6月19日 AMAは支持に回るのか
Source :Why the AMA Will Likely Support Health-Care Reform (BusinessWeek)
Obama大統領がAMAの総会で演説した後、今度はAMAの対応に注目が集まっている。『Obama大統領の支持に回るのか、それともあくまで闘うのか。』

上記sourceでは、その答を出す前に、医師界内部の立場の違いについて説明している。
  1. AMAの会員数は245,000人で、全米医師数の4分の1を占めている。

  2. AMAの会員は、主に"specialists"と呼ばれる専門医であり、これまでの伝統的な「出来高払い制」で潤ってきた医師達である。

  3. 一方、AMAに登録していない医師達の多くは、"primary-care physicians"と呼ばれる診療医である。

  4. Specialistsとprimary-care physiciansの間には、大きな収入格差がある。例えば、外科医は$261,000以上、心臓外科医は$300,000以上と言われる一方、primary-care physiciansの年収は平均$148,000と言われている。
こうした立場の違いにObama政権は活路を見出そうとしているそうだ。実際、医師を対象とした世論調査を行なうと、59%の医師が連邦政府保険プランの創設に賛成している。特に、primary-care physiciansの間では支持率が高いという。

また、国民により近い存在であるprimary-care physiciansを中心とした医療提供体制や診療報酬に変えていくことで、国民の理解を得ようという考えもあるようだ。既に、MedPacは、Medicare診療報酬の中で、家庭医への報酬を引き上げるべきとの提言を行なっている。Obama大統領がMedPacの権限強化を検討している以上、こうした提言は実現に向かう可能性が高い。

BusinessWeekは、こうした政治環境から判断して、AMAはObama大統領支持に回るのではないか、との結論を示している。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「Medicare

6月18日 同性婚に向けた第一歩 
Source :Remarks by the President at the Signing of a Presidential Memorandum Regarding Federal Benefits and Non-Discrimination (The White House)
17日、Obama大統領は、同性婚に向けた流れを作るための第一歩を踏み出した。

Obama大統領が描く流れは次の通りである。 これらを読んでみての感想をいくつか。
  1. Obama大統領の発言の中に、"a historic step towards the changes we seek"というフレーズが出てくる。久し振りの"change"のような気がする。そういった意味では、本気で取り組む気かも知れないと思わせてくれる。

  2. 一方で、Obama大統領が本気で取り組み始めれば、抵抗も大きくなる。州レベルでも激しく同性婚のあり方について争われているところに、連邦レベルでも争点にしようというのはちょっと無謀のような気がする。また、市民レベルでもまだまだ抵抗感は大きい。何よりも、こんな経済危機の中で、政府職員だけが優遇されるような流れを国民が許すのかどうか。

  3. "The Defence of Marriage Act"は、クリントン大統領時代に成立した法律である。当然、クリントン大統領が署名したものである。これを覆すような動きに対し、ヒラリー国務長官はどのような態度に出るのだろうか。

  4. Bush政権以来、同性婚を巡る激しい対立が続いている。ここでObama大統領が一方に大きく加担することになれば、間違いなく国を二分する価値観闘争となる。超党派、アメリカは一つ、を売り物に大統領に当選したObama大統領に、そうした行動が果たして取れるのだろうか。
こうやってみると、もしかしたら、『大統領選挙期間中の手形を落とすためのパフォーマンス』とのとらえ方も充分できよう。

※ 参考テーマ「同性カップル

6月17日 費用対効果に疑問 
Source :Preliminary Analysis of Major Provisions Related to Health Insurance Coverage Under the Affordable Health Choices Act
15日、Obama大統領は、敵陣AMAの総会で演説した。

そこでは、連邦政府保険プラン(選択加入制)の必要性を訴え、決して単一保険プランに向けた『トロイの馬』ではないことを強調した。

一方、医療過誤訴訟については、『医療過誤訴訟の抑制』は主張したものの、『損害賠償額の上限設定』は公正ではない、と発言し、AMA参加者達の期待を裏切ってしまった。この発言を聞いた医師達は、Obama大統領を信頼することができると確信できたであろうか。

連邦議会では、医療改革に向けた法案作成が山場を迎える中、具体的な制度提案と、それに伴うコストが徐々に明らかになりつつある。上記sourceは、上院HELP委員会提案の骨子に基づいて、CBOがその効果と費用を推計したものである。HELP委員長は、MA州選出のKennedy上院議員であり、彼はObama大統領の最強の支持者でもある。その提案骨子には、当然のことながら、 などが含まれている。ただし、Medicaidの拡充、連邦政府保険プランの創設、企業による責任分担などの項目は、検討中ということで、推計においては考慮されていない。従って、極めてラフな推計という前提条件付である。

そして、その推計結果(65歳未満)はというと、次のようになる。
2010年2019年
現行法 - 無保険者数5,000万人5,400万人
改革後 - 無保険者数4,900万人3,700万人
改革の効果100万人1,600万人
改革後 - 無保険者割合19%13%
改革による財政赤字拡大額$4B$189B10年間で累計$1,042B
もちろん、この推計結果はいろいろな読み方ができるだろうが、素直な印象として、『1兆ドルを費やして、10年後にはまだ3,700万人(13%)の無保険者が残っている』ということになる。これは、MA州の無保険者がたった3年間で劇的に減少したのとは大きな違いがある。費用対効果で説得力が生まれないのである。

さらに、これだけの財政赤字をもたらすことがわかった以上、財源措置も大規模なものとならざるを得ない。連邦議会では、 なども検討対象になっているという(New York Times)。5%の付加価値税を導入すれば、年間$285Bもの税収となるため、期待も膨らむわけである。

ただし、付加価値税では、Obama大統領の公約である中間層への減税とは真逆となってしまい、大統領への信頼度は一気に低下する恐れがある。ここでも、民主党との調整が必要になってくる。

※ 参考テーマ「医療過誤」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/MA州

6月16日(1) Obama大統領vs民主党 - 医療過誤訴訟
Source :Obama Open to Reining in Medical Suits (New York Times)
医療改革法案がいよいよ具体化しようとしているなかで、Obama大統領と連邦議会民主党との意見の食い違いが鮮明になりつつある。今日は、医療過誤訴訟の問題と、保険料課税の問題が取り上げられている。

まずは、医療過誤訴訟について。

Obama大統領、議会民主党ともに、連邦政府保険プラン(選択加入制)の創設は不可欠としている。この政府プラン創設に最も強力に反対しているのが、AMAをはじめとする医療機関である。

また、AMAは、Medicareの診療報酬の見直し(効率化or削減)についても、強い警戒感を抱いている。

こうした抵抗を見せている医療機関を医療改革論議のテーブルにつなぎとめておくために、Obama大統領は、『医療過誤訴訟の抑制』、『損害賠償額の上限設定』といったカードを切ろうとしている。医療過誤訴訟を抑制できれば、 といった、コスト抑制効果が生じるという訳だ。

ところが、こうした提案について、民主党内には根強い反対論がある。

上院民主党の重鎮である、Baucus上院議員、Reid上院議員は、医療過誤訴訟の抑制に反対している。また、医療過誤訴訟を主にしている弁護士達は、民主党の強い支持者であり、当然、彼らは抑制に反対する。Sebelius HHS長官も、かつてはその流れを汲む団体で活躍していたとのこと。

何よりも、当websiteでは、医療過誤専門弁護士出身のEdwards上院議員が、2004年、2008年の民主党大統領候補者選で活躍していたことが思い出される。それほど、民主党内には支持基盤が明確に存在している、ということである。

※ 参考テーマ「医療過誤」、「無保険者対策/連邦レベル」、「大統領選(2008年)」、「大統領選(2004年)

6月16日(2) Obama大統領vs民主党 - 保険料課税
Source :Obama Under Pressure to Push Unpopular Tax on Health Benefits (Washington Post)
続いて、保険料課税の問題について。

民主党上院議員達は、保険料課税に収斂しつつあるという。現在考えられている案は、次の2通り。
第1案$15,000以上の保険料について課税一般的な連邦職員家族プランに相当10年間で$420Bの増税
第2案年収$200,000以上の家族($100,000以上の単身者)のみ、$15,000以上の保険料について課税高額所得者に限定10年間で$160Bの増税
民主党上院議員達は、第1案に傾いているという。もちろん、Baucus上院議員も、そうした提案を当初からしており、この流れを作っている張本人である。

この保険料課税については、支持者が多い。 ところが、こうした保険料課税案について、Obama政権は猛反対している。 内なる敵とどのように妥協するのか、いよいよObama大統領にとっての正念場となりつつある。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「大統領選(2008年)

6月15日 民主党vs労働組合
Source :State's budget crisis opens rift between unions and Democrats (Los Angeles Times)
未曾有の財政危機に陥っているCA州だが、民主党がコントロールする州議会は、増税よりも歳出の削減にウェイトを置いて検討を進めている。この経済危機の最中に増税を打ち出すことは現実的ではないとの判断である。

ところが、歳出削減になれば、州が関与するプログラムの削減につながり、そのプログラムに従事している人たちの職が失われることになる。その中心的な人たちが、労働組合員というわけである。

労働組合は、組合員の失職を恐れ、増税を主張している。一方の州議会は、州民の反対を恐れ、歳出カットを主張している。おそらく同じような構図が、全米各州で繰り広げられていることと思われる。Obama政権もいつかはその道を通らざるを得ない。

民主党と労働組合の協調路線がどこまで維持できるのか。それによっては、今後の政策の流れも変わってくる。

※ 参考テーマ「労働組合

6月13日 官高民低
Source :Employer Costs for Employee Compensation - March 2009 (Bureau of Labor Statistics)
下の図は、上記sourceから引用したものだが、いろいろなことが示唆されていて面白い。

FIGURE1
  1. まず目につくのが、州政府・自治体職員のベネフィットの高さ、医療ベネフィットの厚さである。『ベネフィットは厚いけど給与が安いんじゃないの』という直感を確認するために、上記sourceで、"Total compensation"、"Wages and salaries"を調べたところ、いずれも州政府・自治体職員が民間企業従業員を大きく上回っている。

  2. 製造業のベネフィットの方が、サービス産業よりも高い。

  3. 労働組合員のベネフィットは、非組合員を大きく上回っている。

  4. 従業員規模が大きくなるほど、ベネフィットは手厚くなる。
見渡してみると、
  1. 州政府・自治体職員
  2. 労働組合員
  3. 大企業の管理職
が恵まれている、ということになる。

こういうのを眺めていると、GMの再建に対する国民の理解がなかなか得られないというのも、頷けるものがある。

※ 参考テーマ「ベネフィット

6月12日 医療保険改革議論白熱
Source : House Democrats Unveil Bill That Would Create Insurance Exchange, Public Plan (Kaiser Health News)
Two Thorny Details Bedevil Health Bill (Wall Street Journal)
Democrats Nearing Consensus on Health Plan (New York Times)
Doctors' Group Opposes Public Insurance Plan (New York Times)
A panic attack over healthcare tab (Los Angeles Times)
夏休み前の法案可決を目指して、連邦議会両院で、医療保険改革に関する議論が活発になっている。今週末あたりから、いろいろな法案が出てくる模様で、マスコミでもその内容を流し始めている。

このような議会の動きに対して、いよいよ各論が始まるということで、各医療関係者達が態度を鮮明にし、議会への働きかけを活発化させている。

今のところのマスコミ情報と、それに対する関係者達の反応を簡単にまとめてみたい。
提案事項
支持者
反対者
国民の保険加入義務づけ(貧困レベル400%までは補助または税額控除)下院民主党
企業の"Pay or Play"ルール下院民主党・上院民主党(Kennedy)経済界
連邦保険プラン(選択加入制)の創設下院民主党、Pelosi議長民主党中道派は慎重。上院民主党は、共和党の反発を懸念して慎重。全米病院会(AMA)、保険会社が反対。
"Exchange"(保険購入市場)の創設Obama大統領
病歴による加入拒否、保険料割増の禁止(対保険会社)下院民主党
Medicaid対象者の拡充(所得基準のみとする)下院民主党
医療ベネフィットへの課税上院両党労働組合
Medicare Advantageへの補助金削減Obama大統領AARP
高額所得者の所得控除縮減Obama大統領慈善団体
こうやってずらっと並べてみると、総合的な改革をしようとすれば、必ず反対者が居並ぶことになる。おそらく、詳細が明らかになるにつれ、どんどん反対の声が高まってこよう。

そうした中で、Obama大統領がどのような政治的決断をしていくのか。これからが本番である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「Medicare

6月11日(1) SF市皆保険法 最高裁へ
Source :Supreme Court asked to ax S.F. health care rule (San Francisco Chronicle)
8日、Golden Gateレストラン協会(Golden Gate Restaurant Association, GGRA)は、SF市皆保険法がERISAに抵触するのかどうかの判断を最高裁に求めた。

3月には、施行停止を求めたGGRAの訴えを、最高裁は退けている。今回は、そもそも論が議論される見込みであり、Obama大統領が目指す医療保険改革にも影響を及ぼす可能性があるので注目していきたい。

※ 参考テーマ「無保険者対策/SF市」、「無保険者対策/連邦レベル

6月11日(2) 年金プランは新Chryslerへ
Source :Chrysler Pension Plans Continue Under New Company Sponsorship (PBGC Press Release)
10日、Chrysler社は資産の一部をFiatに売却し、新生Chrysler社が誕生した。

これに伴い、旧Chrysler社の年金プランについても、新Chryslerに移管され、引き続き、PBGCの保証の対象になるということである。ただし、年金プランについては、巨額の積立不足が残されていたはずであり、今後、これをどのように解消していくのか、まだまだ大きな課題が残されている。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

6月11日(3) 経営者報酬五原則
Source : Statement by Treasury Secretary Tim Geithner on Compensation
Ensuring Investors Have a "Say on Pay" (Fact Sheet)
Providing Compensation Committees with New Independence (Fact Sheet)
Interim Final Rule on TARP Standards for Compensation and Corporate Governance
10日、Geithner財務長官が、経営者報酬のあり方についての考え方を示した。具体的な議論はこれからだが、Obama政権としての方向性が示されたわけだ。以下、その概要。
  1. 金融システムは相互信頼のうえに成り立つ。そのためには、リスクの適切な管理と市場参加者の長期的な利益を考慮するようなルールが必要である。これは、個別企業のみならず、金融システム、経済全体にとっても同様である。そのためには、報酬制度のあり方を見直す必要がある。

  2. 議論を始めるための出発点として、報酬制度に関する5つの原則を示しておきたい。

    1. 報酬は、適切に計測された業績を反映させたものでなければならない。また、長期で価値を創造するようなインセンティブとなっていなければならない。

    2. 報酬は長期のリスクを考慮したものでなければならない。

    3. 報酬制度と健全なリスク管理とが相互に連関していなければならない。

    4. Golden parachutesやその他の離職手当が経営者や株主の利益にそったものとなっているかどうか、再確認しなければならない。

    5. 報酬制度に関する透明性を高め、責任を明確にしなければならない。

  3. 初めに、次の2つの事項から着手したい。

    1. 経営者報酬について拘束力のない株主投票("Say on Pay")に付すことを法定化する。

    2. SOX法を参考に、報酬委員会の独立性を高める。

  4. 報酬に上限を設けたり、報酬制度の細部まで規則化する考えはない。
経営者報酬を株主投票にかけること自体はかなり普及してきており、賛否両論がありながらも早急に結論が出てくるのではないだろうか。関係者は、夏休み前に関連法案が成立し、来年2010年の株主総会シーズンから適用されると見ている(BusinessWeek)。

最後に、TARPの対象となった企業における経営者報酬に関する規則の最終版も公表された(上記source参照)。

※ 参考テーマ「経営者報酬」、「SOX法