10月20日 償還割合規制の執行猶予 
Source :New rule could send some insurers packing (CNN Money)
今週中に、NAICで、償還割合規制(「Topics2010年8月19日 償還割合規制の基準決定」参照)の執行方法に関する最終議論が行われ、HHSに対する答申が行われる予定である(NAIC COMMITTEE ADVANCES MLR RECOMMENDATIONS)。

そこで注目されているのが、償還割合規制に執行時期である。医療保険改革法では、来年1月からの施行と規定されている。しかし、保険会社等は、『いきなり規制が適用されると、一部の医療保険プランが廃止になったり、保険会社の撤退が起きる』として、移行期間を設けて徐々に償還割合規制を高めていくことを求めている。

上記sourceによれば、Iowa州、Maine州などが同様の懸念を持っており、執行猶予を求めているようだ。

仮に、NAICが執行猶予を求めてくれば、HHSも一定の配慮をせざるを得なくなるだろう。ここでも、医療保険改革法の施行が遅れそうな部分が出てきた(「Topics2010年10月14日 W-2への記載猶予」参照)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

10月19日 今度は独禁法 
Source :Assistant Attorney General Christine Varney Holds Pen-and-Pad Briefing on Antitrust Health Care Matter (US Department of Justice)
つくづく、保険会社は嫌われているようである。

18日、連邦司法省は、ミシガン州司法長官(R)とともに、Blue Cross Blue Shield of Michigan (BCBSM)を独禁法違反で訴えた。BCBSMは、州内の病院との間で、"MFN"条項を含めた契約を結ぶことで、独占的状況を作り出し、保険料を高止まりさせ、ミシガン州民に不利益をもたらしているということである。"MFN"条項とは、『最恵国待遇』と似ているためにこのような名称がつけられているもので、病院への償還レートを他の保険会社よりも必ず低くするよう求める内容である。

司法省は、これにより、他の保険会社の参入を阻み、独占的状況を作っているというのだが、どうもしっくりと来ない。保険会社が優越的地位の濫用により、病院から診療サービスを安く買い叩いているので、病院側が不利益を被っているというのならわかるが、保険加入者が不利益を被っているというのはどういう理屈なのだろうか。

実際、BCBSM側は、「州内唯一のnonprofit会社として安価な保険プランを提供しており、こんな訴訟は無意味だ」と徹底抗戦の構えである(Press Release)。

司法省は、特定州名は挙げていないものの、同様の状況があれば、他の州でも同様の訴訟を起こすことを示唆している(「Topics2008年10月25日 保険会社のパワー」参照)。

しかし、保険業への独禁法適用については議論が分かれるところであり、実際に医療保険改革法では見送られた経緯もある(「Topics2010年2月27日 独禁法適用の意味」参照)。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

10月17日 COBRA保険料補助の政策効果 
Source :The Impact of the COBRA Premium Subsidy on Coverage (EBRI)
COBRA保険料補助は終息しつつあるが、上記sourceでは、その政策効果を検証している。ポイントは次の3点。
  1. 再就職した労働者にとって、COBRA保険料補助はほとんど効果がなかった。

  2. 失業したままの労働者にとって、COBRA保険料補助はある程度の効果があったと認められる。
  3. 保険料補助を決定した際に、利用加入者は700万人と推計されていたが、実際にはせいぜい570万人程度にとどまったとみられる。

  4. ただし、保険料補助により増加した加入者は、70万人程度であった。
要するに、期待はずれの結果であったというのである。その理由として、EBRIは、
  1. 失業者にとっては、補助を受けたとしても、医療保険料を負担する余裕が乏しい
  2. COBRA保険料補助金が所得控除されないため、税負担が発生する
の2点を挙げている。

さらに、この検証結果をもって、医療保険改革法による無保険者削減効果も期待通りには現れないのではないかとの懸念を表明している。つまり、Tax Creditsによる補助金を得られるとしても、やはり低中所得者層にとって保険料負担は相変わらず重いものとなるのではないか、とみているのである。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策」、「無保険者対策/連邦レベル

10月16日 移民制度改革法案(上院) 
Source :MENENDEZ INTRODUCES COMPREHENSIVE IMMIGRATION REFORM BILL (Press Release)
10月1日、Robert Menendez上院議員(D-NJ)Patrick Leahy上院議員(D-VT)が、移民制度改革法案(S. 3932)を提出した。概要は次の通り。
  1. 国境警備の強化

  2. 不法移民が永住権を申請できるようになるための要件整備

  3. 国内の罰則強化(刑事事件、パスポート等の不正、出入国記録等)

  4. 雇用規制

    1. 5年以内に全企業に"E-Verify"の利用義務付け
    2. Social Security Numberの不正利用に対する罰則強化

  5. 移民・労働市場・国益委員会の創設:雇用・経済情勢の分析と必要となるビザ数の査定

  6. アメリカ人労働者の雇用確保

  7. 新たなゲスト・ワーカー・ビザ(H-2C)の創設

  8. 2010年9月30日時点の不法滞在者について、登録、英語教育、罰金・税の支払いを義務付け、一定期間後に合法化する。
下院でも包括的な改革法案が提出されているが、ほとんど審議されていないようである(「Topics2009年12月19日 新移民法案提出」参照)。中間選挙を来月2日に控え、本格的な議論は選挙後、ということになりそうだ。

当websiteとしては、今回の上院法案に"E-Verify"の利用義務付けが盛り込まれていることに注目しておきたい。これが連邦法上規定されれば、州法での義務付けと整合的となり、全米商工会議所(USCC)のような反論は難しくなる(「Topics2010年10月4日 USCCがAZ州法に反対」参照)。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

10月15日 NY州の退職者医療給付債務 
Source :N.Y. Faces $200 Billion in Retiree Health Costs (New York Times)
New York州の州政府・自治体が抱えているGAS 45に基づく退職者医療給付債務は、$205Bにのぼるとの推計が公表された(プレス・リリース)。退職者医療給付の場合は、資産の積立が行われていないので、ほぼまるまる債務を負っている状態ということになる。

興味深いのは、州政府、自治体が財政破綻した場合の論点が上記sourceに示されている点である。ポイントは次の通り。
  1. New York州の州政府・自治体が抱える退職者医療給付債務は$205Bだが、州政府・自治体が発行する債券の残高は$264Bにのぼる。

  2. もし自治体等が債務不履行にせざるを得ないとなれば、退職者給付債務を不履行とすることになり、債券ということにはならないだろう、と専門家はみている。

  3. 一方、自治体等が負っている年金給付債務については、NY州憲法により保護されているとみなされている。

  4. しかし、判例がほとんどないために、実際に破綻した場合にどういった処理がおこなわれるのか、誰も確実なことは言えない。
州政府・自治体の財政赤字が雇用に大きな影を落としつつある(「Topics2010年10月10日(1) 雇用は伸びず」参照)ことを考えれば、恵まれた医療保険ベネフィットの縮減はやむを得ないのではないだろうか。

※ 参考テーマ「GAS 45

10月14日 W-2への記載猶予 
Source :White House Will Delay W-2 Insurance Reporting Requirement (Kaiser Health News)
"W-2"とは、簡単に言ってしまえば源泉徴収票である(Wage and Tax Statement, Form W-2)。医療保険改革法では、2011年より、このW-2に、従業員に提供している医療保険プランの"value"を記載することを義務付けている(「Topics2010年3月27日 医療保険改革法:企業への影響」参照)。

ところが、大統領府は、この義務付けを1年猶予する方針を示したそうだ。2011年については、選択的に"cost"を記載することを可能とし、義務付けは2012年からとしている。理由は、企業に充分な準備期間を与えるためという。

ここでもまた、連邦政府の準備不足、付焼刃的な執行先送りが行われようとしている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

10月13日(1) 医療費大幅増は続く 
Source :Health Care Cost Increases to Continue in 2011 (Buck Consultants)
Open Insurance Season May Bring Sticker Shock (Kaiser Health News)
2011年の医療費コストは、10%を上回る勢いで増大する見通しである。以下、上記sourceのポイント。
  1. 医療保険プランの類型を問わず、医療費は10〜11%の増加となる見通しである。
  2. 処方薬のコストも前年比11.3%増となる(2010年推計:10.9%増)

  3. Medicare(除く処方薬)は前年比6.4%増(2010年推計:5.8%増)

  4. これらを背景に、企業が提供する家族向け医療保険プランの保険料は、

    1. 平均$13,770(前年比14%増)
    2. うち、従業員負担は$3,997(前年比14%増)
    3. 従業員負担割合は30%(前年は27%)
    4. 過去5年間で、保険料全体では27%増に対し、保険料従業員負担分は47%増加

    となる見込みである。
来年の保険プラン選択の時期が重なってしまうのは仕方ないが、中間選挙前にこうした情報が国民にあまねく届けられるのは、民主党にとっては辛いことであろう。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

10月13日(2) 回復の道程は遠く 
Source :Across the U.S., Long Recovery Looks Like Recession (New York Times)
上記sourceについていた図表がショッキングだったので、紹介しておく。



要するに、90年代の景気拡大期と同様の成長をしても、景気後退前の雇用水準に戻るまでにまるまる2年かかる。9月の民間雇用増程度の勢いしかないのであれば、回復するのは2019年夏までかかり、その後も構造的な失業は拡大していく、という予測である。

※ 参考テーマ「労働市場

10月12日 Medicaid縮小策:AZ州 
Source :AZ Medicaid faces $1B shortfall (Phoenix Business Journal)
当websiteでは、たびたびMedicaidの財政的危機を紹介してきた。いよいよ、それが現実的な課題として浮上しつつある。

Medicaidは、連邦政府からの拠出を受けながら、州政府が運営している。リーマン・ショック後の厳しい経済情勢を受けて、2009年2月のアメリカ復興再投資法(「Topics2009年2月14日 アメリカ復興再投資法」参照)、ならびに2010年8月の教職員雇用確保法(「Topics2010年8月11日 教職員雇用確保法案成立」参照)により、2011年9月までの時限的措置で連邦政府の拠出割合を引き上げている(e-FMAP)。

ということは、州政府の側から見れば、2011年7月から始まる2011年度は、連邦政府拠出金が減少することを意味する。上記sourceによれば、AZ州の場合、これにより連邦政府拠出金が$1B減ってしまうという。AZ州では、今年度からMedicaidの歳出を抑制すべく、方策を打ち始めた。

選択肢としては、
  1. 償還レートを引き下げる
  2. 給付水準を引き下げる
  3. 加入資格を変更する
の3つが考えられるが、最後の3番目の選択肢は、医療保険改革法により禁じられてしまった。そこで、AZ州は、2番目の選択肢を採った。実は、償還レートは、既に2009年に5%の償還レートの引き下げを実施し、2年間、入院費の見直しを凍結している。これ以上の償還レートの引き下げは、Medicaid提供医療機関の脱落を引き起こし、セーフティネットとしてのMedicaidが機能しなくなる恐れがあるためだ。

ただし、この措置で節約できるのは、わずかに$5.3Mであり、さらなる見直しは必至である。ここでも、医療保険改革法による"Exchange"と"Tax Credits"が施行されるまでの深刻な課題が残されているのである。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策

10月11日 国内医療ツーリズム 
Source :Have Illness, Will Travel? (CFO.com)
企業経営者の目は、医療ツーリズムから国内医療ツーリズムに移ってきた。無理やり難しい外国医療機関での受診を考えるよりも、近距離で簡単に移動できる範囲で、医療機関からよいオファーを受けることが重要、という考え方である。

これは、一般的には州境を越えた契約となる。こうした流れが定着すると、医療に関する政策のスコープも変わってくる可能性がある。

おそらく、最初は、"Self-Insured"の企業提供プランが州を越えて医療機関との契約を増やしていくことになろう。"Self-Insured"は、もともと連邦法のもとに管轄されている(「Topics2010年1月21日(2) 2つの企業提供保険プラン」参照)ため、こうした州際活動に馴染みやすいからだ。。しかし、医療保険改革法の施行段階で、"Self-Insured"に関する州政府の監督権限についても議論していかなければならなくなる可能性がある(「Topics2010年10月1日 "Exchange":8つの課題」参照)。

さらに、時間が経ってくれば、保険会社がそうした選択肢を用意する形で、"Fully-Insured" Planでも国内医療ツーリズムが一般的になってこよう。この際、まさに保険プランの監督はだれが行うのかが、本格的な課題となってくる。

民間市場における競争が、規制の枠組みを変えていく可能性を秘めているのである。

※ 参考テーマ「Medical Tourism