8月20日(1) 保険会社の独占状態 
Source :For Many Consumers, Few Insurance Choices (New York Times)
昨日のtopicsで、North Dakota州とIowa州が独占状態にあることを紹介した(「Topics2009年8月19日(2) 公的プラン vs 共済プラン」参照)が、上記sourceでは、さらに詳細に独占状態にある州について報じている。

それによれば、70%以上のシェアを独占している保険会社がある州が9州、半分以上を占めている州が17州あるという。人口密度の低い州では、むしろ保険会社による独占状態が当たり前となっているようだ。どうしてこういう状態になったかというと、保険会社の間でM&Aが進んだため、ということらしい。

では、保険会社のM&Aが保険料を押し上げてきたのかというと、そうだという研究者がいる一方、医療保険協会(America's Health Insurance Plans)は、むしろ医療機関の統合が進んだことが保険料を押し上げてきている、と主張している(「Topics2004年5月18日 医療保険市場の支配力」参照)。

では、共済プランが意味のある競争相手になれるのかというと、保険会社であるCIGNAは経験上難しいと明言する。なかなか解がないのである。

そうした中、上記sourceの中で、全米商工会議所の小規模企業懇談会座長で、全米レストラン協会理事のWordsworth氏の提案が注目される。小規模企業が単独で保険を購入しようとすると高コストとなってしまうので、例えば、全米レストラン協会がグループ保険を購入できるようにしてくれればコストが抑えられる、というのである。そのためには、州際を越えた保険購入を禁止している現行法律体系を変更する必要がある。保険は、適正な規制・監督を行うという名目で、従来から州政府の管轄となっている。ただし、ERISAにより、州際を越えて活動する企業、つまり大企業については、例外的に州政府の管轄をはずしている。これを、例えば業界団体ベースで適用除外にしてはどうか、という提案である。そうすれば、州を越えて保険会社・保険プランを選択することができるようになり、まさに『選択と競争』が生まれることになる。

同様の提案は、以前、当websiteでも紹介している(「Topics2007年12月21日(2) 医療保険州際化法案」参照)。それを見ると、従来から、共和党が州際化法案を支持しており、民主党が反対している。しかし、Obama政権も『選択と競争』を重視している(「Topics8月18日 公的プランは後退か」参照)のであれば、州際化を認めることで、共和党を引き込み、超党派の法案を提案してもよいのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月20日(2) 民主党首脳が単独採決を模索 
Source :Democrats Seem Set to Go It Alone on a Health Bill (New York Times)
夏休みも半ばを過ぎ、連邦議会再開まで2週間を残すのみとなった。しかし、医療改革法案を巡る議論は対立を深めるばかり、論点は拡散するばかり、という状況になっている。これに業を煮やした民主党首脳は、共和党は法案成立のための交渉を本気でする気がないと見切り、上下両院での民主党単独採決を模索し始めた。

文面には出てこないが、この民主党首脳の一人は、Pelosi下院議長であろう。法案の内容もさることながら、これまでBush政権下で共和党のやりたい放題に付き合わされてきた彼女としては、なんで今さら共和党の協力がないといけないのか、と考えても不思議ではない。また、そもそもリベラル派の中心的存在であり、法案内容について少しも妥協したくない、という想いに違いない。

ところで、面白いのは、「共和党が協力する気がない」と見切った主な理由の一つが、Grassley上院議員の言動だというところである。民主党では、ずっと同上院議員の言動をトレースしていて、夏休みに入ってからの同議員の言動が前向きではない、むしろ後退している、と判断したようだ。確かに、Grassley上院議員は、Baucus上院議員(D)とタッグを組み、上院超党派6人組のメンバーであったから、彼の意向は重要な意味を持つ。

しかし、もし民主党単独で行く、となったら、@法案内容はリベラル派の意向が尊重されたものになるのか、ABlud Dogsの意見取り込みは可能か、または党内分裂は避けられるのか、BBaucus上院議員の処遇はどうなるのか、といった課題が出てくる。非常に難しい政治判断が求められるところである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月19日(1) 強烈過ぎたメッセージ 
Source :White House Offers Reassurance That Public Option Is Very Much Alive (Kaiser Health News)
『公的プラン』は諦める---そんなメッセージがObama政権が発出され、連邦議会は混乱している。連邦議会議員達(民主党)は、「White Houseが曖昧なメッセージを送ったために、議会の友人たちは混乱している」と述べ、Pelosi下院議長は、改めて「新たな連邦政府保険プランの創設が最善の方策である」との支持表明を行った。共済組合案は、リベラル派を落胆させ、保険会社と共和党議員にはまったく受けなかった(New York Times)。

このような事態に、White Houseは、改めて「Obama大統領は『公的プラン』創設を法案に盛り込むことを望んでいる」とのe-mailを、連邦議会議員達に送付したそうだ。しかし、マスコミは、民主党中道派、共和党や、上院を取り込むために、Obama大統領は『公的プラン』を諦めてもいいと考えているようだ、と報じている。Los Angeles Timesなどは、リベラル派も結局は『公的プラン』なしの法案でも賛成に回る、と読んたうえでの大統領の決断だろうと推測している。

このような混乱のもとは、一にも二にも、情報の欠落である。『公的プラン』とはどのようなものなのか、その代替案として提案されている『共済組合プラン』とはどのようなものなのか、両者の違いは何なのか、・・・。White Houseと民主党リーダーの失策である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月19日(2) 公的プラン vs 共済プラン 
Source :Saving the Public Option (EPI)
Alternate Plan as Health Option Muddies Debate (New York Times)
もちろん、制度設計も提案概要も何も分からないままなのだが、たまたま、公的プランと共済プランに関する記述があったので、簡単にまとめておきたい。

まず、公的プランから。こちらは、Eonomic Policy Institute (EPI)がまとめたもので、タイトルから判る通り、公的プラン・サポーターの立場である。
  1. 『公的プラン』という選択肢を用意することは、医療保険改革の要である。長期的に医療費を抑制し、無保険者の保険加入を可能にする。

  2. アメリカの医療保険市場に競争が不足していることが、医療費の高騰を招いている。

  3. 『公的プラン』という選択肢を用意することで、民間保険も効率性と質で競争を余儀なくされる。また、『公的プラン』の場合、民間保険会社のように何百万ドルも利益を出す必要はない。その結果、医療費は大きく抑制され、企業や労働者にとって利益になる。

  4. 多くの労働者は企業保険プランに加入しているものの、従業員となっていても保険に加入していない人たちが何百万人と存在する。また、失業や転職は無保険者となる契機となっている。彼らのために、『公的プラン』の選択肢を用意する必要がある。

  5. 連邦政府が運営している"Medicare"は、コスト抑制の面で民間保険よりもずっと成果を上げている。
次に、共済プラン。こちらは、New York Timesに掲載されていたもの。共済プランの賛否両論は載せているものの、その実現性には懐疑的な論調となっている。
  1. 共済プランがどのようなもので、どれほど効率的に民間保険会社と競争できるのか、誰も正確なところはわからない。

  2. アメリカの医療保険市場では、コストを引き下げるために新たな保険モデルを導入しようと何度も試みてきたが、ほとんどが失敗に終わっている。

  3. 多くの産業で共済方式を導入して成功しているとの事例研究があり、その研究者達は、医療保険においても共済プランは導入可能としている。

  4. 確かに、Wisconsin州では、医療保険共済が成功している例がある。ただし、そこまで来るには30年という年月がかかっている。

  5. 医療保険共済の立ち上げには、約$6Bの財政支援とネットワークに参加する医療機関への補助が必要となる。また、医療保険共済が財政的に成立するには25,000人の加入、医療機関との実質的な交渉力を持つためには50万人の加入が必要と言われている。そうなるまでには、相応の時間が必要となる。

  6. 共済プランを推奨している一人がConrad上院議員(D)だが、その選出区North Dakota州では、Blue Cross Blue Shield of North Dakotaが民間医療保険市場の90%を独占している。同州では実際に競争がなく、共済プランは代替となる選択肢を低いコストで提供できるかもしれない。

  7. Grassley上院議員(R)の地元、Iowa州では、1990年代に医療保険共済を振興するための立法措置を講じた。しかし、その法律は、2年間で実質的効力を持たなくなった。医療保険共済が一件もなくなってしまったためだ。それは、Iowa州のWellmark Blue Cross Blue Shieldが民間医療保険市場の70%を占め、医療機関との契約においても圧倒的な交渉力を持っていたからである。

最後の2つのエピソードは、皮肉とも取れる。Conrad上院議員(D)、Grassley上院議員(R)の二人とも、超党派6人組に入っている。その超党派6人組が、『公的プラン』の代替として『共済プラン』の創設を検討している。NYT紙は、『Grassley上院議員(R)の地元では既に試みて失敗していますよね。それよりももっと独占度の高いConrad上院議員(D)の地元で成功する可能性がありますか?』と言っているのである。

『公的プラン』に反対してきた"America's Health Insurance Plans"は、『共済プラン』も受け入れる余地はない、と明言しており、上院超党派6人組が期待している政治決着も難しそうである。それは、「『公的プラン』と呼ぼうが『共済プラン』と呼ぼうが本質的な違いではない」(Hatch上院議員(R))と受け止められているからである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月19日(3) 各論も動き出す 
Source :Employer mandate directs health care reform debate (Kansas City Business Journal)
『公的医療保険プラン』のような大きな骨の議論が動き出すとともに、医療保険改革の各論に関する議論も盛んになってきている。上記sourceでは、"Pay-or-Play"ルールの適用がどのような範囲になるのか、という点に着目して報じている。

一般的には、"Pay-or-Play"ルールの適用は、中小企業が反対に回るものと思われている。従来から医療保険プランを提供してきた企業にとっては、ルールの中身次第のところはあるが、影響は小さくて済む見通しだからである。これまで医療保険費用を負担してこなかった企業には中小企業が多く、そうしたところが、一気に人件費の数%もの負担を求められる可能性がある。

しかし、意外にも、医療保険提供義務を課されることに反対しない、という中小企業経営者も多いことが報じられている。そもそも、医療保険プランの提供は企業にとっての社会的責務、という考え方が定着しているのだろう。アメリカでのビジネス経験のある日本の経営者に聞くと、「医療保険プランを提供していないような企業には人材が集まらない」と話されていた。

そうであれば、ルールの中身を慎重に吟味し、時間をかけて適用していくようにしていけば、それほど大きな混乱もなく導入される可能性はある。

また、別の話として、FSA等に関する税制優遇措置を堅持すべき、という活動も始まった(Press Release by Employers Council on Flexible Compensation)。上院、下院ともに、財源確保のために、既存の医療費対応の税制優遇措置を見直すこととしている(例えば「Topics2009年8月7日 上院財政委員会案」参照)。

これに危機感を抱いたEmployers Council on Flexible Compensation (ECFC)は、"Save Flexible Spending Plans"というサイトを立ち上げ、ここを通じて連邦議会議員に働きかけを行っており、一定の効果を挙げているという。

もともと、こうした医療貯蓄勘定は、共和党政権のもと、市場原理の促進による医療費抑制のための手段として拡充されてきた経緯があり、民主党政権では『金持ち優遇』としてターゲットにされやすいものである。しかし、それなりに定着してきたものであるため、これを根こそぎ廃止にすることには大きな抵抗も予想される。また、HSAのように、CDプランとの組み合わせで企業が導入を増やしているという、複合的な要素も含まれている。もし、HSAの大幅な見直しが行われれば、企業のCDプランも影響を受けざるを得なくなる。

これら2つの課題は、財源問題にも直結することから、その成否が法案の支持不支持を左右する可能性がある。

Obama大統領のイニシアティブを支持するかどうかで、団体の内部対立が生じている(Kaiser Health News)。Medicareの支出削減が法案に盛り込まれているのにAARPが支持したことに怒って、AARPからの脱退者が急増している。また、法案支持表明をしたAMAの会員にも衝撃が走っており、AMAとして法案を最後まで注視する、とのメッセージを発することで、態度を留保するところまで後退してしまった。

さらには、今のところどの法案にも盛り込まれていないが、最後までわからないので念のためとばかりに、"American Beverage Association"が、ソフトドリンク税反対キャンペーンを継続している。

具体策を何ら示さないままに夏休み中の医療保険改革運動を展開してしまったために、全米でまったく無駄なキャンペーン合戦が繰り広げられているような気がしてならない。この点だけでも、White Houseと連邦議会の罪は重い。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「CDプラン」、「HSA

8月18日 公的プランは後退か 
Source :"Public Option" in Health Plan May Be Dropped (New York Times)
昨日紹介したRichard H. Thaler教授の寄稿が功を奏した、という訳でもないだろうが、『公的医療保険プラン』の創設についてWhite Houseは拘らない、とのメッセージが発出されている。Obama政権関係者の発言は次の通り。
ただし、こうした動きに対して、予てから指摘されているように、民主党内のリベラル派は黙っていられない。 また、『公的医療保険プラン』を落とすからといって、共和党が超党派法案に積極的に関与してくるかというと、それも怪しい。 Obama大統領にとっては、進むも地獄、退くも地獄といった状況になってしまったようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月17日 改革の主目的は何か 
Source :A Public Option Isn’t a Curse, or a Cure (New York Times)
夏休みの最中、医療保険改革に関するキャンペーンも激しさを増しているという。これまでの6ヵ月間で、医療保険改革に関するテレビCMは、$57M以上にのぼる。その大半は最近45日間に使われており、内訳は、賛成派$48M、反対派$9Mとなっている(New York Times)。

これらのCMで何を主張しようとしているかというと、賛成派は『今の医療保険制度は決定的に崩壊している』、反対派は『連邦政府が医療をコントロールしようとしている』という点である。ところが、両派とも具体的な提案をもとにした主張ではなく、文字通り、単なるキャンペーンとなっている。

こうした状況に警鐘を鳴らしているのが、上記sourceである。そのポイントは次の通り。
  1. 医療改革の主目的は、@多くの無保険者をどうするのか、Aどうやって医療費全体の効率化を図るのか、の2点である。

  2. 『公的医療保険プラン』の是非に関する議論は、真の課題ではなく、改革の邪魔になるだけである。

  3. 『公的医療保険プラン』を巡る賛否両論が喧伝されているが、どちらが正しいのかは法案の具体的な中身がわからないと評価できない。
  4. 例えば、Obama大統領が主張する通り、『公的医療保険プラン』が保険料のみで運営されるものとしても、連邦議会はその具体的な運営方法を明示していない。

    反対に、連邦政府から補助金が出るとしたら、保険市場を崩壊させるのではないかとの懸念は正当なものとなる。また、プランに赤字が発生した場合はどうするのか。

  5. また、『公的医療保険プラン』が医療機関や製薬会社との間の交渉権を持つのかどうか。もし持つのであれば、民間(保険)との競争という形は弱まる。

  6. もしも、『公的医療保険プラン』が保険料のみで運営され、特別な交渉権は持たないとすると、何が起こるのだろうか。

  7. 宅配便の例を考えてみるといい。FedExとUPS(民間)、US Postal Service(公的)がサービス提供している場合、多くの利用者は民間企業を利用する。

  8. また、US Postal Serviceが赤字を出し、費用削減のために効率化を図ろうとすると、様々な利害関係者の圧力を受けて連邦議会が介入するであろう。

  9. 結論として、『公的医療保険プラン』に厳しい条件を付ければ、たくさんの加入者を呼び込むことはできず、現在の医療市場を崩壊することはない。逆に緩い条件を付ければ、市場を阻害することになる。

  10. 従って、連邦議会議員達には、『公的医療保険プラン』の是非ではなく、もっと根本の議論をしてもらいたい。

  11. 共和党は、『公的医療保険プラン』が保険料だけで運営され、特別な交渉権を持たないことが確約されれば、その創設を認め、他の譲歩を引き出すがいい。

  12. 民主党は、医療市場に競争が必要だと思うのであれば、『公的医療保険プラン』を保険料だけで運営し、特別な交渉権は持たせないことを約束したらいい。もっといいのは、改革実現のために創設自体を諦めたらいい。『公的医療保険プラン』は、改革の真の目的を達成するのには必要でもなければ十分でもない。
上記の指摘は、当websiteが持っている疑念、即ち、『本当に無保険者は減るのか』という争点はないのか、に通じるものがある(「Topics2009年8月11日 医療改革法案の争点は何か」参照)。また、今全米で繰り広げられているメディア・キャンペーンは一体何のためなのか。

ところで、上記sourceの執筆者である、Richard H. Thaler教授とはどんな人物か。Wikipediaではこうなっている

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月13日(1) 国民との対話は失敗か 
Source :For Lawmakers, Health-Plan Anger Keeps Coming (New York Times)
連邦議会で夏休み前に法案の確定まで至らなかったため、Obama大統領、民主党議会議員達は、夏休みを利用して、選挙区に戻り、医療保険改革の必要性を訴える会合を開いている。Obama大統領としては、大統領選挙中に各地を席巻した経験から、なかなか動きが迅速にならない議会の法案作成を後押ししようということだったのだろう。

ところが、各地で怒った選挙民から猛攻撃を受けているという。もちろん、マスコミ報道なので、改革賛成派の大人しい対応はネタにならないので、割愛されている可能性も十分ある。

特に、怒りと疑念を抱いているのが高齢者である(Los Angeles Times)。中には根も葉もない噂レベルのものもあれば、『Medicare支出を大幅カット』との提案に不安を抱いているという、ある意味的確な指摘もある。

しかし、どうしてこういう事態が全米で広まっているのかというと、情報がないからである。下院の委員会レベルで議論されている法案の詳細、財源手当てなど、重要な情報が開示されていない。また、より注目されている上院超党派グループの議論は、概要すら明らかになっていない。Obama大統領も、法案作成を議会に丸投げしたままで、具体的内容について指導力を発揮していない。

こうした状況のまま、選挙民と直接会って改革の必要性を訴えたものだから、却って不安や疑念を深める結果になってしまったようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月13日(2) CA州同性婚論争は一時お預け 
Source :Caution on Fighting Marriage Ban (New York Times)
今年5月、CA州最高裁がProposition 8の成立を認めた。その際、当websiteでは、今後の対応について、次のように記している(「Topics2009年5月28日 Proposition 8確定」参照)。
『同性婚推進派にとって、今後の選択肢は、次の2つとなる。
  • 連邦最高裁での判決を目指して、連邦裁判所に提訴する。
  • Proposition 8を無効にするための州民投票を提案する。』
前者については、連邦裁判所から、Proposition8にチャレンジするのかどうかを、17日(月)までに提出するよう求められている。しかし、同性婚を推進する人々は、州レベルでの広がりを重視しており、おそらくこの選択肢はないだろうと思われる(「Topics2009年5月7日 New Englandが同性婚の聖地に」参照)。

後者を選択した場合、次の問題になるのが、その州民投票提案の時期である。この提案時期を巡って、同性婚推進グループの中で意見が割れているそうだ。世論調査の結果をみると、CA州民の49%が同性婚を承認、44%が不承認と出ており、これをもって、『早期に打って出た方がよい、来年の中間選挙で争おう』という主張がある一方、『世論調査は当てにならず、来年の11月にはどうなっているかわからない』と来年の中間選挙は見送るべき、との主張もある。

後者の考え方では、次の投票は2012年の大統領選挙時である。これから3年間の間に、現在16〜18歳の若者が選挙権を持つことになる。彼らの間では同性婚を認める考え方が多くあり、あと3年待てば、より確実にProposition8をひっくり返せる、という訳である。

結論がどうなるかわからないが、若い世代が入ってくれば民意も変わってくると期待できる社会システムは羨ましい限りである。

※ 参考テーマ「同性カップル

8月11日 医療改革法案の争点は何か 
Source :A Primer on the Details of Health Care Reform (New York Times)
上記sourceの"primer"とは、『入門書・手引き』という意味だが、別にこれを熟読しても、医療改革法案の内容が判明する訳ではない。何が争点になっているのか、推進派、批判派が何と言っているのかがまとめてあるだけである。しかも、法案の詳細が明らかになっていないために、何が正しいのかもわからない。

ただ、アメリカ国民が何に関心を持っているのかがわかるのではないかと思い、丁寧に内容をまとめておきたいと思う。

争  点 推進派の主張 法案の概要 批判派の主張 関連コメント
保険加入を継続できるのか 《Obama大統領》
望むなら、医師・医療保険プランを継続できる。誰も奪うことはしない。
・保険会社、企業に保険プラン提供の継続を義務付けてはいない。

《下院法案》
・受容できる保険プラン内容の基準を定める
・企業保険プランは5年以内に基準を満たす内容に移行しなければならない。

《上院HELP委員会案》
・加入保険プランの継続を選択できる。
- 《NYT》
個人で保険プランに加入している者にとっては大きな影響がある。当初は加入プランの変更は免れるが、保険会社が保険内容の追加をしなかったり、新たな被保険者の加入が見込めないため、長続きはしない。

《Salisbury @EBRI》
医療保険プランは変更され、医療機関は既存の保険プランを受け容れなくなる可能性がある。
医療の社会主義化か 《民主党》
民間保険と共存する連邦政府保険プランの創設は、アメリカ独自の道である。
《下院法案》
連邦政府保険プランの創設

《上院超党派グループ》
民間非営利共済組合を検討
《共和党》
連邦政府保険プランの創設は、医療の社会主義化、医療の官営化につながる。
《NYT》
・法案内容は、民間保険の存続を前提にしているが、民間保険はまったく新しい連邦政府基準に従うことになる。
・民間保険が存続できるかどうかは、法案の詳細、特に連邦政府保険プランの保険料と償還額による。
・連邦政府は、今年、医療費総額$2.5Tの35%を負担する見込みであり、既に大きな支配力を持っている。
保険会社は悪者か 《民主党》
保険会社は利益追求のために現行制度の維持を望んでいる。
- 《保険会社》
・病歴による保険加入拒否、保険料加算を禁止するという民主党案を支持する。
・連邦政府保険プランの創設に反対。
《NYT》
・保険会社の連邦政府保険プラン反対は、連邦議会議員の間にある疑念よりは弱いものである。
・民主党にとっては、現行保険制度は持続可能性がないことを説明するよりは、保険会社を悪者にする方が簡単である。
財政赤字は拡大か 《Obama大統領》
・財政赤字は拡大させない。
・支出削減と新税で費用増分を賄う。
- 《共和党》
・Obama提案では医療費増加を抑制することはできない。
《CBO》
・下院法案では財政赤字は拡大するとみている。

《NYT》
・現時点では誰が正しいのかわからない。
安楽死と妊娠中絶 《AARP》
・「安楽死推奨」という主張は嘘。

《民主党》
・現行制度でも中絶に連邦政府補助金を利用することはできない。法案はそれを維持しているだけ。
《下院法案》
・Medicareに、ホスピスを含め終末医療について医師と相談することができる選択肢を用意。
・Medicare所管庁に、終末医療の質を計測する手法を提案するよう指示。
・医師が終末医療に関するデータを連邦政府に報告するよう、経済的なインセンティブを用意。

《下院法案》
・連邦政府保険プランを含め、医療保険プランで中絶をカバーする選択肢を用意することができる。
・しかし、中絶の償還には保険料収入しか使えず、連邦補助金は使えない。
《保守派等》
・終末医療が制限され、安楽死が推奨されかねない。

《National Right to Life Committee》
・中絶をカバーするような保険に連邦政府から補助金を出そうとしている。
-
Medicareは削減か 《Obama大統領》
・Medicareの内容を削減しようなどとは考えていない。
・無駄と非効率をなくそうとしているだけ。
・医療機関等が効率化を進めるよう、Medicareの償還額を縮減する。
・Medicareを提供している民間保険プランに対する連邦政府支出を、10年間で$150B削減する。
《共和党》
・民主党は、連邦政府保険プランの費用を賄うために、Medicareを大幅に縮減しようとしている。

《医療機関》
・Medicare加入者のアクセスを一部制限することにつながる。
-


こうやってみると、『本当に無保険者は減るのか』という争点はないようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル