7月28日 自由貿易推進と失業対策 Source : Aid May Grow for Laid-Off Workers (Washington Post)

Trade Adjustment Assistance (TAA) という制度がある。自由貿易を推進することによって、失業または報酬の減額を被った労働者に、様々なベネフィットを提供する制度である。主なベネフィットは次の通り。
  1. 職業訓練
    再就職のための職業訓練を、最大104週受けることができる。

  2. 所得保障
    通常の州失業保険による給付(最大26週)終了後、上記職業訓練を受けていることを条件に、最大52週、手当を受給できる。
    50歳以上で、前職よりも賃金が下がった場合、前職との差額の半分を2年間保障する(年間$5,000が上限)。

  3. 遠方への職探しの交通費補助

  4. 再就職のための引越し補助

  5. 医療保険税額控除
    医療保険料の65%を税額控除(tax credit)する。
ちなみに、昨年は、約40万人が労働省の認定を受けたそうだ。

このプログラムの期限が9月30日に来ることから、民主党は、プログラムのベネフィットの拡張を提案している。

まず、上院では、7月23日、Max Baucus(D-Mont.)Olympia Snowe(R-Maine)両議員が、1974年貿易法改正法案(S.1848)を提出した。上記sourceによれば、同法案のポイントは次の通り。
  1. 給付対象者の範囲を、コンピュータ・プログラマー、コール・センター・スタッフその他サービス部門の従業員にも拡大する。
  2. 「貿易協定提携国からの輸入の影響」という要件を、「輸入の影響」だけにする。
  3. 大きな打撃を受けた産業については、手続き等を簡素化する。
  4. 医療保険料の税額控除を85%に引き上げる。
  5. 賃金差額保障を、40歳以上、年間上限$6,000とする。
  6. これらの結果、プログラムによる支出は倍増する(2006年は総額$1B弱)。
下院でも、同様の法案を検討しているとのことである。

このような連邦議会の動きに対し、Bush政権も、基本的にはTAAの拡充を支持している。しかし、共和党としては、大統領へのfast-track権限の付与を条件としたいようだ。Fast-track権限は、今年6月末で期限切れとなり、議会民主党はその更新を拒否しているのだ。

民主党は、自由貿易交渉のテンポは遅くしようとしながら、失業対策は厚くしようとしている。何か腑に落ちない気がする。

27日付のNew York Times社説では、こんな民主党の議会戦略を批判し、軌道修正するよう求めている。
  1. 貿易の自由化は推進すべきである。
  2. すべての労働者の賃金が上昇するよう、支援すべきである。
  3. 失業した労働者が医療保険プランも失うことのないようにすることが、第一優先課題である。
  4. 所得税による再分配機能を強化すべきであり、そのためには、Bush大減税を予定通り、2010年で終了させるべきである。
  5. TAAのようなベネフィットを、原因に関係なくすべての失業者に適用すべきである。

7月27日 最低賃金引き上げと減税規模 Source : Minimum Wage Hike Means Tax Breaks (BusinessWeek)

先に成立した最低賃金引き上げ法(「Topics2007年5月30日(2) 最低賃金引き上げ決定」参照)では、引き上げのスケジュールは次のようになっている。

改正以前$5.15/h
2007年7月24日$5.85/h
2008年7月24日$6.55/h
2009年7月24日$7.25/h
つまり、毎年$0.7ずつ、3回引き上げることになっている。

その最初の引き上げが、さる7月24日であったわけだが、この第1回引き上げは、それほど中小企業にインパクトを与えないものとみられている。なぜなら、既に30州で、各州で定めた最低賃金がそのレベルを上回っているからである。

他方、抱き合わせで導入された中小企業向け減税(「Topics2007年4月25日(1) 最低賃金引上げ法案 両院協議成立」参照)は、今年からすべての中小企業がその対象となる。

上記sourceでは、その減税内容が紹介されているので、ここでポイントをまとめておく。
  1. 新規購入の損金算入("Section 179")

    $500,000以下(改正前$450,000)の新規購入に関しては、$125,000(改正前$112,000)の損金算入を認める。$500,000を超える購入に関しては、損金算入額が減少していく。
    2010年以降は、2002年当時と同じ、$25,000にまで縮小される。

  2. Social Security Taxの特例

    レストランにのみ認められた特例である。

    通常、レストランの店員はチップを受け取るが、Social Security Taxは、このチップにもかけられる。

    一方、FLSAでは、"Tip Credit"というものが認められている。また、州法でも認めているところと認めていないところがある。要するに、
    事業主が実際に支払う現金給与 + Tip Credit ≧ 最低賃金
    であれば、最低賃金法をクリアしていることになる。チップ分は、見込みでいいということである。

    例示として、Tip Creditの占める割合の上限が50%だとすると、
    • 最低賃金が$5.15の場合 → 現金 $2.575  Tip Credit $2.575
    • 最低賃金が$5.85の場合 → 現金 $2.925  Tip Credit $2.925
    となる。

    今回認められた特例では、この"Tip Credit"の考え方を温存したうえに、Tip Creditを計算するうえでの最低賃金は$5.15としすることとした。上記の例でいえば、最低賃金が$5.85に引き上げられても、Tip Creditは$2.575に据え置くことができる。これにより、Social Security Tax (SST)の課税対象は、「現金 $2.925 + Tip Credit $2.575」となり、本来のTax Credit $2.925との差額 $0.35にかかるべきSSTが減税されることになる。
最低賃金を引き上げるために、ずいぶんと大甘な減税をやったものである。

7月26日(1) CHIP+Medicare(2) 
Source : House Democrats Unveil SCHIP Legislation That Would Increase Cigarette Tax, Reduce Payments to Medicare Advantage Plans (Kaisernetwork)

CHIPとMedicareに関する下院民主党の法案(「Topics2007年7月25日 CHIP+Medicare」参照)が明らかになったようだ。以下、その概要。
  1. 法案名:The Children's Health and Medicare Protection Act

  2. CHIPの対象を拡大し、500〜600万人の子供の保険加入をすすめる。

  3. CHIPに関する連邦支出を、今後5年間で$50B増額する。そのために、たばこ税を1パックあたり45¢引き上げる。

  4. Medicareの医療機関への償還総額削減スケジュールを取り止め、当面、今後2年間は0.5%の増額とする。

  5. Medicare Advantage plans(民間保険プラン)と、Medicareの伝統的な出来高払いプランとの間で、2011年までに公的補助の均等化を図る。

  6. 全体で$90Bの財源が必要となる。たばこ税増税で$27B、MAプランへの支出削減で$50Bが確保できるとしている。

7月26日(2) 倒産と受託者責任 Source : Beck v. Pace International Union (Supreme Court - Syllabus, Opinion)

6月11日、連邦最高裁において、倒産時の年金プラン閉鎖と受託者責任の関係について、判決が示された。経緯及び判決主旨は、次の通り。
管理人は、上記判決主旨で、PACEの主張を斥けた理由6.のi)、ii)に共感を覚える。

なお、最高裁判決は判事の全員一致によるものであり、この事案は控訴裁判所への差し戻しとなった。

7月26日(3) アメリカ企業にIFRS Source : SEC Soliciting Public Comment on Role of IFRS in the U.S. (SEC Press Release)

25日、SECが、アメリカ企業がアメリカ市場でIFRSを使用することについて、パブリック・コメントを求める旨発表した。Concept Releaseという形で公表されるようで、質問形式になっているらしい。Web上ではまだ掲載されていない。

これまでのSECの説明では、コメント募集開始時期は"later this summer"(「Topics2007年6月24日 外国企業のIFRS」参照)となっていたので、ペースが速まっているような気がする。もっとも、Concept Relaseが公表されてから、パブリック・コメント募集期間は90日間となっているので、実際には晩夏から初秋にかけて意見が寄せられることになる。

この発表に合わせて、同日、Cox議長がスピーチを行っており、その中で注目しておきたいフレーズをまとめておく。
  1. SECが問題提起した「アメリカ企業のIFRS使用」という場合のIFRSとは、当然、純正IFRS(「Topics2007年6月24日 外国企業のIFRS」「Topics2007年6月28日 純正IFRSの意味」「Topics2007年7月5日 SECの純正IFRS提案」参照)である。Cox議長の使った用語は、"International Financial Reporting Standards as published in English by the International Accounting Standards Board"である。

  2. コンバージェンスの結果、アメリカ市場において、IFRSとUS GAAPが並存する、さらにはIFRSとUS GAAPが競い合い、やがては市場がいずれかを選択することになるだろうと、の考え方を示している。アメリカ市場で外国企業のIFRS使用を認めたSECからすれば、当然の帰結ではあるが、やはりかなり大胆な決断と言えよう。

  3. Cox議長は、自国の会計基準を捨ててIFRSを選択した国々の企業、金融当局からも意見を聴きたいとしている(「Topics2006年1月11日(2) カナダの会計基準」参照)。ここまで来ると、Cox議長の頭の中には、US GAAPの停止まで視野に入っていると考えてもよさそうである。
翻って、わが国の状況を見ると、上記2.のような論理的な結論を回避して、今に至っている。明確な理屈のないまま、日本基準、アメリカ基準、IFRSが混在している。よく言えば、現実的な対応の積み重ねの結果であるのだが、裏返せば、国内市場においても会計基準のイニシアティブを持つことができずにいる、ということではないだろうか。日本においても、早急にIFRSと日本基準の関係を整理すべきであろう。

7月25日 CHIP+Medicare Source : Democrats Press House to Expand Health Care Bill (New York Times)

先週19日、上院財政委員会(Committee on Finance)は、CHIP強化法案(The Children's Health Insurance Program (CHIP) Reauthorization Act)を可決した。投票結果は17vs 4で、共和党の賛成票も入ったようだ。

CHIPとは、低所得者層の子供に保険を提供する公的プランで、州政府が運営する(S-CHIP)ものの、財源の多くは連邦政府支出により賄われている。

上院財政委員会で可決された法案のポイントは次の通り。
  1. 州政府の財源不足により、今のままいけば、今後5年間で80万人の子供が無保険状態に転落する(CBO推計)。

  2. 現在、CHIPには660万人の子供たちが加入している。強化法により、さらに320万人の子供たちが加入するようになる。これにより、アメリカの無保険の子供たちの数は、3分の1減少する。(つまり、現在は無保険の子供たちが約1,000万人存在していることになる。)

  3. CHIPへの連邦支出を、今後5年間で$35B増額し、総額で$60Bとする。

  4. 新財源として、たばこ税を1パック¢39から$1に引き上げる。

  5. 保険料補助を手厚くする選択肢を設ける。

  6. (参考)法案に基づく歳出入、子供の医療保険加入数に関するCBO推計(7月27日追加)
同法案に対して、社会保障の大御所、Kennedy上院議員も賛同の意を表しているそうだ。

一方、下院民主党では、この上院によるCHIP強化策をさらに拡大(連邦支出の増額を$50B)することに加え、Medicareの民間保険プランに対する助成金を削減するという提案を検討しているとのことだ。

CHIPに関する現行法が9月30日に期限切れるため、連邦議会は対応を急いでいる。また、Medicareにおける医療機関への償還額についても、来年1月1日に10%の削減が行われ、その後8年間にわたって毎年5%ずつ削減されることが決まっている。2016年までには、総計で40%以上の削減幅となる。これは、Bush政権のMedicare改革で民間保険との競争を導入することとしたことに伴う規定(「Topics2003年11月27日 Medicare改革法概要」参照)であり、民主党は、Medicareによる公的医療保障機能が著しく低下するとの懸念を抱いている。

さらに、CBOによる指摘では、伝統的なMedicareと比較すると、政府支出額が、民間保険プランでは12%増、中でも出来高払いプランでは19%も高くなっている。このため、民主党は、金持ち優遇、無駄な支出ととらえている。

この下院民主党の提案については、既にAARPAMAが支持を表明している。他方、たばこメーカー、保険会社は強く反発しており、ロビー活動も開始しているそうだ。

上記のような議会のCHIP拡張の動きに対し、Bush大統領は、次のような観点から不快感を示している。
  1. CHIPそのものは支持するが、所得制限を緩和してバラマキになることには反対。
  2. CHIPを拡大すれば、やがては増税を余儀なくされる。政府による保険プラン提供には限界がある。
  3. 従って、そのような法案に対しては拒否権を発動する。
ましてや、下院民主党のように、Medeicareの民間保険プランへの助成を削減するなどとは、当初の改革目的とは正反対の制度変更となるため、Bush大統領としては絶対に認められないところであろう。

7月23日(1) 7月18日 ERISA vs States (3) Source : Employer Handbook (Commonwealth Connector)

前回の「Topics2007年7月18日 ERISA vs States (2)」の備忘録的記述だが、MA皆保険法における"Fair Share Contribution"について、MA州は次のように説明している。
The Fair Share Contribution is a fee that an employer will pay if he/she does not make a "fair and reasonable" premium contribution to the health insurance of his/her employees.

These fees will be used to help fund the health plans that are subsidized by the state and are available to people who do not have access to employer-sponsored health insurance.
(下線は管理人)
仕組み上は、確かに"Pay or Play"となっているが、企業に医療保険プランの提供を求めているとの合理的な判断は難しい気がする。

なお、これを機に、リンク集「各州」のMA州のところに、Connector関係のリンクを設置した。

7月23日(2) 2008大統領選候補者リスト

そろそろ、こうしたリストも熟成してきていると思うので、よく利用するサイトへのリンクをまとめておきたい。

7月22日 MA皆保険法改正の方向性 Source : Changes seen to state health insurance law (The Boston Globe)

MA州議会では、皆保険法改正の議論が開始されているそうだ。州議会では、すでに法案(S 661H 1166)が提出されており、その審議の手始めとして、かなり多数の証言者を招聘した。

MA州議会でのキーパーソンは、Joint Committee on Health Care Financingの共同議長、Richard Moore上院議員Patricia Walrath下院議員である。当然、両人とも民主党である。

具体的な議論は、秋以降のようだが、次の3点のように、既に改革の方向性が出されているものもある。
  1. 企業が医療保険プランを提供している場合、ペナルティ(例の$295)を回避するためには、企業が保険料の50%を負担する必要がある(現行は33%)。

  2. 上記の負担割合は、行政判断で定められているが、政府(=州知事)が拒否するようであれば、これを法定化する。

  3. 保険料負担の所得に対する割合の上限を10%とする(現行では上限額の設定しかない)。
少しずつ真綿で首を絞めていって、企業ベースの医療保険プラン提供を確実なものにしていこうとの意思が読み取れる。

7月21日 SSN不正使用防止法案 Source : McNULTY INTRODUCES BIPARTISAN SOCIAL SECURITY NUMBER - IDENTITY THEFT PROTECTION BILL (Press Release)

上記sourceを読んでみて、驚いた点を2つ。
  1. 最近2年間だけで、SSNの不正使用により何らかの被害を受けた国民は、1億5000万人以上にのぼるという。国民の過半数が影響を受けていることになる。

  2. 法案では、SSNの使用は表示を禁じる項目を、連邦・州その他政府、民間企業に分けて列挙しているが、その数の多いこと。あらゆる場面でSSNが利用されていたり、呈示を求められたりしていることの裏返しでもある。