7月31日 給付債務回避にExchangeを 
Source :Detroit Looks to Health Law to Ease Costs (New York Times)
地方政府職員の退職者医療保険の給付債務を減らすために、Exchangeを活用しようという動きが現実のものとなってきた(「Topics2013年7月5日(5) Exchangeは退職者医療の受け皿?」参照)。

以前からDetroit City(MI州)は、退職者のうちMedicare対象にならない人々についてExchangeに移行させることを検討していたが、遂にChapter 9を申請するにいたり、退職者医療プランに関する見直しをせざるを得ない状況に追い込まれてしまった(「Topics2013年7月20日 Detroit市破産申請」参照)。

もちろん、制度改正には労働組合が反対しており、連邦破産裁判所の許可も必要となる。しかし、上記sourceで指摘している中で最も目を引く課題は、連邦政府の負担増である。

市財政が抱える課題は、年金プランと退職者医療に伴う積立不足であり、年金プランが州憲法等により堅く守られているとすると、切り込みやすいのは退職者医療である。 全米各地で自治体の財政が破綻するたびに、このパターンが繰り返されることになる。Medicaid拡充を決定した州でも、その拡充分は当分の間、連邦政府負担となるので、同じことである。

現シカゴ市長のRahm Emanuel氏は、大統領首席補佐官時代にPPACAの成立に大きく貢献した人物であるが、そのスポークスウーマンの次の発言は何とも皮肉に聞こえる。
"With the implementation of the Affordable Care Act, our retirees will have more options to meet their health care needs. ・・・・・・We will ensure that they have all the information needed to navigate the options available going forward, while saving vital taxpayer dollars.”"
※ 参考テーマ「自治体退職者医療/GAS 45」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

7月30日 CA州:賠償額上限引き上げを州民投票へ 
Source :Initiative to lift California medical malpractice cap filed (Sacramento Bee)
医療過誤訴訟を専門にする弁護士達が活発な活動を行っている。医療過誤訴訟に伴う非経済的損失に対する賠償額の上限を引き上げようとしているのである(「Topics2003年3月12日(2) 医療過誤賠償法案」参照)。今期のCA州議会で法律改正を目指していたが、州議会がなかなか結論を出さないため、結論が出ない場合は、2014年の州民投票にかけるよう案件を提出するという。

州民投票にかけることを目指している案件の柱は次の通り。
  1. 非経済的損失に対する賠償額を、現行の25万ドルから約110万ドルに引き上げる。上限額については物価スライドを適用する。
    ⇒現行の上限は"Medical Injury Compensation Reform Act of 1975"で定められたものであり、しかも物価スライドになっていない。既に時代に合わなくなっている。

  2. 医師に薬物・アルコールテストを義務付ける。

  3. 医師に処方箋発行データベースの利用を義務付ける。

上記2.と3.は、賠償額上限引き上げの運動を行っている中心的人物の子供達が、誤った処方薬を服用していた運転手のせいで死亡したことに伴う事項である。

各州の非経済的損失に対する上限額をざっとみると、CA州の25万ドルは最低水準であることは間違いない
⇒ "Caps on Damages" (American Medical Association), "Take Justice Back" (American Association for Justice)

このような賠償額上限引き上げ案に対し、医師はもちろん、経済界、保険業界も反対している。賠償額を引き上げれば、医療費全体が上昇し、保険料を引き上げなければならなくなるからである。特に、保険会社は、MLRの導入やRate Reviewの強化などにより、簡単に保険料を上げられなくなっており、自らの収益を縮小せざるを得なくなる可能性が高い(「Topics2011年12月20日 償還割合規制:最終決定」参照)。

また、反対理由の一つとして、タイミングが悪すぎるとの指摘がある。PPACAの本格施行に伴い、今までの無保険者が大量に保険加入し、医師不足が見込まれている。医師の負担が多くなるという訳である。上限引き上げ賛成派にとっては、医師不足の状況であるからこそ、医療過誤が起き易く、ペナルティを高めるべきだと発想しているに違いない。もっと穿った見方をすると、低所得者が大量に保険加入することで、低所得層に医療過誤を訴えたいという動機が生まれやすくなる。弁護士としてはまさにビジネスチャンス到来、ということかもしれない。

しばらく医療過誤訴訟の話題は収まっていたように思っていたが、まだ芽が出始めたようである。

それにしても、医療過誤訴訟専門の弁護士と民主党は近いというのが通念であるのに、民主党が支配するCA州議会で議論が進まないというのも興味深い(「Topics2010年2月6日 賠償金上限設定は州憲法違反」参照)。やはりPPACAの本格施行の中で保険料上昇を少しでも抑制したいという思惑が勝っているのだろう。

※ 参考テーマ「医療過誤」、「無保険者対策/CA州」、「無保険者対策/連邦レベル

7月29日 PPACA:意図せざる結果 
Source :WellPoint Sees Small Employers Dropping Health Coverage (Washington Post)
全米第2位の保険会社WellPointが、決算発表の席で次のように発言した。
  1. 2014年の小規模企業の医療保険プランの提供は、減少するだろう。

  2. 一方、"self-insured"型の保険プランと個人保険プランの加入者は増加する(「Topics2013年5月2日 保険料対策は"self-insurance"」参照)。

  3. 従って、企業提供保険プランの加入者は減少するだろう。
小規模企業の医療保険プランの提供が減少する理由は、企業提供義務の先送りではなく、不確定要素が多いために企業がプラン提供を躊躇っているからだ、と述べているそうだ(「Topics2013年7月3日 企業ペナルティ:一年先延ばし」参照)。要するに、PPACAの準備不足が企業のプラン提供を減らす結果となっているということである。"Pay or Play"を標榜していた頃の勢いは何処に行ってしまったのだろうか。

一方、保険会社の方も、現実の保険市場の状況を直視し、保険プラン提供地域を絞る戦略に出ている。HealthLeaders InterStudyによれば、地域密着型の戦略を展開してきたMedical Mutualは、本拠地であるOH州での保険提供に専念することとし、これまで進出してきたSouth Carolina, Georgia and Indianaから徹底するという。

これまでも、Exchangeへの加入者がどうなるかを見極められないため、Exchangeへの参入を見合わせた例を紹介してきた(「Topics2013年6月3日 Exchange:保険会社の懸念」「Topics2013年7月1日 Exchangeは競争促進的か?」「Topics2013年7月15日 保険砂漠」参照)。こうした動きが全米で広がっているのかもしれない。

NY州やMD州では新規参入が加わることにより、保険料の抑制が図られるものの、全米レベルでみると、競争的要素が減少、さらには保険プラン提供さえままならない状況が現実化するかもしれない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般」、「医療保険プラン

7月28日 MD州:個人保険料は最低水準に 
Source :Maryland issues insurance rates that are among lowest in U.S. (Washington Post)
7月26日、MD州政府は、2014年のExchangeで提供される個人保険プランの保険料を公表した。正確に述べると、個人保険プランを提供する保険会社に保険料の承認を与えた。

保険プランの給付内容や条件が異なるため、単純比較はできないものの、今のところ承認または申請が行われている全米中の保険プランの中で、保険料の水準は最低レベルになっているようだ。当局発表なのでcherrypickingになっているかもしれないが、下の表を見る限り、相当に低く抑えられていることは確かだ。

例えば隣接するD.C.の承認済みの保険料や、VA州の申請中の保険料よりも、低く抑えられている。また、上昇幅を抑制できたとほっとしているCA州はもちろんのこと、大幅に引き下げることができたと胸を張っているNY州よりもはるかに低い水準になっている(「Topics2013年5月26日 CA州Exchange:保険料提示」「Topics2013年7月21日 Exchange保険料は様々」参照)。 それでも、現行保険料よりはかなり上がっているはずだ。以前紹介した個人保険料の上昇率推計によれば、MD州は66.6%の上昇が見込まれており、全米で4番目の上昇率となっている。

これだけ個人保険料を抑制できている要因としては、次の3つが考えられる。
  1. 新規参入2社を含め、保険プラン提供会社が9社となった。比較的狭く人口密度の高い州であるため、参入がしやすく、その結果、十分に競争的になった。

  2. 州政府は保険会社が申請してくる保険料に対して拒否権を有している(「Topics2010年8月16日 州政府の権限強化が必要」参照)。

  3. 診療報酬体系を州政府が決定している(「Topics2012年11月1日 MD州の医療費抑制策」参照)。
3点目の診療報酬の公定は、MA州にもない医療費抑制策である。今後はこれが最も効いてくるかもしれない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/MD州」、「無保険者対策/CA州」、「無保険者対策/NY州」、「無保険者対策/州レベル全般

7月27日 保険料検証の準備 
Source :The Range of Base Premiums in the Individual Market by State in January 2013 (GAO)
GAOが、州別の個人保険プランの基本保険料(2013年1月時点)を調査し、とりまとめて公表した。2014年からのExchangeにおける個人プラン保険料がどうなるのかに関心が集まっている中、2013年との比較検証を行うための基礎資料である(「Topics2013年7月21日 Exchange保険料は様々」参照)。

この資料の公表自体は、現状を調査しただけなので、特に何の政策的意図はないものの、PPACAによる政策効果を検証するための準備が始まっている。

話は変わるが、このGAOの資料を読み込んでまとめられた記事があった(Washington Post)。下図は、30歳女性非喫煙者の保険料である。NY州の個人保険料が現状でいかに高いか、OH州の保険料がいかに低いかがわかる(「Topics2013年7月21日 Exchange保険料は様々」参照)。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

7月26日 Pioneer ACOsの成果 
Source :Pioneer Accountable Care Organizations succeed in improving care, lowering costs (Centers for Medicare & Medicaid Services)
連邦政府は、PPACAの規定に基づき、Medicareの世界にACOsを実験的に導入している(「Topics2012年2月15日 ACOは普及するか?」参照)。上記sourceは、その初年度(2012年)の実績がまとまったので公表されたものである。

主な成果は次の通り。
  1. コスト

    1. Pioneer ACOsの加入者は669,000人。2012年の医療費の伸び率は0.3%。一般のMedicare加入者の医療費の伸び率は0.8%。

    2. Pioneer ACOs全体で、$76M以上の節約効果。

    3. 充分な節約効果を上げたのは、32のPioneer ACOsのうち、13のみ。その節約額は$87.6Mで、そのうち$33MがMedicare基金に納付された。

    4. 赤字になったのは2団体で、赤字額は合計$4M。

  2. 質:15の指標すべてにおいて、出来高払い制よりも質は改善された。

  3. 32のPioneer ACOsのうち、7つのACOsは別の形態のACOs("Medicare Shared Savings Program")に移行する。2つのACOsは、完全にMedicare ACOsから撤退する。
専門家によれば、"Medicare Shared Savings Program"の方が損失を出しにくい制度であり、そちらへの移行が出てくるのは自然な流れだという(Kaiser Health News)。Medicare支出抑制のための地道な試みが続けられているのである。

一方、Florida州(FL)は、MedicareにおけるACOの成果が注目されている州の一つである(Miami Herald)。全米で"Medicare Shared Savings Program"に参加しているACOsは、全部で約250機関あるが、FL州では28のACOが活動している。ACOsを結成するには最低5,000人の加入者が必要となるが、FL州の高齢者人口が多いので、ACOsの活動に適しているのである。

特に、Miami在住の高齢者にとって、ACOsは重要な意味を持っているという。Miami在住のMedicare加入者は、全米で最も高いコストを負担しており、その最大の要因が、重複検査や専門医間の調整不足という指摘がされている。

FL州での成果が、今後のACOsの試金石となりそうである。

※ 参考テーマ「ACO」、「Medicare」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/その他州

7月25日 Medicare:業績連動報酬を加速 
Source :Medicare Announces Plans To Accelerate Linking Doctor Pay To Quality (Kaiser Health News)
PPACAの規定により、Medicareにおける診療報酬について、業績を評価したうえでそれをボーナスまたはペナルティとして反映さえることになっている。制度の名称は、"Value-Based Payment Modifier"である。Medicareにおいて、単なる出来高払いとなっている診療報酬に、成功報酬の要素を加えようとするものであり、最終的にはコスト抑制につながることを期待している。

業績評価の手法・指標は、CMSが示した選択肢の中から、医療機関または医師グループが自主的に選び出すこととなっており、一律的な評価手法は避けている。

実施に向けてのスケジュールは次の通り。 医師の側は、業績連動報酬そのものに強い反感を持っており、常にこれに関連する規定を削除するよう求めてきている。Medicareの持続可能性が疑問視されている中、少しでも支出抑制を図る必要があるのだが、なかなか現実的な制度改正は進まない(「Topics2013年6月2日(1) 年金・Medicareの財政見通し」参照)。

※ 参考テーマ「Medicare」、「無保険者対策/連邦レベル

7月24日 PPACAは労働供給を抑制 
Source :Public Health Insurance, Labor Supply, and Employment Lock (NBER)
ちょっと興味面白い論文が公表された。タイトルで示した通り、PPACAの実施により、労働の供給は抑制されることになるというのが結論である。
  1. 2005年、Tennessee州(TN)で、約17万人が公的医療保険の加入資格を失った。これは、アメリカ史上最大規模の公的医療保険プランからの脱退である。

  2. この時、TN州内外では、大規模な労働供給の増加が観察された。特に、週20時間超の勤務で企業提供医療保険プランに加入するケースに集中した。

  3. この結果をみる限り、保険プランへの加入を維持するために勤務を続けるという"employment lock"という現象が顕著に表れている。

  4. PPACAが本格施行となれば、(Medicaidの拡充等により)従来公的医療保険プランに加入する資格のなかった国民が大量に加入資格を有することになる。

  5. TN州の場合と逆の効果が生じるとすれば、低所得層の労働供給は大きく抑制されることになる。
低所得が故に医療保険プランに加入できるようになれば、労働供給に対してディスインセンティブが働くということになる。保守層がPPACAに強く反対する理由の一つなのかもしれない。

※ 参考テーマ「労働市場」、「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン

7月21日 Exchange保険料は様々 
Source :ACA Impact Will Vary “Substantially Across State Lines” (AHIP)
Exchange創設が10月1日に間に合うのかどうか、に関心が集まっているが、Exchangeが間に合ったとして、肝心の保険料はどうなるのか。準備が進んでいるいくつかの州では、既に保険料が提示され始めている(「Topics2013年5月26日 CA州Exchange:保険料提示」参照)。

まず、New York州では、現行保険料よりもかなり下がるようである(New York Times)。給付内容が異なるため、単純な比較はできないものの、かなり高いレベルの保険プランでも、5割以上下がるようなプランもあるようだ(New York Times)。

PLATINUM PLAN

GOLD PLAN

2014 Proposed monthly rates for two standard plans in Manhattan:

2013 Monthly rates for a standard H.M.O. in Manhattan:

Family

$2,277

2,100

1,853

2,428

2,750

Individual

$799

737

650

852

965

Family

$1,961

1,818

1,573

2,041

2,331

Individual

$688

638

552

716

818

Family

$4,366

3,225

4,755

7,052

4,581

Individual

$1,409

1,075

1,534

2,765

1,490

Insurer

Aetna

Atlantis

Empire

GHI

Oxford

これだけ大幅な引き下げが見込める理由として、次のようなことが指摘されている。
  1. 個人保険プラン加入者の大幅増加が見込まれる。現在はわずか17,000人しかいない市場で、初年度で615,000人もの加入者が保険を購入するものと推計されている。

  2. 新規参入の8社を含め、17社の保険会社が市場に参加する。
現行のNY保険市場では、既往症に関わらず保険加入申請があれば必ず加入させなければならない義務が保険会社に課せられる一方、州民個人の加入義務は課されていない。このため、保険会社としてはリスクを高く見積もらざるを得なかった。

逆に、Massachusetts州では、全体的に保険料が上昇する見込みである(Boston Globe)。通常の医療費増加に伴う保険料引き上げ分が2〜4%。それに加えて、PPACA本格実施に伴うコスト増が約3.7%上乗せされる。これは主に、保険料格差を認めていた事項が9つから4つ(年齢、地域、喫煙、個人/家族)に絞られることによる。

MA州は、医療費の伸び率を抑制する政策目標を掲げている(「Topics2012年8月4日 MA州:医療費抑制法案」参照)。2014年の伸び率上限は3.6%であり、これを軽く上回る上昇となることは間違いなかろう。

では、全米ではどのような様相になるのか。Exchangeの創設もままならない状況で、保険料の見込みまでは難しいようだが、それでも保険数理人会が全米ならびに各州毎のExchange保険料の推計を公表した(AHIP)。Exchange保険料なので、個人、小規模企業グループ用の保険プランのものになるが、全米で31.5%の上昇となっている。最も上昇率が高いのがOH州の80.9%、最も下落率が大きいのがNY州の13.9%である。
もし本当に全米平均で3割も保険料が上昇するとなると、Obama大統領はもたなくなるのではないだろうか。多くの低所得層は保険料補助を受けられるといっても、その保険料補助が受けられない層は、もろにこれだけの負担増となるのである。しかも、この保険料上昇が理由で保険加入が進まなければ、何のためのPPACAだったのか、ということになりかねない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般」、「無保険者対策/NY州」、「無保険者対策/MA州