2月28日 "Exchange"失敗の教訓 
Source :Healthcare: Transparently opaque (Financial Times)
医療保険改革法の本格的な施行は2014年からとなっているが、それまでに医療コストはどんどん上昇し続けるのではないか、との懸念が広がっている。上記sourceで示されている懸念の根拠は次の通り。 こうした議論の中で、既に"exchange"が州レベルで何度もトライされながら、いずれも失敗に終わっているということを初めて知った。当websiteでは、MA州の"Connector"を紹介しているが、Texas、Florida、North Carolina、Californiaでそうした試みがあったことは知らなかった。

そこで、TX州の"exchange"の運営責任者であった、Mr. Cappy McGarrの意見を掲載した新聞記事(New York Times)を探し出し、彼の考え方をまとめてみた。
  1. 連邦議会上院で、公的医療保険制度の創設案を却下したが、公的医療保険制度がなければ、保険料を抑制することはできない。(「Topics2009年9月30日 公的プランを財政委員会が否決」参照)

  2. 公的プランを作らないのであれば、"exchange"の役割がより重要になる。

  3. TX州では、1993年に"Texas Insurance Purchasing Alliance"を創設した。

  4. 設立当初は、創設目的通りの政策効果を上げていた。

  5. にもかかわらず、創設6年後には失敗に終わった。その主な理由は次の通り。

    1. いくつかの規制が不人気であった。例えば、従業員50人以下の企業しか参加できない、など。

    2. 交渉力を発揮できるだけの加入者規模に到達しなかった。

    3. 保険会社は、リスクの高い企業は"exchange"に回し、リスクの低い企業は民間保険契約として取り込んだ。逆選択が起きてしまったのである。

    4. その結果、保険料は高騰していった。

    5. 他の3州の"exchange"が失敗した理由も、この逆選択である。

  6. "Exchange"を創設するのであれば、@保険会社に受託義務を課すと同時に、Aすべての加入者に対し、健康状態に拘わらず同じ保険料を求めるようにしなければならない(=つまり、バーチャルな単一公的保険プランを創設する)。

  7. これらのルールを保険会社に適用することは、困難を伴う。しかし、それができなければ、アメリカ国民は、購入可能な良い保険制度を手に入れることはできないだろう。
既に先行して"Connector"を導入しているMA州では、無保険者は激減しているものの、医療費抑制には成功していない。これはいずれ保険料全体の高い伸びとなって返ってくる。もしかしたら、先発の"exchange"と同様、失敗への道筋を辿っているのかもしれない。

一方、連邦政府の医療保険改革法のもとで、逆選択を阻止するような厳しい規制は想定されていない。もちろん、保険料の大幅な引き上げは行政指導で認めないようにしようとしているが、これも医療費全体が上がってくればどうしようもなくなる。加えて、最近特に目立つのは、保険プランの例外("mini-med"、少額プラン)を認めてしまっていることである。これらが2014年まで存続するということになると、上記の必要ルールAに抵触する可能性が高い。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル

2月27日 WI州議会下院 法案可決 
Source :Wis. Assembly Passes Bill Taking Away Union Rights (New York Times)
25日、WI州議会下院は、歳出削減法案を可決した。州議会上院での採決の見通しは立っていないが、WI州知事は、急がなければ州の資金繰りに支障をきたすとして警告を発している。合わせて、州政府職員のレイオフも必要になるとして、来週にはレイオフの事前通告を発するという。

一方、WI州その他で広がっているデモは、労組の権限を制約しようとしていることに反発しているものである。そちらにばかり注目が集まっているが、そのかげで、Medicaidの加入者が大幅に削減されるかもしれない、という点はあまり注目されていない(Kaiser Health News)。 医療保険改革法により、Medicaid加入対象者は拡大することになっているが、それは2014年のこと。その手前で、州政府の財政事情により、大幅に対象者が削減されようとしているのである。

※ 参考テーマ「労働組合」、「地方政府年金」、「無保険者対策/州レベル全般

2月25日 AZ州:さらに厳しい不法移民対策案 
Source :New Anti-Immigration Bills in Arizona (New York Times)
AZ州は、物議をかもした前回の不法移民対策(「Topics2010年12月10日(3) 連邦最高裁も賛否両論:AZ州法論議」参照)を上回る、厳しい対策案を検討しているそうだ。
  1. 不法移民の州内での運転禁止。罰則として、30日間の拘留と車の差し押さえ。
  2. 不法移民への結婚証明書発行の禁止
  3. 不法移民の子弟の公立学校への入学の禁止
  4. 不法移民の各種公的補助の受け取り禁止
  5. 不法移民の子供の出生については、特別出生証明書を発行し、州民としては認知しない。
ほとんど村八分にしようという内容である。さすがに、「これではアメリカの基本的な価値観を変えてしまう過激な提案だ」との反発があがっているが、一方、AZ州内では、前回の不法移民対策に対してObama政権が司法判断を求めたことに怒りの声があがっているという。「移民法の執行もできていないではないか」と。

昨日のDOMAの例でもわかるように、Obama政権は、都合の悪い政策課題については「法の執行を取りやめる」ことも選択肢に入れているのである。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

2月24日(1) DOMA順守を放棄 
Source :In gay rights victory, Obama administration won't defend Defense of Marriage Act (Washington Post)
16日、司法省は、『今後、司法の場において、DOMA順守の立場で弁護することをやめる』と発表した。Obama大統領との間で充分詰めた上での意思決定のようであり、リベラル派を引き戻したいという同大統領の意向が見え見えである。

もちろん、リベラル派、同性婚推進論者は称賛している。

なぜ、このようなタイミングでこうしたアナウンスがされたのか。上記sourceでは、2つ要因を挙げている。
  1. NY州における同性婚問題で提訴するかどうかの期限が迫っている。

  2. もうすぐ、D.C.同性婚認可から1周年を迎える(「Topics2010年3月5日(2) DCで同性婚」参照)。

とてもわかりやすい説明である。

しかし、である。連邦議会がDOMA廃止を決めないからと言って、行政が『DOMAはどうしようもない法律だから、連邦法といえどもその執行を放棄する』と、堂々と宣言してよいものなのだろうか。再び混乱のもとを作りかねない感じがする。

※ 参考テーマ「同性カップル

2月24日(2) MD州上院で同性婚法案可決 
Source :Same-sex marriage bill advances in Maryland Senate on 25-22 vote (Washington Pos)
同じ23日、MD州上院議会で、同性婚認可法案の採決が行われ、25 vs 22で可決された(「Topics2011年2月19日 MD州議会 同性婚で最終段階」参照)。

※ 参考テーマ「同性カップル

2月23日 沈みゆくCalSTRS 
Source :California teachers' pension system headed toward insolvency (San Jose Mercury News)
The California State Teachers' Retirement System (CalSTRS)の財政危機が現実のものとなりつつある。このままでは、2042年に基金が枯渇する。
CA州教職員は、給与の8.0%を年金保険料として支払っているが、自治体が8.25%、州政府が4%を拠出している。彼らは連邦政府のSocial Securityに加入していないが、こちらが労使合計で12.4%であることを考えれば、相当高い水準の給付が約束されていることがうかがわれる。実際、勤続35年、最終報酬$90,000の場合、62歳で退職すると$75,600/Yの給付が受けられる。充分過ぎる水準である。

CalSTRSの給付水準を見直すためには、州法のみならず州憲法まで見直す必要があるとみられている。また、司法判断も、採用時に受給権を保全している。

同州の州知事、州議会上下両院とも民主党であり、給付水準の見直し、教職員の負担の引き上げという方向に動く気配はない。このままいけば、すべては州民の負担に付け回されていく。

※ 参考テーマ「地方政府年金

2月22日 州政府労組への冷たい視線 
Source :Union Bonds in Wisconsin Begin to Fray (New York Times)
上記sourceによれば、WI州内で、 という空気らしい。民間の労組の厳しい雇用情勢が、労組同士の連帯も弱めているという。

Obama大統領が早々に身を引いたのは正解だったのだろう(「Topics2011年2月21日 労組との微妙な関係」参照)。

※ 参考テーマ「労働組合」、「地方政府年金

2月21日 労組との微妙な関係 
Source :Wisconsin Puts Obama Between Competing Desires (New York Times)
WI州知事に対して拳を振り上げたObama大統領であったが、週明けには早くも腰が引けてきた(「Topics2011年2月18日(1) WI州政府職員の猛反発」参照)。週末のメディアで、共和党が『Obama大統領は州政府の財政健全化努力を削ごうとしている。連邦政府の赤字削減にも本気で取り組む気がない』と批判され、一方的に労組側を支持する姿勢を修正してしまったのだ。上記sourceによれば、White Houseは、WI州のデモを推奨するような事は何もしていない、と公言している。

梯子をはずされた格好となった労組はたまらない。しかし、60%以上の州民が『公的セクターの労組はベネフィットや年金でもっと譲歩すべき』と考えており、同じ様な空気がRust Beltに広がっているという(Los Angeles Times)。2012年の大統領選を控え、致命傷を負いかねない事態に、大統領サイドは後退を決めたのであろう。

こうした空気が広がっている背景には、おそらく公的セクターのベネフィットは恵まれているという認識があるのだろう。『民間で厳しい雇用情勢が続いているのに、公的セクターの職員は年金も雇用も守られている。』そんな雰囲気なのであろう。

2008年の大統領選で、熱狂的にObama大統領を支援し、勝利に導いた主役の一人である労組だが、Obama大統領就任以来、隙間風が吹き続けている(Washington Post)。 枚挙に暇がないほどで、労組は何一つObama大統領からの手形を落とせていない。これではフラストレーションもたまるだろう。

※ 参考テーマ「労働組合」、「地方政府年金