11月10日 アメリカ社会の強い党派性 
Source :ポピュリズムの本質 (谷口将紀 水島治郎)
筆者は、トランプ政権の誕生の背景には、弱い政党組織と強い党派性という、欧州、日本といった他の先進国にはないアメリカ独自の政党のあり方が大きく作用していた、と結論付けている。その中で、特に印象に残った指摘を4点まとめておく。
  1. 社会集団としての党派性が先鋭化している。事例として、『1958年の段階では33%の民主党員が自分の娘に民主党員と結婚してほしいと願い、25%の共和党員が自分の娘に共和党員と結婚してほしいと答えていた。ところが、2016年には、…民主党員の間で60%、共和党員の間で63%になっている。』ことを挙げ、政党支持者が別の政党支持者を『自分とは価値観が違う異質な社会集団として捉えるようになってきているとの証拠』としている。結婚する場合のお互いの価値観は重要だが、アメリカ社会においてこれほど大きな位置づけになっているとは驚きだ。一方で、自分が働いている職場の経営者に政治的スタンスの明確化を求める動きがある事も、こうしたことから頷ける事なのかもしれない(「Topics2018年10月29日 職場の政治論議」参照)。

  2. 共和党の中で、妥協を許さないイデオローグ的な派閥が勢力を伸ばしている。『民主党においては「妥協を行って物事を前に進めるべき」だと回答している活動家が8割近く存在するのに対して、共和党の活動は出そう回答したのは半分の4割しかいない。その一方で「原則を何が何でも貫くべき」だと考えている共和党活動家は6割近く存在するのに対し、民主党では2割に満たない…。』

  3. アメリカでも無党派層と言われる集団は増えている。しかし、『いずれかの政党によった態度(※leaning)を示している人たちを無党派層から除くと、実は無党派層の数は増加しておらず、いずれかの政党によっている「隠れ政党支持」の無党派層がその数をましているだけ…。…アメリカにおいては…政治不信が社会的なアイデンティティに裏打ちされた党派性を解体するにはいたっておらず、むしろ党派対立の激化は有権者において反対政党を敵とみなすような「ネガティブな党派性」を助長している部分がある。』

  4. 「人種的な憤懣」も政党間対立に沿って形成されていた。…人種間の緊張関係を反映して、ヒスパニックや黒人は民主党支持、白人は共和党支持の割合が高まっている。
アメリカ社会では、多様性への寛容度が確実に低下して、融和の余地が狭まっている。遠因は『9/11』のような気がする。

※ 参考テーマ「政治/外交」、「人口/結婚/家庭/生活

11月9日 服装規定と差別訴訟
Source :Strict Dress Codes May Lead to Discrimination Claims (SHRM)
上記sourceでは、企業内の服装規定について紹介している。一般的な服装規定を定めることはできるが、あまり厳格に施行しようとすると、差別行為として訴えられる可能性があると述べている。

当websiteでも"Hijab"禁止が違憲と判断された事件を紹介したことがある(「Topics2015年6月3日 Hijab事件:最高裁が差し戻し」参照)。上記sourceで紹介されている例では、レズビアンの女性が男性的な服装をしていることを企業が止めさせようとしたため、女性が性的指向に基づく差別だとして訴訟を起こした。

他にも、州法でそうした行為を禁止する州が20以上あるし、EEOCも注意喚起している。

世の中全体がカジュアル志向が強まっており(「Topics2017年6月22日 夏服規定」参照)、服装規定を設けること自体、かなり慎重に行わなければならないようだ。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

11月8日 中間選挙結果
Source :Pelosi: Democrats 'Have A Responsibility To Seek Common Ground' (NPR)
上記sourceの通り、中間選挙において下院の多数派を民主党が取り返した。久しぶりにPelosi氏が表舞台に立つことになるのだろう。 今回の選挙で、民主党の州知事が増えたことによる影響が最も大きいのではないか。

※ 参考テーマ「中間選挙(2018年)

11月7日 自治体職員年金格差拡大
Source :Stability in Overall Pension Plan Funding Masks a Growing Divide (Center for Retirement Research@Boston College)
上記sourceでは、州政府等の自治体職員年金の積立比率について、2001年以降のトレンドを分析して紹介している。ポイントは次の通り。なお、積立比率については、旧会計基準であるGASB25を使用している(「Topics2012年5月17日 新開示ルールのインパクト」参照)。
  1. 全自治体職員年金プラン総計の積立比率は72.0%となり、2016年から大きな変化はない。しかし、全体のトレンドとしては右肩下がりとなっている。
  2. 積立比率の高い所、低い所、中位の所と3つのグループに分けてトレンド見てみると、様相が変わってくる。
  3. 高位グループの平均積立率は、2010年代に入って90%前後で安定しているのに対し、低位グループは、悪化の一途を辿っている。
  4. こうした積立比率格差拡大の要因として、次の3つについて検討を加える。

    1. 給付水準について比較してみると、3グループとも大きな違いはない。直近では高位グループの方が給付水準が高くなっている。ここから、給付水準は、積立比率の格差拡大要因とはなっていない。
    2. 次に、積立比率改善に向けた規律はどうか、比較してみる。規律の度合いを示す計算式は、
      実際の政府拠出額/{要支給額の現在価値+積立不足償却額(30年で償却と仮定)}
      とする。すると、高位グループの拠出割合は95%にもなり、規律が守られていることが窺える。一方、低位グループでは70%台しかなく、規律が守られていない。
      こうしたことから、規律の高さが格差拡大の要因となっていると見られる。

    3. 投資効率を比較してみると、いずれのグループも想定利回りを下回っているが、高位グループほど投資効率が高い。
      投資効率の違いも格差拡大の要因となっている。
連邦公的年金だけでなく、一部の自治体年金プランは、持続可能性に疑問符が付いている。

※ 参考テーマ「地方政府年金

11月6日 CalSavers始動へ
Source :State-run retirement savings plan ready to launch (Calpensions)
Ca州の退職貯蓄プランが間もなく始動する(「Topics2016年10月2日 CA州知事がSecure Choice法案署名」参照)。以前、概要は紹介したが、今回、さらに詳細が固まったところをまとめておく(「Topics2016年4月1日 CA州退職貯蓄プラン実現へ」参照)。
  1. 名称:CalSavers

  2. 制度加入期限:
    2019年7月1日:任意加入開始
    従業員100人以上の企業:2020年6月30日までに加入
    従業員55〜99人の企業:2021年6月30日までに加入
    従業員5人以上の企業:2022年6月30日までに加入
  3. 従業員の拠出率上限:給与の5%から始めて、1年に1%ずつ引き上げ、最大は8%。拠出率は従業員が任意に変更可能。
11月8日に最終規則案が公表され、パブリックコメントに付される。最終規則案が承認されれば、11月9日に施行となる予定だ。

このCalSaversに対しては、3つの反対が挙がっている。
  1. 退職貯蓄プランの強制提供は、連邦法のERISAに違反している。

  2. 連邦年金制度が既にあり、他にもたくさんの選択肢がある中で、退職貯蓄プランを強制する必要はない。また、CalPERS、CalSTRSともに投資実績が低い。

  3. CalSaversへの自動加入は、任意の制度ではなく、従業員個人の退出だけが任意で認められているだけで、ERISAの適用外とはならない。
それでも制度の施行は近いようだ。

※ 参考テーマ「地方政府年金

11月5日 センサス訴訟始まる
Source :How The 2020 Census Citizenship Question Ended Up In Court (NPR)
2020年国勢調査に『市民権の有無』を問う項目を入れるかどうか、いよいよ裁判所での審議が始まる。センサス実施主体の商務省は、ロス商務長官のイニシアティブにより、本件項目を入れようとしているが、20以上の自治体が項目を入れることに反対し、現在、6件の訴訟が行われている(「Topics2018年3月30日 不法移民の炙り出し」参照)。今週から、NY市による訴訟の審議が開始される。

上記sourceでは、これまでの関連事項を時系列で紹介している。また、センサスによる影響が及ぶと思われる項目についても紹介している。
  1. 連邦議会下院の議席数の割り当て

  2. 大統領選の代理人数の割り当て

  3. 州、自治体における選挙区割り

  4. 連邦政府負担金(約$800B)の分配 ⇒ 学校、道路、公共施設・サービス等
選挙絡みなら不法移民には投票権がなく、しっかりと確認した方がよいと思われる。一方、公共サービスに関する連邦政府負担の話になると、不法移民がセンサスに回答してくれなくなると、必要な公共サービスができなくなる可能性が高い。これは、不法移民だけでなく、その地域に住むアメリカ市民にとって不利益となる。

アメリカ社会は結構大きな岐路に立っていると思われる。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「人口/結婚/家庭/生活」、「政治/外交