10月10日 失業対策 
Source :Obama administration mulls extending COBRA subsidy (Business Insurance)
Support Builds for a Tax Credit for Creating Jobs (New York Times)
失業率の高まりを受けて、Obama政権は失業対策の検討を開始した。

まず、COBRA補助の延長(「Topics2009年2月17日(1) COBRA-65%補助」参照)。もともと、これは9ヵ月間という期限付きであったために、その効果に疑問が持たれていたが、やはりというか、不況と雇用情勢の悪化に伴い、補助措置の延長が検討されている。ただし、失業者がCOBRAを利用して保険加入を継続する割合は、この補助により倍増したとはいうものの、適用資格保有者のうち38%しか利用していない。

もう一つは、新規雇用者の給与を税額控除するというアイディアである。事実上、連邦政府が新規雇用の給与分を補助するということだが、雇用増に寄与するかどうか、効果を疑問視する意見も根強い。第一に、新規の雇用というものは、生産増が見込まれ、企業側が労働投入を増やしたいと思わなければ、いくら補助するといっても増やさない。つまり、需要が回復する見通しが立たなければ、こうした政策は効果を持たない、という訳だ。

さらに、こうした制度を悪用する企業が必ず出てくる、という意見がある。税額控除の対象期間だけ雇って、その効果がなくなれば再びレイオフするという事例が多発するのではないか、ということである。

Obama大統領は、就任以来、景気が悪化の一途を辿っているため、雇用に関してはかなりセンシティブになっている。年初に打った景気刺激策も目立った効果を示しておらず、厳しい立場に立たされているようだ。

※ 参考テーマ「労働市場」、「無保険者対策/連邦レベル

10月8日 財政委員会採決の行方 
Source :4 Senators' Concerns Reflect Health Care Challenge (New York Times)
Boost for Baucus on cost of health reform (Financial Times)
Baucus法案に関するCBOの推計(10月7日付け)が公表された。ポイントは次の通り。
無保険者対策に必要な費用$829B(10年間)
財政赤字拡大幅▲$81B(10年間)
無保険者数5,100万人(2010年)→ 2,500万人(2019年)
無保険者割合(65歳未満、除く不法移民)17%(2010年)→ 6%(2019年)
当初案から比較しても、ほぼ骨格は守ったという感じであろう。財政赤字は減るし、無保険者割合は許容範囲とみられる水準まで低下する。Obama大統領のリクエスト通り、ということで、Baucus上院議員は面目躍如といったところであろう。

下院3委員長案に関するCBOの仮推計も合わせて、比較表を作ってみるとこうなる

これで、まず一つのイベントがクリアされ、当面の焦点は、いつ上院財政委員会で採決するか、に移ったことになる。昨日も紹介した通り、Baucus上院議員は、CBOの推計を含め、委員会メンバーが熟考できるよう、十分な時間を確保すると約束している。上記source(Financial Times)によれば、Baucus上院議員は、間違いなく可決できるとの確信が得られるまで採決にはかけないだろう、とみられている。

従って、今後は、Baucus上院議員、そしてHarry Reid上院院内総務、Obama大統領と、上院財政委員会委員(「Topics2009年9月30日 公的プランを財政委員会が否決」参照)との舞台裏でのネゴがいかに行われるか、ということにかかってくるわけである。

上記sourcesでは、財政委員会メンバーそれぞれの不満、悩みどころを伝えている。 一応、リベラル派の色彩が強い順に並べてみたが、この段階に至っても、大きな課題について意見の集約ができていないことが明白になっている。

公的プランの創設を強く求めている上から2人の上院議員は、例え財政委員会案で敗れたとしても、上院本会議で創設を求め続ける、としている。Snowe上院議員との間で妥協が成立する可能性は、限りなく低いのではないかと思われる。「Pelosi vs Snowe」の前哨戦が見られるかもしれない(「Topics2009年10月7日 財政委員会案は小休止」参照)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

10月7日 財政委員会案は小休止 
Source :Senate Finance Committee Vote Delayed (Kaiser Health News)
上院財政委員会の医療改革法案に関する投票は少し遅れる見通しである。Baucus上院議員が、CBOの財政影響推計を吟味する時間を充分取ることを約束していることに加え、肝心のCBO推計が遅れているためだそうだ。

この小休止の間、上院院内総務のHarry Reid上院議員が積極的に動いている。財政委員会が法案を可決すれば、同じ上院のHELP委員会案(「Topics2009年7月16日 上院HELP委員会案可決」参照)との調整が必要となり、その作業の主導権はReid上院議員が握ることになる。

ここで焦点となるのが、やはり「公的プラン」の創設の可否である。財政委員会で否決された(「Topics2009年9月30日 公的プランを財政委員会が否決」参照)ことは紹介したが、HELP委員会案には「公的プラン」が含まれている。

そして、Reid上院議員、さらにはObama大統領が喉から手が出るほど欲しいのが、Snowe上院議員の賛成票である。共和党議員だからである。Snowe上院議員は、財政委員会で公的プランには反対票を投じているが、「CO-OPプラン」+「trigger条項」(「Topics2009年9月23日(2) Baucus法案修正要望」参照)を提案しており、民主党との交渉窓口は開かれている。そこに活路を見出そうと、Reid上院議員は『Trigger条項付き公的プランは絶賛に値する提案だ』とまで発言しているのだ。

仮に、Reid上院議員のラブコールがSnowe上院議員に通じたとして、その次の段階、つまり、下院案と上院案の調整段階になった場合、再び公的プランの性格が焦点となる。なぜなら、Pelosi下院議長は、Trigger条項付き公的プランなんて何の意味も無い、と明確に拒否しているからだ(「Topics2009年9月26日(2) 製薬会社との取引を優先」参照)。

Obama大統領は、最後にはPelosi下院議長を取るのだろうか、Snowe上院議員を取るのだろうか。ちょっと見物である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

10月6日 SF市も成果 
Source :San Francisco has its own 'public option' (Los Angeles Times)
San Francisco市では、2007年7月から、無保険者対策を実施している(「Topics2007年8月17日 SF市の無保険者対策」参照)。その成果が出て、制度実施2年を経て、成人無保険者の4分の3にあたる46,000人が、公的プランである"Healthy San Francisco"に加入したとのことである。

SF市の対策は、「公的プラン」と「Pay-or-Play」ルールが導入されていることから、注目されている。ただし、連邦議会で議論されている医療保険改革の内容とはかなり異なる部分があるので、整理しておきたい。
  1. まず、「公的プラン」について。SF市の「公的プラン」は、当初から保険ではない、と明確に打ち出しており、それは財源面でも裏打ちされている。公費が主な財源である。その意味では、公的な医療保障プログラムである。一方のObama大統領が導入を目指す「公的プラン」は公費を投入しない、独立採算の保険プランである。

  2. 「公的な医療保障プログラム」という性格から、一つの大きな制約がかかってくる。それは、SF市内の医療機関でなければ、この保障プログラムからの支払いができないことである。SF市の外で受けた医療行為については償還ができないことになっている。

  3. 「Pay-or-Play」ルールが適用されてはいるものの、実際の負担総額は、相対的に少ない。「公的プラン」の総費用は年間$125Mだが、そのうち$14Mが企業拠出となっている。また、従業員規模により、負担額、免責規定が設けられている。
※ 参考テーマ「無保険者対策/SF市

10月5日 「公的プラン」に拘り 
Source :Obama quietly tries to shore up Senate support for public option (Los Angeles Times)
上院財政委員会が「公的プラン」創設を医療保険改革法案に盛り込むことを否決した(「Topics2009年9月30日 公的プランを財政委員会が否決」参照)にも拘わらず、Obama大統領は、最終的に上院が採決する法案には「公的プラン」創設を盛り込めないか、と働きかけを続けているそうだ。

こうした動きは、完全にBaucus上院議員とのタッグを切り捨てることになる。また、政府が医療をコントロールすることになるかもしれないとの懸念を抱く民主党中道派にも、警戒心を抱かせる。

ここまで拘りがあるのであれば、両院議会演説の時に、はっきりと『「公的プラン」の創設は必要であり、そのための案を考えてもらいたい』と述べるべきであったと思う(「Topics2009年9月10日 Game-time's over」参照)。最後まで超党派合意を目指した上院財政委員会でのこの1ヵ月間の議論は何だったのか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

10月2日(1) ペナルティ軽減案 
Source :Senate Panel Softening Insurance Penalties (New York Times)
上院財務委員会の議論の結果、Baucus法案に盛り込まれていた個人の保険加入義務化に伴うペナルティが軽減された。 こうした措置により免責となる国民は約200万人となる。

ポイントは、ペナルティ軽減案を提唱したのが、Snowe上院議員であったということである。上記の修正案は、22 vs 1 の圧倒的多数で可決されている。Snowe上院議員の発言力が高まっている証左となっている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

10月2日(2) 小規模企業の報告義務 
Source :Small Employers Get a Reprieve on Huge Penalties Over Pension, Health Plans (Workforce Management)
上記sourceによれば、2004年の税制改正に伴い、IRSは小規模企業の監査を強化している。その一環として、税制適格な年金プラン、保険プランを運営している場合には、IRSに報告する義務を課している。

びっくりするのが、報告を怠った場合のペナルティの高さである。「1年当たり20万ドル+従業員一人当たり$10万ドル」となっている。従業員が8人もいれば、100万ドルにもなってしまうのだ。

もっとも、このペナルティの徴収自体は、現在猶予されている。当面の猶予期限であった今年9月30日も、年末まで延長となっている。連邦議会も、このペナルティの廃止または猶予延長を模索しているが、なにせ医療改革法案に財政委員会が専念しているため、その法改正がいつになるのかまったく見通しは立っていないようだ。

バブル真っ最中ならいざ知らず、現在のような経済状況で、この宝刀が抜かれることはないだろう。

※ 参考テーマ「企業年金関連法制

10月1日(1) 報酬規制:米vs英 
Source :US to take flexible course on bonuses (Financial Times)
先のG20ピッツバーグ・サミット首脳宣言(和文仮訳英語)で、金融システム安定化のための報酬規制について合意がなされた。

該当箇所は、本文の第13項で、抜き書きすると、次のようになる。
金融安定化支援のための報酬慣行の改革:金融セクターの過度な報酬が、過度なリスク・テイクを反映し、また助長してきた。報酬政策と慣行の改革は、金融の安定を向上させるための我々の努力にとって必須な部分である。我々は、

(i)複数年に渡るボーナス保証を避け、

(ii)長期的価値創造やリスクの時間軸に整合させるインセンティブを創出する限りにおいて、変動報酬の相当部分の支払いを繰延べ、業績に連動させ、適切な取戻しの対象とし、株式や株式類似の形態で付与されることを求め、

(iii)金融機関がさらされるリスクに重大な影響を与える経営幹部及び従業員への報酬が業績及びリスクと整合的であることを確保し、

(iv)金融機関の報酬政策及び体系を、開示義務を課すことによって透明化し、

(v)健全な資本基盤の維持と整合的でない場合には、純収入全体に対する変動報酬の比率を制限し、

(vi)報酬政策を監視する報酬委員会が独立して活動することができるよう確保することを含め、

報酬を過度なリスク・テイクではない長期的な価値創出と整合させることを目的とした金融安定理事会の実施基準を全面的に支持する。
上記sourceによると、英財務省は、国内5大銀行と話し合い、上述の実施基準を逸早く適用することを決めた。金融市場に関する規制の国際的合意を早期に実現することで、市場関係者の信認を取り戻し、再び世界の金融市場の中心の座を確保したい、との狙いである。もちろん、主要国すべてが同じルールを採用することが前提である。

一方、米金融当局、FRBは、『各国により金融市場の事情は異なるので、一律の数値基準を適用することは無意味であり、柔軟に対応する』との意向と伝えられている。

こうしたスタンスの違いは、上記抜粋の最後にある「金融安定理事会の実施基準」の受け止め方の違いにある。これは、Financial Stability Board (FSB)が作成した"FSB Principles for Sound Compensation Practices - Implementation Standards"で、ピッツバーグ・サミットに提出されたものである。

本文を読んでみると、いくつか数値例が示されている。
6. For senior executives as well as other employees whose actions have a material impact on the risk exposure of the firm:
o a substantial proportion of compensation should be variable and paid on the basis of individual, business-unit and firm-wide measures that adequately measure performance;

o a substantial portion of variable compensation, such as 40 to 60 percent, should be payable under deferral arrangements over a period of years; and

o these proportions should increase significantly along with the level of seniority and/or responsibility. For the most senior management and the most highly paid employees, the percentage of variable compensation that is deferred should be substantially higher, for instance above 60 percent.
7. The deferral period described above should not be less than three years, provided that the period is correctly aligned with the nature of the business, its risks and the activities of the employee in question. Compensation payable under deferral arrangements should generally vest no faster than on a pro rata basis.
こうした基準を、英は"ルール"と受け止め、米は"例示"と受け止めている。そして、米は「合意は首脳声明であり、そこには数値を一律に適用とは書かれていない」との立場を取っていることになる。要するに、国際的な金融センターに関する主導権争いである。

それにしても、わが国ではこうした議論が一切行なわれておらず、"モラトリアム"の是非に明け暮れている。寂しい限りである。

※ 参考テーマ「経営者報酬

10月1日(2) 最悪の提案項目 
Source :Senate Finance Panel Has Votes To Pass Health Bill, Baucus Says (Washington Post)
これは知らなかったことなのだが、Baucus法案には、保険加入者にとって増税となる可能性のある項目が含まれていた。原案では、「所得の7.5%を超えた部分のみ所得控除を認める」となっていた。これにより、10年間で$22Bを調達する見込みであった。

ところが、低中所得者への補助を厚くするため、さらに所得控除の制限を高め、所得の10%を超えた部分のみ所得控除を認める案に修正した。ただし、65歳以上は対象外。

これに対して、共和党は『できの悪い提案の中で最悪の項目』と、猛反発している。Obama大統領の次の2つの公約に反すると主張している。
  1. $250,000未満の家庭には増税を求めない。

  2. 既に保険加入している国民には変化をもたらさない。
これはObama大統領にとっても耐えられないであろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル