5月10日 Wells Fargoの年金凍結 
Source :Wells Fargo freezes traditional pension plan (San Francisco Chronicle)
Wells Fargoは、Wachoviaの買収と預金の増加により、第1四半期に黒字を計上したが、7日公表された財務省のストレステストにより、137億ドルの資本増強が必要とされた。これは、Bank of Americaに次いで、2番目に大きな資本増強必要額である。

これを見計らったように、同行は、以前から運営してきたDBプランと、Wachoviaのcash balanceを統合した上で、凍結する旨従業員に伝えた。代替措置として、DCプランのマッチング拠出の上限額を、給与の4%から6%に引き上げる(マッチング割合は1:1を維持)。

上記sourceでは、従業員が『ショックだ。会社への忠誠心が揺らぐ』とコメントしている。また、外部の有識者も、金融危機を切っ掛けにして、ベネフィットの削減を狙っているだけなのではないか、と疑っている。

これまでわが世の春を謳歌してきた金融機関では、しばらくこうした軋轢が続くことになろう。

ちなみに、最近のDBプラン凍結企業のリストはこうなっている(Pension Right Center)。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン

5月9日 年金ガバナンス 
Source :More States Start Pension Inquiries (New York Times)
地方政府職員のための年金基金で、不適切な投資が行われていたのではないか、との見方が、全米に広がっている。上記sourceでは、New York、Texas、Chicago、New Mexicoなどの例が紹介されている。金融危機で年金資産が大打撃を受け、その責任追及の中でこうした話が出てきたようだが、実はそんなに新しい話ではなく、当websiteでも、2002年に、CalPERSとBusinessWeekのいがみ合いを紹介している(「Topics2002年6月17日 CalPERSの投資基準」参照)。

それにしても、アメリカという社会は、お友達の間で金を回して儲ける、という文化が根付いてしまっているらしい。Enron破綻でコーポレート・ガバナンスが問題になったが、それを振り回して世界中の経営者を突き上げていたのは、年金ファンドではなかったのか。そのガバナンスがこの体たらくでは、どうしようもない。

アメリカの企業や年金基金のガバナンスを形式だけで論じるのは止めた方がよさそうである。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「SOX法

5月8日(1) 大統領予算教書
Source :FY 2010 President's Budget - Transmittal
2010年度に関する予算教書が公表された。大きな方針は既に2月に示されている(「Topics2009年2月27日 大統領予算方針 」参照)が、今回は、いかに歳出削減の目出しをしていくのか、が大きな焦点となっている。

Obama大統領は、121の制度改革により、2010年度だけで$17Bの歳出カットを提案したといわれている(New York Times)。その半分は軍事費の削減で占められているとのことである。

また、社会保障プログラムについても、大きな削減額が提案されている。具体的には、(1)医療制度改革と(2)公的年金改革であり、その青写真も大統領ならびに民主党幹部から提示されている。これらについては、また別の項でまとめることとしたい。

ところで、どこの国でも程度の差こそあれ、制度や法律には推進した政治家がいる。「これは俺が作った法律だ」と。特に、アメリカの場合には、誰が提案者なのかが明示されるし、大統領の法案署名式からもわかるように、法案が成立すると、議員の勲章となる。そもそも、行政府に法案提出権がないことから、ほぼ全ての制度についてスポンサーが必ずついていることになる。

今回のObama大統領の制度改革提案は、121の制度改革であれば、その後ろに必ずスポンサーがいる。当然、そういう議員達は、俺の勲章を剥奪する気か、と反対することになる。

それは、大統領もよくわかっていて、上記sourceで、自ら、"Change is never easy."と語りかけている。"Change"を掲げて大統領選を戦ったObamaは、2010年度予算を巡って、再び国民を味方に引き付けることができるだろうか。

※ 参考テーマ「一般教書演説

5月8日(2) 大統領医療改革提案
Source :President Obama's Fiscal 2010 Budget - Transforming and Modernizing America's Health Care System
2010年予算教書で、医療改革に関する大統領提案が行われている。大筋は、既に2月の予算方針で示されているが、改めてポイントをまとめておく(「Topics2009年2月27日 大統領予算方針」参照)。

  1. 既に実行に移した改革

    1. COBRAを利用した失業者の保険加入促進(「Topics2009年2月17日(1) COBRA-65%補助」参照)

    2. SCHIPの拡充(「Topics2009年2月5日 新SCHIP拡充法案成立」参照)

    3. 5年以内にすべてのアメリカ国民の医療情報を電子化する

    4. 予防と健康促進対策(復興法で$1Bを手当)

  2. 医療改革の原則

    1. 選択肢を保証。医療保険プラン、医療機関の選択を保証する。企業が提供するプランの存続も保証する。

    2. 医療のムダ、過大な管理コストを削減する。

    3. 予防、健康増進を進める。

    4. すべてのアメリカ人が保険加入できるようにする。

    5. 患者の安全を確保する。そのためにITCを最大限活用する。

    6. 財源の持続可能性を確保する。そのために、生産性を高め、新たな財源を確保する。

  3. 財源措置

    1. 『医療改革基金』(10年間で$633.8B)の財源は、税制改正(高額所得者への課税強化)と医療の効率化(10年間で$316B)により捻出する。

    2. 保険会社が提供する"Medicare Advantage"の契約について、競争プロセスを導入する。(10年間で$175B)

    3. ジェネリックの使用を促進する。
      @ブランド品とジェネリックの密約を禁止する(「Topics2007年1月18日(2) Genericsを巡る密約」参照)。
      AMedicaid処方薬(ブランド品)の割引率を15.1%から22.1%に引き上げる。

    4. Medicare、Medicaidにおける過払い、不正の是正。

    5. Medicare加入者の入院について、最初の入院+退院後30日間の診療報酬を包括化する。退院後30日以内に再入院した場合には、診療報酬を引き下げる。(10年間で$26B)

    6. Medicareの診療報酬に成果連動の要素を盛り込む。(10年間で$12B)

    7. 家計所得$250,000超の申告所得控除を縮小する。申告所得控除を適用できる税率を28%までに制限する。(10年間で$318B)
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「Medicare

5月7日 New Englandが同性婚の聖地に
Source :Maine Becomes 5th State to Allow Same-Sex Marriage (AP)
上記sourceによれば、今週に入ってMaine州議会は同性婚認可法案を可決し、これに州知事はあっさりと署名したらしい。施行は9月中旬と見込まれているが、反対派は州民投票で阻止する動きに出るそうだ(AP)。

一方、New Hampshire州議会も、同性婚認可法案を可決し、州知事に署名を求めて送付した(AP)。

この結果、今現在の同性婚に関する法的ステータスは次のようになった。
同性婚の法的ステータス
州法州最高裁判決他州認可同性婚承認認可法案審議中異性婚同等権利賦与
MassachusettsA@
Vermont
ConnecticutA@
Maine
Iowa
New York
Washington, D.C.○     ←←   ○
New Hampshire
New Jersey
Rhode Island
California○→×
Oregon
Wasington
ところで、表題にある"New England"は、次の6州の総称である。 この6州について、上記表中でピンク色を網掛けしてみると、明らかにNew Englandは、同性婚を積極的に認めようとしている地域であることがわかる。実際、同性婚推進団体は、2012年までにNew Englandの6州で同性婚が法的に認められるよう運動していくという。

※ 参考テーマ「同性カップル

5月6日(1) C-VEBAの苦しいスタート 
Source :UAW chief says union will sell its Chrysler stock (AP)
ChryslerがChapter 11を申請してから初めて、UAWのGettelfinger会長が会見を行った。その中で、C-VEBAについて、次の様に語った。
  1. 新C-VEBAは、現在の基金が保有する$1.5Bを引き継ぐ。また、来年はChryslerから$300Mの拠出が行われる。
  2. 新Chrysler株は、C-VEBAへの基金拠出のために、可能な限り早期に売却したい。
  3. 債権者グループよりも有利な条件となっているとの批判は当たらない。C-VEBAが受け取る新Chrysler株は、今のところ何の価値もなく、今後も厳しい。
  4. C-VEBAは大きなリスクを取っている。実際、ベネフィットのレベルはさらに切り下げる必要がある。
  5. しかし、他の代替案に較べれば、格段に良い条件であった。
UAWも、C-VEBAについては厳しい見通しであることを、ようやく公式に認めた形となった。こうした姿が明らかになっていくのを見て、GMのUAW組合員はどのように反応するのだろうか。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

5月6日(2) DCも他州同性婚を承認へ 
Source :D.C. Gay Marriage Measure Set for Mayor's Signature (Washington Post)
5日、Washington, D.C.の議会で、他州で認可された同性婚を承認するとの法案が、12 vs 1の圧倒的多数で可決された。Fenty市長(D)は、同性婚支持派であり、署名は確実視されている。

D.C.は、今後、同性婚そのものを認める法案を議論することになると見られている。連邦の首都での議論であるだけに、注目が集まりそうである。
同性婚の法的ステータス
州法州最高裁判決他州認可同性婚承認認可法案審議中異性婚同等権利賦与
MassachusettsA@
Vermont
Connecticut
Iowa
New York
Washington, D.C.○     ←←   ○
New Hampshire
Maine
New Jersey
California○→×
Oregon
Wasington
※ 参考テーマ「同性カップル

5月5日 公的プログラムの是非 
Source :Schumer Offers Middle Ground on Health Care (New York Times)
医療保険改革を議論するうえで大きな課題となっているのが、公的プログラムの創設である。言うまでもなく、MA州皆保険制度では、"Connector"と呼ばれる公的プログラムが大きな役割を果たしている。同様の仕組みを、Obama大統領も提唱("Exchange")していた(「Topics2007年5月30日(1) Obama上院議員の皆保険提案」参照)。

連邦議会民主党でも、公的プログラムの創設を検討しているが、これに対して、共和党、保険業界は強く警戒している。公的プログラムの創設により、民間保険が圧迫され、保険市場が成立しなくなるのではないか、との懸念である。

こうした懸念の解消策として、Schumer上院議員(D-NY)が、公的プログラムについては、民間保険と同様の規制を適用するとの提案を行った。上記sourceによると、同議員提案の基本方針は次の通り。
  1. 公的プログラムは独立採算制とする。保険料と自己負担ですべて賄い、税や公的支出は受け取らない。

  2. 公的プログラムによる償還払い(診療報酬)は、Medicare以上のレベルとする。

  3. Medicareに参加している医師、医療機関に公的プログラムへの参加を強制しない。

  4. 連邦政府がプレイヤーと審判を兼任しないよう、公的プログラムの運営責任者は保険市場監督者とは別の者とする。

  5. 民間保険と同様、公的プログラムも必要となる支払いの予測に応じた基金を設ける。

  6. 保険会社と同様の最低利益水準を設ける。
それでも、まだまだ課題は残るという。
  1. 公的プログラムの保険料に州所得税を課すことはできるのか。民間保険料には課している。

  2. 公的プログラムは州法の適用を受けるのか(民間保険は州法により規制されている)。

  3. 連邦政府は、公的プログラムの破綻を認めることができるのか。
こうした提案に対しても、民業圧迫は免れないとの反対意見が根強く、民主党内でもそうした意見が出ているという。

一方、民間保険と同じ仕組みを公的なものとして新たに作る意味がどこにあるのか、といった意見も当然考えられる。むしろ、公的プログラムが必要という主張の背景には、民間保険とは異なる仕組みが不可欠、という考え方があったはずである。

連邦議会民主党が結論、成果を急ぐあまり、議論が迷走し始めたのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/MA州

5月4日 最高裁判事を巡る思惑 
Source :As a Professor, Obama Held Pragmatic Views on Court (New York Times)
最高裁判事が空席になるとの情報は、政治的には大きな波紋を呼んでいる。先に紹介したWashington Postの記事(「Topics2009年5月2日(1) 最高裁判事が引退か」参照)では、おそらく女性を指名するであろうとのことで、候補者リストが掲載されていたが、上記sourceのNew York Timesでは、むしろObama大統領との交友関係を重視したリストを掲載している。従って、男性の候補者も含まれている。
WSonia SotomayorFederal judge on the U. S. Court of Appeals for the Second Circuit
NCass R. SunsteinFelix Frankfurter Professor of Law at Harvard Law School
WNDiane P. WoodFederal judge on the United States Court of Appeals for the Seventh Circuit and a Senior Lecturer at the University of Chicago School of Law
WNElena KaganSolicitor General of the United States
WKathleen M. SullivanStanford University law professor
WKim McLane WardlawFederal judge on the United States Court of Appeals for the Ninth Circuit
WJennifer M. GranholmMichigan Governor
WLeah Ward SearsGeorgia Supreme Court Chief Justice
W…Washington Post, N…New York Times
上記sourceでは、こうした候補者リストよりも、Obama大統領自身がどのような選択を考えているのか、特にアカデミックの世界にいた頃の大統領の発言や思考を紹介している。その集約ともいえるパラグラフが次である。
"Former students and colleagues describe Mr. Obama as a minimalist (skeptical of court-led efforts at social change) and a structuralist (interested in how the law metes out power in society). And more than anything else, he is a pragmatist who urged those around him to be more keenly attuned to the real-life impact of decisions. This may be his distinguishing quality as a legal thinker: an unwillingness to deal in abstraction, a constant desire to know how court decisions affect people's lives."
ここでも、最も重要なキーワードとして、"pragmatist"が登場する(「Topics2009年4月2日(2) The EconomistのObama評」参照)。

また、司法に過大な役割を期待しておらず、最高裁が社会を一定の方向に引っ張っていくという姿は想定していない。

こうしたところからすれば、Obama大統領が指名する候補者は、穏健かつ現実的なリベラル派、という姿が想定できる。ただし、それなら、Souter判事が最適であったのではないか、と皮肉な見方もできる(Los Angeles Times)。

一方、連邦議会では、様々な思惑が入り乱れているようだ(New York Times)。

久し振りに主導権を握った民主党には、これまでの積年の恨みをはらさんとばかりに、バリバリのリベラル派を指名すべき、との考え方がある。彼らの論拠は、かつて右派であるAlito判事の指名に最後まで反対した民主党上院議員25名の中に、Obama上院議員(当時)が含まれていたことにある(「Topics2006年2月1日(3) 右傾した最高裁」参照)。

反対に、そうした露骨な路線が、共和党の無用な反発を招き、他の法案、例えば移民法改正や医療保険改革に悪影響をもたらすことを懸念する考え方もある。こうした考え方は、Obama大統領の現実的志向とマッチしているのかもしれない。

当然のことながら、共和党は民主党の出方を待って対応を決めることになる。Obama大統領と上院民主党の距離感を確認するにはちょうどよい機会となりそうである。

※ 参考テーマ「司  法

5月3日(1) Crysler-VEBAは救われたのか? 
Source :Union Takes Rare Front Seat in Chrysler Deal (New York Times)
正直に申し上げて、迷っている。CryslerのVEBAは救済されたのかどうか(「Topics2009年5月2日(3) Chrysler-ベネフィットの行方」参照)。

上記sourceでは、Chapter 11が予定されていながら、または入りながら、今回ほど組合員のベネフィットが守られたケースは稀だ、という。確かに、2,000年代に入ってからのChapter 11は、ベネフィットをカットするために利用されていた、といっても過言ではないほどであった。

ところが、今回のChryslerの場合には、僅かとはいえDaimlerからの年金プラン拠出金が確保されたこと、VEBA設立のための財源が確保されたこと、など最大限の配慮がなされていることは確かである。特に、VEBAについては、新Chryslerの株と債券によって財源が確保された。しかも、上記sourceによれば、債券の引き受け手が連邦政府であるとのことである。

財務省資料と上記sourceだけでは、債券の仕組みの詳細が判らないので、確信を持って言えるわけではないが、連邦政府がVEBAの財源を融資したといえるのだろう。そうした意味では、連邦政府がVEBA設立を援助したと表現してもよかろう。UAWの幹部も、大いに評価するとのコメントを出している。

しかし、これは新Chryslerがうまくいけば、ということである。再建が不調に終わればどうなるか。上記sourceの次のパラグラフが、如実に語っている。
"If Chrysler goes under, pensions will be covered in part by the federal pension agency, but workers will receive much less than they are owed. The VEBA would be in dire straits, since it would owe the Treasury and have nothing to pay it back with."
再建が不調に終われば、連邦政府に対する借金は返せない、Chrysler株は紙くずとなる、ということで、VEBAは消滅する。そもそも、9%もの利払いを続けられるほど、Chryslerは稼げるようになるのか。それほど力強く再生できるからこそ、今回のChapter 11入りの意味がある、ということなのだろうが、退職者達のベネフィットを保証したことにはならない。そうした意味で、今回の連邦政府の対応が、本当の意味でVEBAを救済したのかどうか、迷うところなのである。

もっとも、債券の償還期限である13年後には、今の退職者医療プラン加入者はほとんどMedicareに移行している。破綻の先送り、という意味なら、間違いなくUAWの勝利と言えるのだろうが・・・。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

5月3日(2) 予算決議案 
Source :An original concurrent resolution setting forth the congressional budget for the United States Government for fiscal year 2010, revising the appropriate budgetary levels for fiscal year 2009, and setting forth the appropriate budgetary levels for fiscal years 2011 through 2014 (S.CON.RES.13) (CRS Summary)
4月29日、2010年予算に関する決議案が連邦議会で可決された。これまで民主党が進めてきた"Reconciliation Process"を含むものとなっている(「Topics2009年4月26日 Reconciliation Process」「Topics2009年4月29日(2) Filibuster回避」参照)。

上下両院とも、過半数の賛成多数で可決しているが、党派色の強い結果となっている。というよりも、両院とも民主党からも反対票が入っており、今後の火種となりかねない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「政治/外交

5月2日(1) 最高裁判事が引退か 
Source :Souter Reportedly Planning to Retire From High Court (Washington Post)
上記sourceでは、最高裁のSouter判事が引退する見込みである事を伝えている。Souter判事は、以前から『Obama政権が成立したら最初に引退するのは自分だ』と周囲に話していたことに加え、10月から始まるセッションのためのスタッフを募集していないことから、こうした観測記事が出された。

最高裁判事が1つ空席になり、その後任を指名することで、Obama大統領の政治志向をアピールする絶好の機会となる。

現在の最高裁メンバーおよびその政治的志向は、次の通り(Wikipedia "Supreme Court of the United States"参照)。 こうやってみると、Souter判事は、決して歳というわけではない。ただ、あまり表立った意思表明や司法判断は下さず、むしろ保守派にとって有利な存在であったとも言われている。この辺りが引退の動機かと思われる。

さて、その後任候補だが、Obama大統領は、予てから次の判事指名は女性にしたいと考えていたそうだ。現在の最高裁判事のなかで女性は、Ginsburg判事一人だからだ。上記sourceで示されている候補者リストは次の通り。 ※ 参考テーマ「司  法

5月2日(2) 退職者医療保険料の税額控除 
Source :Tax Credit Is Possible To Aid Auto Retirees (Wall Street Journal)
ChryslerがChapter 11を申請し、従業員のベネフィットがどうなるのか、いよいよ真剣な議論が始まろうとしている。先月下旬あたりから、連邦政府が、自動車会社の退職者医療プラン、年金プランに対する支援をほのめかしているが、その具体策はまだ明らかにはなっていない(「Topics2009年4月24日 ChryslerはChapter 11へ」参照)。

上記sourceでは、その重要な政策ツールとなる可能性があるとものして、退職者医療保険プランの保険料に関する税額控除制度を紹介している。ポイントは次の通り。
  1. 対象者は、55歳から65歳。

  2. 元々は退職者医療プランの保険料の65%を還付していたが、先の「アメリカ復興再投資法」で80%に引き上げられた(「Topics2009年2月14日 アメリカ復興再投資法」参照)。

  3. 税額控除制度を利用できる条件は次の2点。

    1. 元の雇い主である企業の財政状況が悪化し、約束した医療保険給付ができなくなった。
    2. 元の雇い主である企業の年金プランが廃止され、PBGCに移管されている。

  4. 2002年に立法化され、鉄鋼メーカーの退職者達が利用している。
Big 3やDelphiなどの自動車関連産業の企業の退職者達は、これまでのようにただ同然の保険料で医療保険加入を続けられなくなるため、連邦政府が8割も補助してくれるというのであれば、確かに大きな支援となろう。

ただし、上記3.のAにある条件は、かなり厳しいものがある。上記sourceでUAWのデータとして紹介されているのだが、Big 3の早期退職者(55〜65歳)の年金額は、平均で$32,760 (2003年) にもなっている。ところが、これを廃止してPBGCに移管するとなると、PBGCが保証する最高額は、50歳代で$18,900にしかならない。ほぼ6割になってしまう。それでも税額控除を受けられる方がよいのかどうか、UAWとしても悩むところであろう。

まあ、Chapter 11に入ってしまい、年金プランを廃止する、と決まってしまえば、この税額控除制度を利用するしかないのだが・・・。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

5月2日(3) Chrysler-ベネフィットの行方 
Source :Obama Administration Auto Restructuring Initiative, Chrysler-Fiat Alliance (Department of Treasury)
財務省から、Chryslerの再建について整理したプレスリリースが公表されている。その概要は次の通り。
  1. 新Chrysler

    1. 新Chryslerが旧Chryslerから、$2Bで資産を買い取る。これを債権者グループへの支払いに充てる。
    2. 株式保有割合ならびに指名できる取締役数は次の通り。
      株主保有割合役員数備 考
      VEBA (=UAW)55%1人経営権なし
      Fiat35%3人
      アメリカ財務省8%4人経営権なし
      カナダ政府+
      オンタリオ州政府
      2%1人経営権なし
    3. アメリカ政府からの資金援助は次の通り。
      1. 出資:最大$3.3B
      2. 融資:最大$6B(ただし新Chrysler社の債務の中で最も優先順位が高いものとする)

  2. 新VEBA

    1. 新Chryslerが新VEBAを設立する。
    2. 財源は次の2つ。
      1. $4.6Bの債券。期間は13年で利率は9%
      2. 新Chryslerの株式の55%(注:VEBAへの拠出義務が$10.6Bであったことを考慮すると、$6Bに相当。つまり半分以上が株式となった勘定となる。)

  3. 年金プラン

    1. 年金プランは継続する。
    2. Daimlerからの(3年間で)$600Mの拠出により、財政は強化される(「Topics2009年4月29日(4) Chrysler債権者は合意へ」参照)(注:年金プランには$9B以上の積立不足があるとみられており、D社からの拠出はほとんど役に立たない見込み)

  4. 債権者グループ

    $6.9Bの債権を放棄し、総額$2Bの現金を受け取る。配分はプロラタ方式。
ここで感想を3点。
  1. ついに、自動車産業で労組が筆頭株主となったことになる。ただ、経営権を持たないのは賢明な判断だ。経営権を持てば利益相反に悩むだけである。

  2. 当websiteが注目していたVEBAについては、結局、連邦政府からの支援はなかった模様だ。しかも、株式の拠出割合が実際には50%を上回っており、UAWは当初よりもさらに譲歩したものと思われる。これはGMの場合にも影響するかもしれない。

  3. さらに危なっかしいのが年金プランである。今回の対応策では、わずかにDaimler社の拠出が決まっただけで、依然として巨額の積立不足が残されている。Chapter 11の中でどのような扱いになるのか、さらに注目しておきたい。
※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

5月1日 Chrysler社 Chapter 11申請 
Source :Chrysler LLC and Fiat Group Announce Global Strategic Alliance to Form a Vibrant New Company (Chrysler Press Release)
30日、Chrysler社は、Fiatとの協力関係の合意と、Chapter 11申請を公表した。

最後まで債権者グループの一部と合意ができなかった。合意しなかった債権者グループは、ステートメントを発表し、『最初から自分達は交渉の外に置かれていた。債権者グループの中で財務省案に合意したのは、公的資本注入を受けている大手銀行であり、このプロセスは不公平だ。』と主張している(Washington Post)。もし、この主張がGMの場合にも続けられるとしたら、GMについても債権者グループの同意が得られずにChapter 11申請に追い込まれる公算が高まる。

一方、UAWとの仮合意は、組合員からの承認も受けており、Chapter 11で再建計画を議論する際にも、これが覆されることはないだろうとみられいている(New York Times)。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11