4月20日 不況は文化を脅かす 
Source :Layoffs are driving change among the Amish (Los Angeles Times)
"Amish"は、アメリカの中で特異な文化を継承してきている。我が家もPA州LancasterのAmish地区を訪れたことがある。

そうした強固な習慣を保ってきた彼らでも、この経済危機には勝てないようである。上記sourceでは、Amishの若者が失業保険を受け取ることを認めたという。失業の最中で家族を養うためには、古い習慣を変えてでも失業保険を受け取ることを認めざるを得なくなっているのである。この他にも、働きに出るために車に乗ることを認めた例も紹介されている。

土地の値段が上がり、農業や手工業品だけでは生活できなくなり、勤めに出るようになってきたのが、その背景にあるようだ。

4月19日 Termination Premiums 
Source :Second Circuit Finds Termination Premiums not Dischargeable "Claimns" in Bankruptcy (Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP)
ERISA及びPBGC規則により、DBプランを終了させた場合、その後3年間にわたり、プランスポンサーは「終了保険料」(以下、"TP"(Termination Premiums))を支払わなければならない。

PBGCによる説明は次の通り(Termination Premium Payment Package)。
  1. 単独企業によるDBプランを終了せざるを得なくなった場合、TPが適用される。ただし、企業が清算される場合には適用されない。

  2. Chapter 11による再建計画中は、TPの適用が猶予される。再建計画が承認され、債務免除が確定した時点から、TPが適用される(Special Rule)。

  3. TPの年額は、「$1,250×プラン終了直前の加入者数」。これと同額を3年間支払い続ける。

  4. プランスポンサーが支払い義務を負う。
上記sourceでは、このTPをめぐる司法判断が争われた事件を紹介している。2006年3月、Oneida社はChapter 11を申請し、再建計画検討の間にDBプランを終了させた。再建計画が確定した段階で、Oneida社は、TPについて、既に支払い義務は免責になっているとの主張を開始した。
Oneida社TPは、"pre-petition claim"である。従って、再建計画が承認され、一般的な債務免除が成立した段階で、TPの負担義務は消滅する。
PBGCTPは、破産申請前に発生していた一般的な債権ではなく、再建申請が行われた後に発生する債権"post-petition claim"であり、債務免除の対象にはならない。
NY破産裁判所"Claim"は、幅広く解釈されるものであり、一時的であったり、これから発生するような債権まで含まれる。従って、Oneida社の主張を認め、TPの負担義務は消滅する。
第2控訴裁判所ERISAのSpecial Ruleは破産法におけるTPの扱いを明確に規定したものであり、TPを"pre-petition cliam"として扱うのは、ERISA立法の趣旨に反する。TPは"post-petition claim"であり、破産財団の管理費としてOneida社が支払うべきものである。
当たり前のようなことが司法で争われるているようにも思えるのだが、上記sourceでは、Chapter 11による年金プラン廃止を目論む企業は戦略を考え直す必要があると指摘している。にわかには信じられないが、企業の生き残りのためには、司法判断を争ってでもコストを削減しようということなのだろう。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

4月18日 同性婚の風
Source :NY Governor Introduces Bill to Allow Gay Marriage (New York Times)
Rights for same-sex partners headed for state law (The News Tribune)
16日、NY州知事が、同性婚を認可する法案を州議会に提出した。州議会は両院とも民主党が多数を握っているものの、その成否の見通しは明確ではないらしい。

また、州知事自身は従来から同性婚を認める立場でいたらしいが、就任以来、支持率が大幅に低下しており、その浮揚策として同法案を提出したとの背景もあるらしく、その本気度が試される場面も出てこよう。

一方、15日、Washington州議会で、州政府に登録した同性カップルに対し、伝統的な婚姻関係と同等の権利を賦与するという州法が可決された。州知事は署名する意向という。

もう一つ興味深かったのは、同じ法案の中に、婚姻関係のない高齢者同士が内縁関係として登録することを認めるという項目が入っているそうだ。これは、再婚より公的年金を受け取る権利を失うことを防ぐためである。同じような法制度は、CA州にもあるそうだ。

さて、ここで、最近の同性婚を巡る各州の動きを簡単にまとめておきたい。
同性婚の法的ステータス
州法州最高裁判決他州認可同性婚承認認可法案審議中異性婚同等権利賦与
MassachusettsA@
Vermont
Connecticut
Iowa
New York
Washington, D.C.
New Hampshire
Maine
New Jersey
California○→×
Oregon
Wasington
こうしてみると、上から6州では、同性婚が法的な位置付けが確定している、と言える。ただし、言うまでもないが、公的年金(Social Security)など連邦レベルで運用されている制度においては、同性婚は認められていない。

※ 参考テーマ「同姓カップル

4月17日 5本柱
Source :"The House Upon a Rock" (The White House)
14日、Obama大統領は、Washington Universityで、1時間にもわたる演説を行なった。この中で、当面の金融危機対策、経済対策だけではなく、5つの分野で改革を進めないと、強固な社会基盤ができない、と強調した。

その5本柱とは次の通りである。
  1. Wall Streetに、無謀なリスクテイクではなく、革新をもたらすような新しい規制を導入する

  2. 労働者がより技術と競争力を身につけられるよう、教育に新たな投資をする

  3. 再利用可能なエネルギーと技術に新たな投資を行い、新たな雇用と新たな産業を生み出す

  4. 医療に新たな投資を行い、国民と企業が負担するコストを削減する

  5. 改めて歳出を節約し、将来世代の負債を縮小する
New York Times紙は、こうしたObama大統領の意気込みを伝えながらも、
多くのアメリカ人は、
  • いっぺんにたくさんの課題に手を着けすぎている
  • 逆に、どれも充分な手を尽くしていない
  • いろいろな政策課題に手を着けて、最後はどうやって辻褄を合わせるのだろうか
と思っている。
とも伝えている。

もしも、Obama大統領の政策推進手法が現実的ではない、という評価だとすると、Obama大統領は、"pragmatic"でもないことになってしまう(「Topics2009年4月2日(2) The EconomistのObama評」参照)。

※ 参考テーマ「政治/外交

4月16日 移民政策論議再燃
Source :Labor Groups Reach an Accord on Immigration (New York Times)
2005年に袂を分かった2つの労組センター(AFL-CIOChange to Win)が、移民政策について合意に達した。
  1. 米国内に在住する不法移民に、法的地位を賦与する。そうすることで、すべての労働者の雇用状況を向上させることができる。

  2. 一時入国による大量の外国人雇用を認めない。

  3. 外国人労働者に関する国家委員会を創設し、ここが労働市場の需給状況に基づいて、移民、一時入国の人数を調整する。そうすることで、不況の高失業率の時期に移民を抑制することができる。

これに対し、早速企業側は反発している。柔軟な移民政策が不可欠であり、『国家委員会』がそのような対応ができるのかどうか疑問、ということである。

また、不法移民に法的地位を賦与すること自体に反対する勢力も大きい。ごね得を非難することに加え、この不況期に不法移民が堂々と労働市場に出てくれば、本来のアメリカ国民がさらに弾き出されてしまうではないか、という論法である。

このような状況の中で、Obama大統領は敢えて火中の栗を拾う意思を見せているという。1200万人にものぼる不法移民に対して法的地位を賦与することを含めた移民法の見直しを議論するよう、連邦議会に対して要請する考えらしい。あちこちで戦端を開いていくのはいいが、勝算あってのことなのかどうか。ここは見守るしかないだろう。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「労働組合

4月15日 無保険者は票にならない
Source :America's uninsured haven't shown collective power (AP)
アメリカでは無保険者問題は間違いなく重要な政策課題である。しかし、他の政策課題と異なり、その当事者である無保険者は、政治力を持った集団とはなりにくい、という。その理由は次の通り。
  1. 無保険でいることは個人的な問題であり、多くは不幸にもそうなったが、一部には自ら選択して無保険のままでいる者がいる。

  2. 無保険者は自営業か失業者で、掛け持ちで仕事をしている人も多い。従って、政治に関与している時間がない。

  3. 無保険でいる期間は、大抵それほど長くない。無保険者の半数は、4ヶ月以内に保険加入する。
従って、無保険者は政治力を発揮しにくく、政治家の方も見返り(=次の選挙の応援)が期待できないというわけだ。

これとよく似た事象は、最近、日本でも聞いたことがある。認可保育園の待機児童の親達だ。実際にいる都心の待機児童数は統計上の数字よりも遥かに多いのだが、
  1. 保育園に預けるかどうかは家庭の選択であり、保育所が不足していることがわかっていると、最初から諦めて申請をしない。

  2. 子供を預けようとする親達は若くて共働きが多く、忙しい。

  3. 一旦、入園先が決まってしまうと、その後の運動力にはならない。
ということで、保育サービス拡充のための政治力にはならないというのだ。

どこの国でも同じような問題を抱えているのだろう。政治家が次の選挙のため、つまりは自分の職業としての政治家という地位を維持したい、と考えている限り、こうした構図は続いていく。政治家と政治屋を見分けるのは本当に難しい。

4月14日 Catch 22
Source :Employee Benefits (The Wall Street Journal)
上記sourceは、WSJ紙に掲載された"Employee Benefits"という特集記事で、実際には次の4本のエッセイで構成されている。 とまあ、わがEBRIチームから2人も執筆者を出している、という訳である。

いずれも、経済危機、金融危機の中で、Employee Benefits担当者としては苦しい状況であり、その中で将来の目指すべき方向性を模索している、という内容である。

タイトルに掲げた"Catch 22"という言葉は、最初の論文の中で、Dallasの発言の引用として出てくる。そもそもの言葉の意味は、「矛盾していてどうにもこうにもならない状況」(Wikipedia)ということらしい。

引用されているDallas発言のポイントは次の通り。
  1. 資金が枯渇している状況で、DBプランに拠出しなければならない。なおかつ、将来の給付債務も負わなければならない。
  2. 一方、DBプランを凍結してしまえば、採用や人材確保に影響を及ぼす。
  3. 医療保険プランについても同様で、従業員の負担を増やすことはできるが、そうすれば採用や人材確保に影響が出る。
Chessでいえば、forkをかけられたようなもので、どちらかを助ければどちらかが失われてしまう、ということである。逆にいえば、経営の優先順位をはっきりとさせなければいけない状況にあるということであり、HRにとっては腕の見せ所であろう。

※ 参考テーマ「ベネフィット

4月13日 Chapter 11に向けて準備
Source :'Surgical' Bankruptcy Possible for G.M. - New York Times
検討チームが先週から今週にかけて、会合を重ねている。それらの会合の中で、財務省はGMに対して、債権者、UAWとの調整がつかない場合にChapter 11を申請するための準備を進めるよう指示したという。

また、検討チームでは、Chapter 11を進めるにあたって、一つのシナリオが検討されているそうだ。
  1. GMがChapter 11を申請した直後、新会社を設立して、GMの『良い資産』を買い取る。連邦政府から$5〜7Bのファイナンスをつければ、早ければ2週間程度で再生できるのではないかとみられる。

  2. 新生GMの債権者委員会はChapter 11申請前に結成する。事前に再建計画を精査し、速やかに調停に合意する。

  3. 見込みのない資産については、旧会社に残し、数年をかけて流動化(=清算)する。こちらについては、$70B程度のファイナンスが必要となる。退職者医療プラン、工場の売却等については、さらに多くの資金が必要となる見込みである。

こうしたプランが検討されている一方、Obama政権にとって懸念材料があるという。
  1. Obama大統領自身が、GMの年金プランや従業員達への悪影響を懸念している。実際、検討チームは債権者達との会合は1回しか開いていないが、UAWとは継続的に会合を持ち、その支持を獲得すべく努力しているという。

  2. GMの年金プランをPBGCが引き受けることになった場合、GMの前にPBGCが救済を求めなければならなくなる。

  3. Delphiに対するGMの救済策について、4月24日までに合意がなされなければ、Delphiは清算への道を辿ることになる。そうなると、連邦政府、GMはその一部を引き受けざるを得なくなる。
GMにとっては、その後のビジネスの展開上、Chapter 11の申請、再建計画の合意、再生というプロセスは、早ければ早いほどよい。しかし、そのつけもまた大きい。New Yorkの市場はこのニュースをどう受け止めているのだろうか。

GM、Fordの株価動向 ⇒ GM  Ford

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

4月12日 地方政府年金が不良債権買取
Source :Should Public Pension Plans Go Toxic? (BusinessWeek)
3月23日に財務省が公表した不良債権買取プログラム(Public-Private Investment Program, PPIP)に、地方政府年金プランが高い関心を寄せているという。

地方政府年金プラン側の意向は、
  1. 巨額の積立不足が発生したものの、給付減額や増税は難しい。
  2. それらの手段を回避しながら持続可能性を高めるためには、高利回りの運用が必要。
  3. 連邦政府の資金が入っているため、利回りが高くなるうえに、リスクも抑制できる。
といったことろ。

これに対し、連邦政府にしてみれば、 という思惑らしい。

しかし、残念ながら、まだPPIPの方の詳細が詰まっておらず、年金プラン側も感触を確かめているといった段階だ。

この構図には、既視感がある。PBGCである(「Topics2008年10月3日 PBGCの財政危機」参照)。年金プランからすると、のるかそるかの瀬戸際に立たされているようだ。

そんな地方政府年金プランの状況を見てか、EBRIが警告を発している(EBRI Press Release)。EBRIによれば、地方政府年金プランは、GASBを適用していることから、少なくとも2つの理由で積極的な資産投資を継続する傾向にあるという。
  1. リスクの高い資産からの収益を高めに見積もる傾向がある。
  2. 割引率を高めに設定しているために、給付債務を小さめに見積もる傾向がある。
このように、地方政府年金プランの運営者達は、短期的にはハイリスク資産の割合を下げようとはしないため、地方政府ならびにトラスティは長期的な運用方針を注意深く見直す必要がある、との結論をEBRIは出している。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「PBGC/Chapter 11

4月11日 やっぱりベネフィット削減
Source :Anheuser-Busch to freeze pension, ask retirees to contribute more (St. Louis Business Journal)
Anheuser-Busch(A-B)InBevに買収される際、A-Bのベネフィットを削減しようという動きがあったが、買収価格を巡る攻防の中で、表には出てこなかった(「Topics2008年7月14日 一転して友好的M&A成立」参照)。

だが、ここに来て、A-Bのベネフィットを削減するとの方向性が示された。買収価格に合わなくなってきたのだろう。上記sourceによれば、そのポイントは次の通り。
  1. ベネフィットの水準を、アメリカ市場における中位にもっていく。

  2. 年金プラン(DB)を、2012年1月1日時点で凍結する。

  3. 2010年1月1日以降採用の新規従業員について、退職者医療プラン加入を認めない。

  4. 退職者医療プラン加入者の自己負担割合を高める。
※ 参考テーマ「ベネフィット