12月10日 連邦立Exchangeの『超』高免責額 
Source :On Health Exchanges, Premiums May Be Low, but Other Costs Can Be High (New York Times)
連邦立Exchangeにアクセスができない、というトラブルが大きな批判を呼んでいた。批判を増幅した要因の一つが、『Website上でアカウントを設定してからでないと保険プランの内容が見られない』というものであった。そもそもwebsiteに繋がらないのだから、保険プランの内容など確認の仕様がない。一方、州立Exchangeの多くは、アカウント設定以前に保険プランの内容ができる"window shopping"が可能となっていたため、多少繋がらなくてもフラストレーションが高まることはなかったと言われている(「Topics2013年10月11日 州立Exchangeは健闘」参照)。

こうした批判を受け、先週、連邦立Exchangeでも、応急措置の中で、"window shopping"ができるようにした。そこで初めて、連邦立Exchangeで提供されている保険プランの内容が明らかになった。これまでは、保険料に関する情報が先行開示されていたのだが、ここで初めて免責額の全容が明らかになり、これが新たな批判を呼びそうである(「Topics2013年9月28日 Exchangeの保険料」参照)。

County加入者属性保険料(月額)免責額(年間)
TexasElPaso35歳夫婦$300/M$12,000/Y
MichiganSaginaw45歳夫婦$515/M$10,000/Y
CaliforniaSanta Cruz56歳男性$488/M$5,000/Y
これらは、上記sourceで紹介されている保険料と免責額の事例である。上記sourceによれば、連邦立Exchangeで提供されている保険プランの免責額は、個人プランで$5,000、夫婦プランで$10,000が相場になっているようである。

この免責額は、アメリカであってもとても高い。上記sourceにあるように、企業提供保険プランの場合、免責額は平均$1,135/Yである。また、高免責額とセットで設定されるHSAでも、高免責額プランは、個人$1,000/Y、家族$2,000/Yと定義されている(『医療貯蓄勘定 比較表』)。

$5,000使わないと保険給付が受けられない状況が、中低所得者層にとって"affordable"なのだろうか。

医療機関のネットワークは制約され、超高免責額を負担しないと保険給付が受けられない(「Topics2013年9月25日 Exchange低保険料の秘密」参照)。これがObama政権・民主党が求めた医療保険改革だったのだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

12月9日 "Golden Hellos" 
Source :Golden Hellos, the Latest CEO Compensation Practice to Come Under Fire (Businessweek)
今年に入り、新任のCEOに巨額の就任ボーナスを提供する企業が増えているそうだ。次の表は、上記sourceで提供されている事例である。



そうした就任ボーナスを提供する理由は、外部からビッグネームの経営者を招へいする場合、現在得ている地位や報酬に対して補償する必要がある、というものである。

しかし、上図を見ると、J.C.PenneyのCEOは、期間中に株価を半減させてしまった。HPのCEOは、同じく株価を半減させてしまったために首になったが、就任期間たった10ヵ月で$8.6M稼いだことになる。

株主側からすると、こうした巨額の就任ボーナスは、 ことから、問題が大きいと判断される傾向にある。実際、上図のChesapeake Energy、Best Buyの株主総会で、こうした報酬は否決されている(拘束力はない)。

こうした現状を踏まえ、Boston University School of ManagementのJames Post教授は、次のように述べている。
"You have to look for a good candidate at a good price, not a good candidate at any price."
外部から適切な報酬でCEOが得られないのであれば、内部からの昇進でもよいではないか、ということだ。報酬委員会の良識と判断力が求められている。

※ 参考テーマ「経営者報酬

12月8日 PPACA反対派の新論法 
Source :A New Wave of Challenges to Health Law (New York Times)
PPACAの施行状況を踏まえ、PPACA反対派は、新たな論法で同法を廃止する運動を強めようとしている。共通テーマは、『Obama政権の執行命令は越権行為』である。

主な主張は、次の2つ。
  1. PPACAでは、連邦立Exchangeを通じて保険加入した者にtax credits(補助金)を支給する権限を、IRSに与えていない。

    PPACAの規定では、州立Exchangeを通じて保険加入した者にtax creditsを支給すると明記している。連邦立Exchangeを通じた加入者に対してtax creditsを支給するのは、連邦議会の意志を無視するものである。 ⇒ 12月3日、D.C.連邦地方裁判所で口頭弁論が行なわれた。また、下院司法委員会でも正当性について議論する予定。

  2. 大統領の行政命令によって、企業の医療保険プラン提供義務などの施行期日を遅らせている「Topics2013年7月3日 企業ペナルティ:一年先延ばし」参照)。

    PPACAの重要な規定の施行期日を、連邦議会の承認なしに次々と変更している。 ⇒ 下院司法委員会で正当性について議論する予定。
司法判断に決着が着くには時間がかかるだろうが、仮に連邦最高裁が1.の主張を認めるとなると、アメリカ社会は大混乱に陥ることになるだろう。今現在26州で設立されている連邦立Exchangeでは補助金が受け取れないことになり、事実上、低所得者がはじき出されることになる。

ねじれ状態の中で仕方なかったとしても、とんでもないリスクが浮上してきたものである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

12月7日 CA州:序盤戦は4強圧勝 
Source :96% of Californians Picked Just Four Health Plans Through Covered California. Are Small Plans Getting Squeezed Out? (California Healthline)
CA州ネタが続く。保険加入申請が始まったさる10月の保険加入者数が明らかになった。保険会社別にみると、CA州の4強保険会社が全体の96%を獲得した。特定の地域にしか保険プランを提供していない保険会社もあるのだが、そうした地域においても4強が圧倒的多数を奪ったようである。

その理由として、上記sourceは、 などを挙げている。つまり、無難な保険プランとして4強のプランを選択した人が多かった、ということのようである。

ただし、 といった事情があり、今後、このまま4強が勝ち続けるかどうかはわからない。

それでも、4強がPPACA以前よりも寡占度を高めるようなことになれば、Exchangeにおける『競争原理』は効かなくなる。

来年1月1日から保険加入状態となるためには、今月23日までに加入手続きを終えなければならない。あと2週間余りでどのような結果になるのか、楽しみである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/CA州

12月6日 CA州SHOP稼働 
Source :State health insurance exchange aims to enroll 7,000 small firms (Los Angeles Times)
12月2日、CA州のSHOP(Small Business Health Options Program)が本格稼働を開始した(News Release)。もちろん、オンラインで。1年先送りした連邦立Exchangeとは対照的になっている(「Topics2013年11月29日 Online SHOPは1年先送り」参照)。

"Covered California"は、CA州Exchangeへの加入者数目標を と定めている。小規模企業については、10月1日以降、既に1,500社がアカウントを創設しているそうだ。

Covered Californiaは、オンラインで加入でき、しかも、企業がSHOPで保険契約すると、従業員は示された選択肢の中からプランを選択できるようになっている(Kaiser Health News)。連邦立Exchangeと比較して、CA州のSHOPは二段階先を進んでいるのである(「Topics2013年6月12日 選択型SHOPは1年遅れ」参照)。

やはり、CA州はPPACAの優等生と位置付けてよさそうだ(「Topics2013年8月30日(2) CA州:Exchangeの広告映像」参照)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/CA州

12月5日 Detroit市:Chapter 9再建開始 
Source :Judge rules Detroit may reduce pension benefits as part of bankruptcy case (Pensions & Investments)
12月3日、Detroit連邦破産裁判所は、Detroit市が破産していると認定し、Chapter 9のもとで再建することを正式に認めた(「Topics2013年7月20日 Detroit市破産申請」参照)。判決のポイントは次の通り。
  1. Detroit市は破綻しており、Chapter 9のもとで再建する資格を有している。

  2. Michigan州憲法では、自治体職員の年金権は契約に基づくものであり、州政府がDetroit市にChapter 9申請を認めていることから、再建計画の中で年金権が一部縮減される可能性がある。
Michigan州憲法では、年金の縮減は認めていないが、自治体が破綻した場合は例外としている。また、州知事もDetroit市の再建を支持すると表明していることから、今後は、市職員年金の削減について、市側の提案に基づいて議論が進むことになると見られる(「Topics2013年10月5日 Detroit市の挑戦」参照)。

これに対して労組は反発を続けており、第6控訴裁判所に控訴するとしているが、おそらく棄却されることになろう(Washington Post)。

ところで、以前、San Bernardino市(SB市)の市民に市職員年金を支えるだけの力がなくなっていることを紹介した(「Topics2013年11月21日 SB市の未拠出金」参照)。Detroit市も同様で、長い時間を経る間に、著しく衰退してしまっている。しかも、現在、市のサービスが行き届かないため、犯罪発生率は全米平均の5倍、火事も多発しているため、人口の流出に拍車をかけてしまっている(USA TODAY)。

やはり、厳しい現実の前には、年金制度改正も待ったなしであろう。

※ 参考テーマ「地方政府年金

12月4日 Boeing工場争奪戦 
Source :States competing for Boeing 777X jobs project (Washington Post)
Boeing社は、新機種の組み立てラインをWA州内の既存工場に設置する代わりに、年金給付の削減と一人$10,000の一時金を提案していた。しかし、労組(International Association of Machinists and Aerospace Workers)は、この提案を圧倒的多数で拒否してしまった。

すると、その直後から、Boeing社は他州に呼び掛け、12月10日までに新工場誘致のための提案をして欲しいと要望した。その呼び掛け先リストは公表されていないものの、上記sourceでは、Utah, California, South Carolina, Texas and Missouri, Alabama, Arizona, Pennsylvaniaなどの名前が挙がっている。

まさに、新規工場=新規雇用の争奪戦の火ぶたが切って落とされたのである(「Topics2013年10月19日 雇用創出と州の役割」参照)。

防戦側のWA州もただ手を拱いている訳ではない。Boeing社と労組との間に立って、水面下で、一旦決裂した交渉の再開を双方に促しているそうだ。もちろん、新規雇用を他州に持っていかれないためである。

州政府の責任(=雇用創出)と権限(=優遇税制・補助金等)がマッチしているから、こうした争奪戦が実現する。実に企業活動にフレンドリーな仕組みである。

※ 参考テーマ「労働市場

12月3日 IL州:年金改革議論が大詰め 
Source :Illinois Gives Plan Details for Bailout of Pensions (New York Times)
州政府年金改革で苦しんでいるIL州だが、いよいよ州議会に対して改革案が示された模様だ。詳細は明らかになっていないが、概ね次のような項目が盛り込まれているらしい。
  1. 受給者について物価スライドを抑制する。

  2. 一部の職員について、支給開始年齢を引き上げる。

  3. 高給職員について、年金額に上限を設ける。

  4. 年金制度については労使協議の対象から外す。

  5. 一部の職員には、DCプランへの移行を認める。

  6. 州政府職員に対して、給与の1%未満の追加拠出を求める。

  7. 年金基金から医療費を支出することを禁止する(Burypensions Blog)。
これらの措置により、今後30年間で$160Bのコスト削減が可能となり、2045年には積立比率が100%となる。

IL州の動向が注目されているのは、最悪の積立状況というばかりでなく、州知事も、州議会両院とも民主党が押さえているからである(StateScape)。民主党主導で行なわれる年金制度改正でどこまで進められるのか、州政府職員労働組合とは折り合えるのか、といった政治的な意味合いも見えてくるのである。

(12月4日追記)
12月3日、州議会両院で年金改革法案が可決された。州知事は本件を最優先課題に掲げていたところであり、署名・成立は確実なものとなった(Press Release)。

(12月7日追記)
12月5日、州知事が法案に署名、成立した(Press Release)。

※ 参考テーマ「地方政府年金

12月2日 住まいも政党選好 
Source :How Republicans And Democrats Ended Up Living Apart (NPR)
新しく家を購入したり、引っ越ししたりする時、居住地を選ぶ際の考慮要素は、職場との距離、安全性、環境など、いろいろとあるだろうが、アメリカ社会では、どちらの政党が優勢なのか、ということも決め手の一つになってきたそうだ。もちろん、最大の決め手という訳にはいかないが、いろいろと傍証はあるようだ。 こうした政党選好に基づく居住地の選択を、人工的な選挙区割(ゲリマンダーリング)が拍車をかける(「Topics2010年9月29日 ゲリマンダーリング6例」参照)。

アメリカ人が政党選好にそって居住地を選んでいくとなると、アメリカ社会は徐々に二つに分かれていくことになる。『一つのアメリカ』と叫んで大統領になったObamaが早くもレームダックになってしまう一因が、こんな所にあるのかもしれない。

※ 参考テーマ「人口/結婚/家庭/生活」、「政治/外交

12月1日 "Presumption of Prudence"への挑戦 
Source :Supreme Court asked to clarify company stock issue in 401(k) plans (Pensions & Investments)
11月12日、U.S. Solicitor Generalは、受託者責任に関する連邦最高裁の判断を示すよう求めた。具体的な事案は、Fifth Third Bancorp caseである。

今回、Solicitor GeneralとDOLは、『自社株価格が下落している場合は、"Presumption of Prudence"ルールを適用すべきではない』とする意見書を提出し、連邦最高裁の判断を仰いだのである。

もしも、この意見を連邦最高裁が支持すれば、DCプランにおける自社株の位置付けは、見直し必至となる。株価が下落するたびに受託者責任を問われるようでは、訴訟が相次ぎ、企業経営者の立場は困窮するばかりである。

「2つのキャップ」問題(「Topics2003年10月20日 Enron受託者責任裁判」参照)に何らかの動きが生じるのかどうか、注目していきたい。

※ 参考テーマ「受託者責任