Topics 2003年12月11日〜20日      前へ     次へ


12月11日(1) 年金救済法案は来年早々の課題に
12月11日(2) 社会保障と雇用
12月12日 アメリカ社会保障制度の概要
12月15日(1) 行使されないストック・オプション
12月15日(2) 金融・経済教育の重要性
12月15日(3) 次は無保険者対策
12月18日 医療費増加率は依然高水準
12月19日 Cash Balance Planがもたらす影響


12月11日(1) 年金救済法案は来年早々の課題に Source : Congress Heads Home Without Passing Pension Relief (New York Times)

下院に続き、やはり、上院は何もできないまま、休会に入ってしまった。これで、年金救済法案の年越しが決定した(「Topics2003年12月10日 年金救済法案は棚ざらし」参照)。

2004年第一四半期は確実に始まってしまってからの法案審議となるため、実務への影響は多大である。拠出額すら計画できない状況に陥ってしまったのだから。

上記sourceでは、上院の共和党リーダーBill Fristも、民主党リーダーTom Daschleも、来年開会早々取り組むと発言している。しかし、議会が再開されるのは、1月20日。第1四半期は、3分の1ほどが終わろうとしている頃である。DBプランを持っている企業にとってみれば、とんでもない怠慢と映るだろう。しかも、議会、行政府関係者の中には、「そんなに急いでいるのかね」という雰囲気があるようだ。ビジネスの実態を知らない人達は、こういう対応に出てしまうので、困ってしまうのである。

昨日も述べた通り(「Topics2003年12月10日 年金救済法案は棚ざらし」参照)、企業は、不確定要素の多い制度の継続を嫌う傾向にある。年末から年始にかけて、DBプランを持つ企業がどのような対応に出るのか、注目しておきたい。

12月11日(2) 社会保障と雇用

年金改正議論が盛んな昨今、公的年金と雇用の関係について、立教大学大学院でお話しました。そこで使用したレジュメを、「考察・コメント」に掲載しました。

12月12日 アメリカ社会保障制度の概要 Source : Sourcebook (National Academy of Social Insurance)

上記sourceは、アメリカの社会保障制度をコンパクトにまとめたサイトである。是非ご参照いただきたい。

12月15日(1) 行使されないストック・オプション Source : Workers Tender Stock Options At Microsoft (WSJ)

マイクロソフト社のEBC(Equity-Based Compensation)は、大きく変更された。その特徴は、次の2点に集約できる(「Topics2003年8月1日 マイクロソフト(MS)のストック報酬を巡る議論」参照)。

  1. 新株購入権を付与するストック・オプションから、株式付与に切り替える。
  2. 株価水準が付与時の価格よりも低いために行使できないオプションを買い取る。
上記sourceによれば、今年7月に新たなプランが開始されて以来、オプションを保有する管理職、従業員のうちの約半数(51%)が、上記2のプログラムにより、行使できないオプションを売却したそうだ。オプション買取スキームの概要は、次の通り。

  1. これまでのオプション買取実績は、3億4500万オプション。買取総額は3億8200万ドルで、1オプションあたり平均$1.11となっている。
  2. 36,500人の従業員が行使権を付与されたが、そのうち約18,500人がオプションを売却した。
  3. そのほとんどが、付与時価格$33であった。現在の株価は$26.61(12月11日現在)。
  4. J.P. Morganは、このオプション買取スキームを設定することで、(MS社より)$10Mの一時金を獲得した。
  5. J.P. Morganは、既発行株式の希薄化を回避するため、買い取ったオプションは、最終期限日まで保有する。
  6. J.P. Morganは、買い取ったオプションと他のデリバティブを組み合わせることで、利益を得たいと考えている。
実は、最後の6点目は、どういう商品を検討しているのか、皆目見当がつかない。だが、ともかくも、アメリカでは、セカンダリー・マーケットを作ることで新たなビジネスを発展させようという試みが常に行われているということなのだろう。

12月15日(2) 金融・経済教育の重要性 Source : 米・英の金融・経済教育と日本への考察 (大和総研 金利為替調査部 シニア・エコノミスト 土屋 貴裕)

上記sourceは、とても有益な情報と提言が盛り込まれており、是非ともご一読いただきたい。土屋様には、当websiteへの掲載をお許しいただき、この場を借りて、感謝申し上げる。

なぜ、金融・経済教育が重要と考えるのか。その理由は、「個人の自立」、「社会の規律」のためには、経済的な自立が不可欠と考えるからだ。日本社会では、政府や自治体がなにもかも丸抱えで国民の面倒をみていくことは、到底不可能な状況になっている。ところが、「個人の自立」と言われてみると、泳ぎ方も知らずに大海に放り出されるような感覚に陥ってしまう。それは、この金融・経済教育が浸透していないためだろう。

ペイ・オフ解禁が決まっていても、ずるずると実施を引き延ばしてしまう。そのために、金融機関の選別も遅くなり、最後の最後になって、金融庁が引き金を引かなければ、金融機関が健全なのか不健全なのかがさっぱりわからない。ペイ・オフになっても、取りあえず、皆が安全という郵貯に流れる、などという観測が、実しやかに語られる。

私も、日本の金融・経済教育の不足により、大変苦しい思いをした経験がある。

今から数年前、確定拠出プランを日本にも導入しようと動いていた際、労働組合や自民党政治家から、「普通のサラリーマンが投資・運用などできるわけがない」と反対された時期があった。私の思いからすると、普通のサラリーマンが自己責任で投資・運用できなくなったのは、金融機関の護送船団方式のせいだったのではないのか。そうした過去を払拭するためにも、確定拠出プランの導入により、国民一人ひとりが経済的自立を考えるようにしなければならないのに、と考えていた。

また、アメリカ留学時代に在籍していたEBRIが、政策分析のシンクタンクであるにもかかわらず、金融・経済教育に力を入れていることに、驚かされた。以下は、その例示。 このような活動は、日本でも結構知られていて、これまた上記sourceで紹介されている日銀の金融広報中央委員会も、ASECを訪問し、意見交換を行っている。

日本でも、金融広報中央委員会を中心に、この分野でのNPOの活躍が期待されるところである。

12月15日(3) 次は無保険者対策 Source : Republicans Shift Focus to Helping the Uninsured (New York Times)

Medicare改革法の成立に成功した共和党は、上院Majority LeaderのBill Fristを中心に、次は無保険者対策に乗り出す、と意気込んでいるそうだ。Frist自身、医者であることも手伝ってか、ここで一気呵成にたたみかけようとしているようだ。

無保険者対策として、どういった内容にするかというところまでは固まっていないようだが、Fristの特命を受けた10人の上院議員が、検討チームを作って議論していくようだ。その検討課題には、保険料の税額控除の拡充、公的医療保証制度の拡充、中小企業を対象とした連合保険プランなどが含まれる見通しだ。

言うまでもなく、2004年は大統領選挙の年である。その年に、無保険者対策という大きな課題に手を突っ込むということは、かなりの冒険だと感じられる。ここで、共和党が無保険者対策に乗り出すメリット、デメリットを列記してみたい。


私は、メリットの最後、5点目に挙げている『無保険者対策は、企業、労働組合、医療機関などのサポートを得やすい』というのが、実は最大のメリットではないかと思う。古い話になるが、Bush大統領は、最初に総合的な医療改革提案を行った際、無保険者対策に触れなかったために、窮地に陥った経験がある。

その時のTopicsの記述を引用すると、次のようになっている。

「Topics 2002年2月12日 医療保険改革と選挙」

 このWashington Postの記事は、全米商工会議所会頭と最大の労組団体AFL-CIOの委員長が、共著で寄稿した意見記事である。日本でいえば、経団連と連合が一緒に意見広告を出した、ということだ。

 昨日の大統領医療改革提案をどこまで意識してこの意見記事を出したのか、大変興味のあるところである。

 昨日の大統領提案は、"Improving Health Security in the Best Health Care System in the World"を課題として挙げている。今日の記事では、"世界で最も先進的な医療システムを持っているとしても、労使双方にとって最大の課題は、3900万人の無保険者の問題だ"と主張している。いろいろ細かな政策を並べるよりも、医療の世界で最大の課題である無保険者をなくすことに重点を置け、と言っているのである。意地悪な見方をすれば、大統領提案を一蹴した、とも読める。

 昨日も記載したが、アメリカの労働者にとって最も関心のあるbenefitは、医療保険である。医療保険は、emplolyerが任意に提供するものであり、だからこそ人事戦略の一環として重要な位置付けになるのだが、景気後退期や中小企業にとっては、その保険料負担は大変な重荷になる。現時点で、医療保険をめぐる環境は、@景気の底が明らかになっていない、A大量のLay offが行われている、B医療保険料は2桁近い伸びになる、という三重苦となっており、無保険者が大量に増加することが予想されている。

 また、意見記事の文末で、「今年は選挙だから大きな改革はできない」という考え方には賛成できない、と明言している。明らかに選挙を意識し、選挙においても争点にすべきとの立場を示している。

 このような労使の主張は、大統領提案に打撃を与え、11月の選挙で民主党有利の地合いを作っていくのではないかと思われ、今日のTopicsに取り上げてみました。
つまり、約2年前、中間選挙を前にして、Bush政権は、危うくポカを犯しかけたのだ。その教訓を活かして、今回は無保険者対策に打って出ようということなのかもしれない。もし、時間不足で結論が出なかったとしても、大統領選まで無保険者対策をやるんだという姿勢を続けていれば、企業と労働組合の支持を引き付けることができるのだ。従って、どうもこの点こそが、最大の狙いではないかと思われる。

いずれにしても、国民の最大の関心事項である無保険者対策で、共和・民主両党が激突するのであれば、選挙戦が盛り上がることだけは間違いない。

12月18日 医療費増加率は依然高水準 Source : Tracking Health Care Costs: Trends Slow in First Half of 2003 (the Center for Studying Health System Change)

依然として、アメリカの医療費増加はハイペースで続いているようだ。上記sourceは、最近数年間の一人当り医療費の伸び率を半期ごとに示したものである。そのポイントは次の通り。

  1. 2003年前半の一人当り医療費の伸び率(前年同期比)は、8.5%。2002年後半の10.0%と較べれば、1.5%ポイントの低下。

  2. 外来、入院、医師技術料、処方薬のいずれも、増加率はダウン。

  3. 医療機関サービス(外来+入院)の伸び率は10.5%と、依然高水準。伸び率の内訳jは、価格が8.0%を占めており、価格の高い伸びが、医療サービスの需要を押し下げているという側面が見られる。

  4. 一人あたりGDP伸び率と比較すれば、医療費の伸びは、遥かに高い水準で推移している。

  5. 医療費の伸びは保険料の引上げを招くことになる。保険料を支払えない国民が増える結果、無保険者が増加していく可能性が高い。
やはり、最後は無保険者問題になっていきそうだ。共和党の戦略(「Topics2003年12月15日(3) 次は無保険者対策」参照)が成功するかどうか。ますます注目度合いは高まる。

12月19日 Cash Balance Planがもたらす影響 Source : How do Cash Balance Plans Affect the Pension Landscape? (Center for Retirement Research at Boston College)

上記sourceは、キャッシュ・バランス・プラン(以下「CB」)とは何か、から始まって、その普及度、採用理由、企業・従業員への影響、政策課題などについて、わかりやすく解説しk手いる。そのポイントは、次の通り。

  1. CBは、1985年、Bank of Americaで初めて採用された。確定給付プラン(DB)に含まれるが、仮想個人勘定を設けることで、確定拠出プラン(DC)の特徴も一部取り入れたハイブリッド・プランとなっている。



  2. DC、CBの普及により、DBプランにおける一時金受け取りの割合が急速に高まっている。



  3. 企業がCBを採用する理由は、いくつもある。

    1. 従業員に年金額の保証を与えながら、個人勘定(仮想)とポータビリティを提供できる。
    2. DBで提供している早期退職勧奨制度をやめることができる。通常のDBプランでは、55歳になると、割増額が付加される。
    3. コスト抑制を目的にDBからCBに移行しているとは明言できない。

  4. 大まかな積立曲線は、次のように設計されている場合が多い。



  5. DBからCBに移行することにより、DBプランにおける転職者の不利益を解消することができる。



  6. CBの政策課題は、次の3点。

    1. DBからCBへの制度移行と年齢差別禁止法の関係(「Topics2003年8月2日 IBM敗訴」参照)

    2. Wear-away(拠出の一時停止)
      DBからCBに移行した場合、通常、中高年齢層において、予定給付額が下がる。CBのラインに沿って予定給付額が増加し、移行時のDBでの予定給付額に追い付くまで、拠出を停止することになる。この拠出停止のことをwear-wayと呼んでいる。このwear-awayが適正なのかどうか、年齢差別禁止法に抵触しないのか、という課題が残されている。(「Topics2002年12月11日 Cash Balance と年齢差別禁止法」参照)



    3. Whipsaw(仮想勘定と支払一時金の差異)
      IRCでは、「DBにおける一時金支払は、通常の退職時(65歳)における年金支払と数理的に同等でなければならない」と規定されている。このため、加入者が一時金払いを選択した場合、
      「仮想勘定残高」→予定運用利率で割増→「65歳時点の仮想残高」→年金換算→「年金額」→30年国債利子率で割引→「割引現在価値=一時金額」
      というプロセスを経て、一時金を計算する。現在、30年国債利子率が極めて低いため、「予定運用利率>割引率」となっている。このため、「仮想勘定残高<一時金額」となってしまい、従業員の一時金選択により、プランの資産が予想以上に侵食されてしまうという問題が起きている。



上記課題について、財務省の早急な対応が求められるところである(「Topics2003年11月14日(2) CB Plan問題は先送り」参照)。

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