7月31日(1) VEBAの退潮 
Source :What's Next for VEBAs? The Impact of Declining Employer-Provided Health Care Coverage and the Affordable Care Act (Pension Research Council@The Wharton School of the University of Pennsylvania)
上記sourceは、VEBAの変遷、最近の変化、将来を丁寧に簡潔に説明している。ポイントは次の通り。
  1. 退職者医療保険プランの減少

    企業が提供する退職者医療保険プランは減少している。その理由は主に次の2つ。
    1. FAS 106により、将来にわたる債務認識をしなければならなくなった。
    2. 医療費の増加率が高い。

  2. 伝統的なVEBAと"Stand-Alone"VEBA

    「Topics2009年3月24日(1) VEBAの功罪」参照。

    注:"Stand-Alone"VEBAの典型例はUAWとBig3が設立したものだが、その下敷きになったのが、2005年のGMとUAWの交渉で創設された伝統的なVEBAであったとは知らなかった。(「Topics2005年11月14日 GMの労使合意成立」参照)

  3. VEBAの減少
    VEBAの数は1993年にピークを打った後漸減していたが、2010年3月のPPACA成立により、大きく減少した。

  4. PPACAのインパクト

    PPACAに盛り込まれた規定のうち、次の諸点がVEBAに打撃を与えたものとみられる。

    • "Exchange"の創設:65歳未満の個人が保険加入でき、しかも保険料補助金が準備される市場が設立された。企業としては、独自の退職者医療保険プランを用意するインセンティブが減退した。

    • "Cadillac Tax":2018年から課税開始となるため、医療保険プラン全体の見直しは必至で、その中で退職者医療の見直しも課題となる。

    • Exchange保険料の支払い禁止:FSA、HRAと同様、VEBAからExchange保険料を支払うことが禁止された。これは、保険料補助金(Tax Credit)を受け取って税制優遇の二重取りになることを防止するための措置である。

  5. VEBAの今後

    企業から医療給付債務をはずし、将来給付の確実性を高めることができるVEBAの役割は依然として重要なものの、退職者医療保険プランの提供が将来的には絞られてくる中で、その数の漸減は続くだろう。
※ 参考テーマ「VEBA

7月31日(2) 下院:大統領弾劾準備完了 
Source :Providing for authority to initiate litigation for actions by the President or other executive branch officials inconsistent with their duties under the Constitution of the United States. (H.RES.676)
7月30日、大統領を提訴するための権限を下院議長に賦与するとの決議案が、下院で可決された。投票結果はほぼ党派別だが、5人の共和党議員が反対票を投じた。

当面は、まずPPACAの執行遅延措置に焦点を絞って提訴の準備を進めるものとみられる(「Topics2014年7月19日 下院が大統領告訴を検討」参照)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「中間選挙(2014年)

7月30日 年金・Medicareの財政見通し 
Source :Statement of Secretary Lew on the Release of the Social Security and Medicare Trustees Reports (DOT)
7月28日、公的年金、Medicareに関する財政見通しが公表された(「Topics2013年6月2日(1) 年金・Medicareの財政見通し」参照)。ポイントは次の通り。 当面のMedicare改革により、枯渇の事態は少し遠避けることができたものの、抜本的な改革なしにはカタストロフィは避けられない状況であることは変わらない。

それにしても、このところ、発表時期が少しずつ後ろ倒しになっているのが気になる。

※ 参考テーマ「公的年金改革」、「Medicare

7月29日 保険加入者への医療支出 
Source :Medicare’s Spending per Beneficiary Increased Twice as Fast as Employer-Based Plans’ in Ten Years (NCPA)
上記sourceは、2012年における保険プラン加入者一人当たりの医療支出水準について、負担者別に推計をしている。ポイントは下図の通り。
感想をいくつか。 ※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「Medicare」、「無保険者対策/州レベル全般

7月28日 Exchange移行で労使対立 
Source :Most employees fear shift to exchange coverage (FierceHealthPayer)
『企業提供保険プランをExchnageに移行する。』企業側はそんな思惑を秘めているが、従業員側はそのような移行に拒否感を示している。上記sourceのポイントは次の通り。
  1. 調査対象の63%が、企業が提供する保険プランをExchangeに移行することに対して、懸念を抱いている。

  2. また、51%が、Exchangeへの移行は保険加入にネガティブな影響をもたらすと考えている。その最大の要因は、Exchangeで提供されている保険プランがカバーする医療機関が絞られていることである。

  3. IRSが保険提供をしない企業に対するペナルティを強化することを公表したが、従業員側の懸念は薄らいでいない(「Topics2014年5月29日 企業のプラン提供義務を強化」参照)。

  4. 現在の勤め先がExchangeへ移行することになれば、52%が「真剣に転職を検討する」としている。

  5. 一方、企業側は、「2020年までにExchangeに移行する」と答えているのが、S&P 500社のうち90%を占めている。
大企業のほとんどがExchangeに移行させていれば、保険プランを提供しているような転職先を探すのも難しくなるような気もするが・・・。

やはり、2018年の"Cadillac tax"の開始がポイントになりそうである(「Topics2014年4月28日 企業提供プランの将来」参照)。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

7月27日 不法移民権利賦与拡大案 
Source :White House pursuing plan to expand immigrant rights (Los Angeles Times)
以前、、『子供だけで国境まで行けばアメリカ政府は入国許可を出してくれる』との噂を信じて、大量の子供達が国境に集まってきていることを紹介した(「Topics2014年7月3日 移民制度改革法案頓挫」参照)。その人数は、昨年10月以降、57,000人に達しているという。

Obama政権は、彼らを含めた不法入国予備軍を本国に送り返すことに注力する一方、国内で既に暮らしている不法移民に賦与する法的地位を拡大することを計画している。現在検討の対象となっているという案は、次の2つ。
  1. アメリカ市民の親に暫定的な法的地位を賦与する。

    これにより、アメリカで生まれた不法移民の子供達はアメリカ市民になっているため、その両親にも法的地位を与えるというもので、これにより、合法的に就労できるようにするということだ。この措置が採られると、約500万人に暫定的にせよ法的地位が賦与されることになり、1,100万人いるといわれる不法移民の半分近くが法的地位を獲得できることになる。

  2. 国外退去延期令の対象者の親に暫定的な法的地位を賦与する。

    国外退去延期令は、間もなくその執行期間の終了を迎える(「Topics2012年6月17日 若い不法移民を保護」参照)。その延長に加えて、国外退去延期令の対象となった若者の親にも暫定的に法的地位を賦与するものである。こちらは若干対象範囲が狭くなるが、既に52万人が延期令対象となっているので、100万人単位が法的地位を獲得することになる。
法的地位のある子供の親なんだからもう認めようではないか、という考え方である。おそらくアメリカ国民の納得性も高いのではないかと思うが、問題はこれらの措置がすべて大統領令に拠っている所である。共和党は猛然と反発していて、大統領に対する弾劾も検討すると公言している。

何よりも、不法移民の法的地位が『暫定的』で『不安定』であることが、社会不安、雇用不安につながっていく。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

7月26日 保険料補助金に2つの判決 
Source :New Questions on Health Law as Rulings on Subsidies Differ (New York Times)
7月22日、PPACAが規定する保険料補助金(tax credit)に関して、2つの控訴裁判所が異なる判決を下した。
DC控訴裁判所小法廷(2-1)PPACAで規定している保険料補助金は、州立Exchange加入者に限定されている。
IRSには、連邦立Exchange加入者に保険料補助金を提供する権限はない。
第4控訴裁判所小法廷(3-0)保険料補助に関するPPACAの規定は曖昧で、何通りもの解釈が可能である。
連邦立Exchange加入者に保険料補助金を提供することは、IRSの裁量権の範囲内である。
Exchangeの保険料補助金はPPACAの肝の一つであり、州立Exchangeが想定ほど立ち上がらず、連邦立Exchangeに頼り切っている現状で、DC控訴裁判所の判決が通ってしまうと、その影響の大きさは計り知れない。

連邦政府(司法省)は、直ちに大法廷の開催を要求する予定である(Kaiser Health News)。大法廷になれば、裁判官の構成は、民主党指名が過半(7-4)となり、判決が覆る可能性が高くなるからだ。

同日に真逆の判決が出たことのインパクトは大きいが、現実の制度運用に影響が出ることはないだろう。PPACAの制度設計上、保険料補助金を州立Exchangeだけに出して連邦立に出さないということが予め意図されていたとはとても思えない。加えて、仮に連邦最高裁まで上がって判決が出る時(2015年初夏)には、2年目のExchange保険加入が終わり、3年目の保険プラン申請・認可が行われている最中である。そんな時に、連邦最高裁が現場を大混乱に陥れるような判決をする筈がない。

まあ、訴訟社会であるアメリカの一つのお話として記憶しておけばよいのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

7月25日 ネットワーク規制強化 
Source :To Prevent Surprise Bills, New Health Law Rules Could Widen Insurer Networks (New York Times)
Exchange保険プランが提供する医療機関ネットワークに馴染みの医療機関が含まれていない、適切な医師がいない、といった不満が数多く表明されている。保険料を抑制するためには仕方ないとの意見(「Topics2014年3月1日 ネットワーク絞込み有益論」参照)はあるものの、行政府はこうした不満に応えるため、ネットワークに関する規制を強化しようとしている。

当初は、ネットワークに含まれていない医療機関でも保険の対象にしてはどうかという「ネットワーク外給付の義務化」を模索したが、いずれの州も断念している(「Topics2014年5月1日 NY州:ネットワーク外給付を義務化せず」「Topics2014年5月2日 WA州:ネットワーク内給付を堅持」参照)。その代わり、ネットワークに含めるべき医療機関の数や要件を定めることで、ネットワークに含まれる医療機関を増やし、加入者の選択肢が広がるようにしている。 一方、連邦政府では、Medicare Advantage plansのネットワークが適切かどうかを判断するノウハウ、具体的にはソフトウェアを開発している。そこには、郡の人口、人口密度に応じたプライマリーケア医師・専門医の最低人数、医療機関までの距離と所要時間などをチェックする機能が含まれている。連邦政府は、このソフトウェアを応用して、連邦立Exchangeで提供されている保険プランのネットワークが適切かどうかを判定しようとしている。

その判定基準の中に、『"essential community providers"の30%をネットワークに含める』という規定が入ることになりそうだ、との観測が出ているのである。

ネットワークを広げれば保険料は上げられる。今後数年は、この論議が続けられるだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/NY州」、「無保険者対策/WA州」、「無保険者対策/その他州

7月24日 Detroit市:退職者が賛成 
Source :Detroit Retirees Back Pension Cuts by a Landslide (AP)
7月21日夜、Detroit市職員年金給付削減案に関する退職者の投票結果が公表され、圧倒的多数で賛成となった。 過去の交渉内容を見れば、今回の削減案は極めてマイルドなものに後退している。これが賛成多数となった要因だろう。

しかしながら、これでDetroit市の再建計画は大きく前進した。おそらく、破産裁判所の認可は下りることになるだろう。

※ 参考テーマ「地方政府年金

7月23日 LGBT差別禁止令 
Source :No Exemption for Religious Groups in Obama Order on LGBT Hiring (Businessweek)
7月21日、再びObama大統領が政策推進のための大統領令を発した。連邦政府の請負業者に対し、LGBTに関する差別を禁止するという内容だ。

今回の大統領令では、宗教団体などに関する例外規定は一切含まれていない。ただし、既存の差別禁止令に追加する形式と採っているため、既存の禁止令に含まれている例外規定は有効との見方もあり、今後の議論になりそうである。

連邦議会下院共和党が、大統領令の乱発に反発して大統領を告訴しようとしている最中の大統領令である(「Topics2014年7月19日 下院が大統領告訴を検討」参照)。大統領と議会の間の決裂は決定的のようである。

※ 参考テーマ「同性カップル

7月22日 労働の公的負担 
Source :A Comparison of the Tax Burden on Labor in the OECD (Tax Foundation)
労働に賦課される公的負担は、通常、個人所得税と社会保険料である。アメリカの場合には、それぞれ"individual income tax"、"payroll tax"が相当する。

この労働に賦課される公的負担について、OECD加盟国の中で比較したのが上記sourceである。ポイントは次の通り。 これについて、気付きを2点。
  1. アメリカの労働の公的負担には、現役世代の医療保険料が含まれていない。ここで比較対象となっているのは雇用者であり、間違いなく医療保険料は負担しているはずなので、そこは充分に考慮すべきである。

  2. 上図Figure 2からわかるように、日本の労働に対する所得税の負担が極めて低い。これは韓国も同様である。所得再分配機能がほとんど働くなっているのではないか。
※ 参考テーマ「労働市場」、「社会保障全般

7月21日 NC州:Medicaid改革で対立 
Sources : Newest Medicaid Reform Plan Gets Tepid Reception (North Carolina Health News)
NC Senate’s proposal for Medicaid overhaul draws criticism (The News and Observer)
North Carolina州議会では、Medicaid制度改革を議論している。大きな方向性として次の2点は共有されている。 ところが州議会の上院、下院で意見が分かれている。主な違いは次の通り。
House Senate
1 The health plans would be provider-led. The state would have a mix of provider-led and commercial plans competing for Medicaid beneficiaries.
2 Provider networks would have until 2020 before they’re fully responsible for patient care budget overruns. Provider networks would be responsible for overruns by 2018.
3 Medicaid would remain part of the Department of Health and Human Services. A new Department of Medical Benefits would run Medicaid and N.C. Health Choice. A seven-member board with members appointed by the governor and legislative leaders would run the department. The Medicaid director would work for the board. Initial compensation for board members would be $8,000 a month, with half of the amount paid by the federal government.

The News and Observer
州知事、医療関係団体は、下院案に賛成で、上院案に激しく反発している。下院は州知事や医療関係団体と話し合いを重ねながら法案を作成してきた経緯があるからだ。ちなみに、州議会上下両院とも共和党が多数を握っており、州知事も共和党である。

上院案の1.に商業ベースのHMOが含まれていること、2.の完全移行期間が短いこと、3.の運営管理組織に医療関係者が含まれていないこと、などが主な反発理由だそうだ。

上院議員達は、先行するFL州で商業ベースのHMOが含まれていることを念頭に置いているらしい(「Topics2013年11月4日 FL州:Medicaid改革を試行中」参照)。

いずれにしても、Medicaidの包括化は州ベースで進みつつある。

※ 参考テーマ「無保険者対策/その他州」、「無保険者対策/州レベル全般」、「ACO