Mandate Rules (HealthLeaders Media)
Federal Rule Limits Aid to Families Who Can’t Afford Employers’ Health Coverage (New York Times)
1月30日、HHSとIRSが、PPACAに基づく無保険者へのペナルティについて、免除に関する細則を公表した。以前に一度、大まかなところは一度紹介しているが、新たな要素も加わっているので、改めてまとめておく(「Topics2012年9月23日 Penalty税推計額」参照)。 今回の細則公表で、新たに示されたのは、上記の1.〜3.の部分である。1.では、個人分の保険料が対象になるということで、ペナルティ免除の枠はかなり狭まった印象である。2.は、Medicaid拡充を渋っている州政府に対する圧力であろう。3.はちょっといただけない。まるで抜け穴を自ら示しているような印象である。

これで、CBOが先に示したペナルティ対象者が2%に達するとは到底思えない(「Topics2012年9月23日 Penalty税推計額」参照)。PPACAが規定したペナルティの効力は相当低下するものと思われる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル

2月3日 給料が伸びない理由 
Source :Yes, Inflation Is Low. So Is Workers' Pay (Businessweek)
『給料が増えない』。アメリカでも同じようにため息をついているサラリーマンが多いようだ。
Wages and Salaries (private sector)


Total Benefits


Total Compensation
上の図の一番上が、まさに給料にあたるところで、それでも1〜2%は増えている。ただし、インフレ率や成長率からみると、それほど高い伸びとはなっていない。

その理由として、上記sourceは3点挙げている。
  1. 消費者物価上昇率が低い。
  2. 失業率が高い。
  3. ベネフィットの伸びが比較的高い。
最後のベネフィットの伸びが高い理由は、言わずもがなの医療コストである。従って、雇用に要するコストは、給料以上の伸びとなっているのである。

従業員にとっては『給料が増えない』が、企業にとっては雇用コストは増えているのである。これが、失業率の高止まりの一因ともなっている。

※ 参考テーマ「ベネフィット」、「労働市場

2月2日 混迷を極めるStockton市 
Source :CalPERS Issues Statement on City of Stockton Court Ruling (CalPERS)
1月30日、CA州の破産裁判所は、保険会社からの支払い請求について、破産裁判所の承認を得る必要はない、との判決を下した(「Topics2012年12月26日 四面楚歌のStockton市」参照)。要するに、当事者同士で決着をつけろ、ということである。言ってみれば、Stockton市は、破産裁判所からも見放されたのである。

これに喜んだのがCalPERSである。『Stockton市の勝利』とまで賞している。形勢不利と思っていた破産裁判所で、債権者の請求を排除し、交渉権を確保したようなものだからだ。

これで、地方債の格付けへの影響がどう出るかだ。

※ 参考テーマ「地方政府年金

2月1日 医療保障コストの開示 
Source :To Open Eyes, W-2s List Cost of Providing a Health Plan (New York Times)
アメリカでも、いよいよ納税申告の季節となった。4月15日まで、皆しかめっ面をしながら、書類作成に臨むことになる。

そして、今回、いよいよ納税の面でも、医療保険改革法(PPACA)の規定が発効する。

"Code DD. Cost of employer-sponsored health coverage. Use this code to report the cost of employer-sponsored health coverage.
The amount reported with code DD is not taxable."
上の書類は、"W-2"と呼ばれる書類で、日本でいえば、企業側が発行する源泉徴収票である。その右下の方に、管理人が勝手に薄いオレンジの色を塗った"Box 12"という欄がある。この一つに『DD $・・・・・』と記載されていれば、それは、企業側が負担した医療保障コストの年間総額である。

上記sourceによれば、企業から医療保険プランの提供を受けている従業員は、自分にかかっている医療保障コストについて全く知らないという。そして、この欄を目にして、初めてその大きさを知り、企業が提供する医療保険プランの大切さを改めて認識するのではないか、というのである。

PPACAの狙いもまさにここにある。医療保障コストがいかに大きく、しかもそれが所得控除となって課税されておらず、社会的な負担になっていることを充分認識してもらうことが、W-2に記載する目的である。

穿った見方をする人は、これで課税対象にする基礎ができた、と理解しているようだ。医療保障コストの重さが認識されず、医療費全体の抑制も進まないということになれば、そういう政策手段もあり得るだろう。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル