Topics 2003年7月21日〜31日     前へ     次へ


7月21日 増え続ける一時金払い
7月23日(1) ストックオプションの会計ルール
7月23日(2) Portman-Cardin Billの行方
7月24日(1) 規律なき要望
7月24日(2) 候補者達の医療政策提言を評価する
7月29日(1) Medicare Billに関する費用推計
7月29日(2) Generation Y
7月29日(3) 人事政策の方向性の変化
7月30日 EdwardsとKerryの医療改革提案


7月21日 増え続ける一時金払い Source : Lump-Sum Distributions and Retirement Income Security (CRS)

以前にも書いたが、アメリカの企業年金は、もはやDBかDCか、という問題ではなく、一時金か年金(分割払い)か、という問題になっているという。

上記Sourceは、増え続ける一時金払いの実態と退職後所得の確実さについて調査したものである。ポイントは次の通り。

  1. 企業が提供する退職後所得プランに加入している従業員の割合は、49.1%(1億3011万人)に達する(2001年)。

  2. 退職者の所得は、公的年金(Social Security)に依存している割合が高い。半分以上を公的年金に依存している退職者は約65%。公的年金のみに依存している退職者は20%となっている(いずれも2001年)。

  3. 退職後所得のために蓄積された企業年金プランから一時金で引き出して、他のプランに移管しなければ、それだけ退職後所得が確保されないことになる。そうならないように、税法では、他のプランへの移管に誘導するための様々な措置を講じてきている。

    1. The Tax Reform Act of 1986

      59.5歳前に引き出され、IRAまたは他の年金プランに移管されなかった一時金については、通常の所得税に加え、10%の超過税(excise tax)が課される。

    2. The Unemployment Compensation Amendments of 1992

      企業は、一時金を直接IRAまたは他のプランに移管できるよう、退職者に選択権を与えなければならない。退職者が一時金での直接受取を選択した場合、企業は、将来の課税に備えて、20%を留保しなければならない。もし、引き出し後、60日以内にIRAその他のプランに移管されなかった場合、退職者は、一時金全額について、通常の所得税に加え、10%の超過税を支払わなければならない。

    3. The Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001

      税法により、現在価値が$5,000未満の場合、企業は退職者の合意がなくても、一時金でプラン残高を支払うことができる。しかし、上記法律により、現在価値が$1,000以上の場合、退職者からの指示がない限り、企業は一時金をIRAに振り込まなければならないこととなった。

  4. DCプランの場合、退職者への一時金は、単純に個人勘定の残高がそのまま支払われる。しかし、DBプランの場合、退職者が通常の退職年齢に達した際に支払われる年金額の現在価値を算出して、一時金とする。その際に利用される割引率は、税法により、30年もの国債の利子率と定められている。しかし、その30年もの国債の発行が行われていないため、他の利子率を定める必要があり、議会では、Portman-Cardin法案(社債の利子率を利用する旨提案)(H.R.1776)が審議されている。(「Topics 7月14日(1) 企業年金のルール改正提案」参照)

  5. $5,000以上の一時金支払いの場合、企業は退職者の書面での承認を得なければならない。$5,000未満の場合、退職者の承認なしに一時金で支払うことができる。そうすることで、少額のプラン残高を有する退職者に関するPBGCの保険料を免除している(支払保証制度の保険料は加入者を単位に課される)。

  6. 21歳以上の労働者5,330万人のうち、82%が一時金支払いが可能なプランに加入している(1998年)。近年、大規模なDBプランがキャッシュ・バランス・プランに移行しているため、一時金支払いが可能なDBプランがさらに増加している。

  7. 1998年の時点で、およそ1,430万人が、一時金での支払いを少なくとも1回以上受け取っている。そのうち、36%が、一時金全額をIRAまたは他のプランに移管している。その総額は、支払われた一時金の59%に相当する。また、IRAまたは他のプランに、全く移管しなかった退職者の割合は、16.1%であった。

  8. 年齢別に見ると、25歳以上34歳以下では、全額移管した割合は29.6%しかないが、45歳以上54歳以下では、45.3%に達する。他のプラン等に移管しなかった一時金額は、年金額に直せば一月あたり$290に相当する。

従来、アメリカの企業年金にとって、一時金払いが特殊ケースと考えられていた。他方、日本では、一時金払いが一般的であり、高度成長期の中で、一時金が年金化されてきたという経緯をたどっている。つまり、アメリカでは「退職金=年金」が基本であるのに対し、日本では「退職金=一時金」が基本である。この辺りの歴史的経緯を踏まえないと、日米の企業年金プランの思想の差を見誤る可能性がある。

アメリカで一時金払いが増えてきたことは、日本の退職金制度に近づいてきたとも言える。受給権等に関するアメリカの法整備が早くから確立されてきたのに対し、日本の退職金制度は、時代に合わせて柔軟に変化してきた。日本のDBプランからアメリカ企業が学ぶべき点(「Topics 6月16日(2) 日本が先行する企業年金」参照)も多いものと思う。


7月23日(1) ストックオプションの会計ルール

「Topics 7月15日(1) マイクロソフトの決断」で、書いた通り、アメリカ企業では、ストックオプションなど、自社株を利用した報酬制度を費用化して財務諸表に計上しようという動きが強まっている。

FASBでは、1995年のFAS No. 123で、自社株による報酬制度は費用化することが望ましいとし、企業が費用化を選択する場合の計上ルールを提示している。

日本政策投資銀行(ワシントン事務所)レポートによれば、仮にハイテク企業で費用化ルールを採用した場合、利益幅は大幅に圧縮されてしまう(いずれも2001年度)。なお、同レポートは、ストックオプションの費用化に関する議論の経緯、内容について解説しており、有益であった。

PROFIT


これだけの影響があるのだから、やはり費用化することが投資家への情報提供として必要だろう。また、経営陣の報償や従業員の人件費としてどれだけのコストがかかっているのかを知ることは、経営の効率化、株主利益の最大化に貢献することになるだろう。


7月23日(2) Portman-Cardin Billの行方 ERIC Proposal in Portman-Cardin Bill Advances but Political Dispute Clouds Future (ERIC)

下院委員会で、Portman-Cardin法案(HR 1776)の審議が始まった。この法案の最大の目玉は、DBプランの給付債務を算出する際に使用する割引率について、新たな提案を行っている点である。現行制度では、30年もの国債の利子率を利用することとなっているが、30年もの国債の発行がなくなっているため、その代替措置が必要になっている。

同法案の提案は、次のようになっている。

  1. 給付債務の算出には、2004〜2006年において、長期社債の利子率を利用する。

  2. 一時金の算出は、2004、2005年は現行法通り。2006年は、
    @社債利子率
    A30年国債利子率+(社債利子率−30年国債利子率)×20%
    のいずれか低い方を利用する。


この問題については、財務省が社債のイールドカーブを利用するとの提案を行っている(「Topics 7月14日(1) 企業年金のルール改正提案」参照)。下院委員会では、財務省提案についてヒアリングを行ったが、それを採用する気はないようだ。何しろ2006年までしか手当てしないということは、3年後には再び30年もの国債が市場に出てくるとの推測があるものと考えられる。

なお、下院委員会における同法案の審議が、共和党のペースで強引に進められたことに民主党議員が激怒し、審議プロセスについてクレームがついている。下院での議決が来週に予定されていたが、それも危ぶまれる状況となっている。

なお、Portman-Cardin法案の詳細は、ここに掲載されている。


7月24日(1) 規律なき要望
日本の話で恐縮だが、やはり腹に据えかねるので、コメントを残しておきたい。

今日(24日)、社会保障審議会年金部会が開催され、経済界委員の年金改革論議に関する意見書が提出された。2004年公的年金改革が議論されているので、公的年金に関する意見が大半を占めているのだが、私が問題にしているのは、最後の企業年金に関する要望のうち、厚生年金基金に関するものである。

厚生年金基金に関する要望は、2点にまとめられており、そのポイントは次の通りである。

  1. 2004年年金改正における厚生年金基金の免除保険料引上げと最低責任準備金の凍結解除も大きな問題であるが、凍結解除に伴う過去期間に係る負担増は、自己責任の下に財政健全化を図ることが原則である。@
    その上で、基金責任とは言えない2004年制度改正によって負担が増加する部分を免除保険料率等で調整することを検討することとすべきである。A
    なお、早期に代行返上を行った基金とそれ以外の基金で、最低責任準備金の取扱に不公平が生じないような取扱とすべきである。B

  2. いわゆる代行割れの厚生年金基金Cの解散の取扱においても、上記同様、自己責任による財政健全化が必要である。D
    その上で、分割納付、または、金額の特例を設けるEためには、国民に対して納得のできる説明が必要となる。
    その場合、分割納付中に経営破綻等が生じる可能性等に対して、将来の返済が確実に行われるための措置が必要である。


2001年年金制度改正で、経済情勢の悪化という事態を踏まえ、厚生年金(公的年金)保険料は、凍結措置が採られた。つまり、経済が悪い中で負担を増やす訳にはいかない、というわけだ。その影響で、厚生年金基金の代行部分の保険料である「免除保険料率」も凍結された。

また、代行部分の給付に必要な資金として積み立てておくべきファンドを「最低責任準備金」と呼ぶ。この最低責任準備金を算出する際の割引率として、従来、公的年金の予定利率を利用してきた。従って、従来は、5.5%を利用していた。2001年改革で公的年金の予定利率が4.0%に引き下げられたため、本来なら、最低責任準備金用の割引率も4.0%に引き下げるべきであった。しかし、これも経済情勢の悪化に鑑み、割引率の引き下げも見送られた。割引率が引き下げられれば、最低責任準備金は、大きく膨らみ、企業拠出が重くなるからだ。

このような措置が採られた結果、最低責任準備金は、2001年に、一旦5.5%の割引率で算出した後、毎年の公的年金の運用実績で増やしていくこととされた。

従って、2004年公的年金改革で、さらに予定利率が引き下げられ、保険料率が引き上げられれば、免除保険料率と最低責任準備金の凍結措置は、解除せざるをえなくなるのである。そうなれば、厚生年金基金を持つ企業の拠出責任は、一気に膨らむことが考えられるのである。

確かに、2001年の一連の凍結措置は、経済界から要望したものではなく、厚生年金基金の財政状況の悪化を懸念した厚生省(当時)のいわば「親心」からであった。従って、最低責任準備金の算出方法の変更と金額の急増は、厚生年金基金を持つ企業が自ら招いた結果ではなく、その点については、当該企業の責任はない。

しかし、である。厚生年金基金という制度は、公的年金の一部を預かることで、運用をしやすくし、規模の利益を得ることを目的にした制度である。そのような制度に、予定利率や最低責任準備金に関する制約が設けられるのは当然である。しかも、そうした制度を選択したのは、企業自身であり、決して政府から押し付けられた規制でも何でもない。予定利率が将来変更される可能性があること、そうなれば最低責任準備金は大きく変動することは、制度の性格上、当然なのである。そういった制度であることを理解した上で、ある企業は厚生年金基金を選択し、別の企業は選択せずに適格退職年金にとどまったのである。まさに、経営判断の分かれた結果が、今に至っているのである。

こうした考え方に立てば、上記@の部分は、当然の考え方であり、凍結解除に伴う負担増は、自己責任で賄うべき性格のものである。せっかくこうした原則を立てておきながら、その次に来る上記Aの部分は、まったく逆の要望をしているのである。つまり、凍結解除に伴う負担増は、「自分達の責任ではないので、公的年金制度で穴埋めしてくれ」と言っているのである。

制度の変数変更に伴う負担の増減は、制度採用に伴うリスクであり、それを承知でその企業は採用したはずである。しかも、自ら手を挙げて採用してきた制度に穴があくから、その穴は、他のサラリーマンや企業の拠出する保険料で賄ってくれ、と主張しているのである。これでは、制度のリスクを不当と判断して適格退職年金にとどまった企業やその従業員、企業年金も用意されていない従業員にとっては、到底承服できない。

さらに、上記Bでは、凍結措置の時期の前後で、代行返上に伴う負担を変えないでくれ、と要望している。大きなお世話だ。逸早くリスクの大きさを危険と判断し、代行返上に必要な資金をしっかりと積み立ててきた企業が、凍結措置中に代行返上するのは、普段からの自助努力の賜物である。それを、判断をぐずぐずと遅らせ、代行返上に必要な最低責任準備金を積み立ててこなかった企業も同様の措置にしてくれ、と要望するのは、まさに甘え以外の何ものでもない。公的年金の穴を大きくしてまで許容すべきではない。

次に、運用や企業拠出が順調でないために、本来、積み立てておかなければならない最低責任準備金が積み上がっていない厚生年金基金が多数発生している。こうした厚生年金基金のことを、上記Cのように「代行割れ基金」と呼んでいる。現行制度では、最低責任準備金を返還しなければ、厚生年金基金は解散できないことになっているため、代行割れ基金は解散したくても解散できない状況にある。しかし、厚生年金基金は、自ら選択して採用した制度であり、代行部分は国の公的年金制度から預かったのだから、耳を揃えて返すのが当然であり、その準備ができていないこと自体、大問題である。従って、上記Dのように、自己責任で処理するのが当然である。

ところが、次の文章Eでは、分割納付、または減額の特例を認めてくれ、と言っている。代行返上の場合、分割納付は認められていない。企業がいつまでも存続するとは限らないからだめ、というのが厚生労働省の理屈であった。いわんや、返上額の減額などとんでもないという話だ。ところが、最低責任準備金もちゃんと積めていない厚生年金基金の解散には、分割納付や減額を認めるというのはいかにも理屈が立たない。むしろ、代行割れ基金の解散のケースでは、母体企業の資産等に対する差し押さえまでして、大事な国民の財産を取り返すべきなのである。また、分割納付の場合、財政法により、国は担保をとらなければならない。そうした担保物権が残されているのか、という点も考慮すべきなのである。

長くなってしまったが、苦しくなれば何でもあり、というのが、経済界の要望なのだろうか。むしろ、この要望に対して苦々しく思っている企業経営者、従業員の方が圧倒的多数だと思う。企業は「規律」なくして長続きはできないからだ。是非とも意見書の見直しを要望したい。


7月24日(2) 候補者達の医療政策提言を評価する
 Source : National Journal Examines Health Proposals From Presidential Candidates ; The July 19 issue of National Journal

National Journal誌が、2004年大統領選候補者達の医療政策提言について、評価結果を公表した。

まず、面白いのが、評価の手法である。医療政策の専門家10人を集め、それぞれの候補者の提案について、数値で評価しているのである。専門家10人の中には、保守派あり、リベラル派あり、政治的思想背景なし、とバランスをとりつつ、大学、シンクタンクの専門家を集めている。

専門家10人のリストは、次の通り。

評価委員会メンバーリスト
名  前肩 書 き所属機関
Robert BlendonProfessor, health policy and political analysisthe Harvard University, School of Public Health
Paul FronstinSenior Research AssociateEmployee Benefit Research Institute
Paul GinsburgPresidentCenter for Studying Health System Change
John GoodmanPresidentNational Center for Policy Analysis
Ed HaislmaierVisiting Research FellowHeritage Foundation
Ed HowardExecutive Vice PresidentAlliance for Health Reform
Chris JenningsPresidentJennings Policy Strategies
Jack MeyerPresidentEconomic and Social Research Institute
Robert ReischauerPresidentUrban Institute
Gail WilenskySenior FellowProject HOPE


こうしてみると、シンクタンクの層の厚さにあらためて感服してしまう。蛇足だが、私が所属していたEBRIからも、Dr. Paul Fronstinが参加している。彼は、物静かで、常に冷静な物言いをしてくる。私が質問した時も、彼がわかることとわからないことを正確に分類して回答してくる。かといって、冷たいとかいう印象はなく、むしろ良心を感じるほどである。彼が教えてくれた、労働経済学に関する書籍は、私の2年間の留学生活において、大きな支柱となった。とても感謝している。

次に、各候補者の医療政策提案を評価するための基準である。ここでは、次の10点について、評価基準を定めている。

  1. 無保険者を減らすために有効な政策提案となっているか

  2. 企業が提供する医療保険の加入者一人一人の自己負担について、抑制することができるか

  3. 企業、保険加入者の自己責任が高まるような仕組みになっているか

  4. 政府負担が抑制されるか

  5. 経済成長の範囲内に医療費増加を抑制できるか

  6. (コスト増により)企業が医療保険の提供をやめることにならないか

  7. 医療過誤を減らすことができるか

  8. 予防医療へのアクセスが高まるか

  9. 医療過誤保険の保険料を1990年代後半のレベルまで引き下げる効果があるか

  10. 医療機関が(市場から)撤退しないか

そして、上記10の評価基準ごとに、各候補者の提案について、評価委員がそれぞれ最高5点、最低1点で点数をつけ、集計した結果が次の表のようになっている。

評 価 結 果
評価基準基準1基準2基準3基準4基準5基準6基準7基準8基準9基準10※総合
President Bush1.82.43.93.71.83.02.62.43.73.62.9
former Vermont Gov. Howard Dean (D)3.83.62.72.22.02.93.7-1.53.12.6
Sen. John Edwards (D-N.C.)2.0-------2.0-0.4
Rep. Richard Gephardt (D-Mo.)4.53.92.11.41.84.5--1.03.72.3
Sen. Bob Graham (D-Fla.)2.7--2.4--3.8---0.9
Sen. John Kerry (D-Mass.)3.53.52.72.42.43.43.63.93.8-2.9
Rep. Dennis Kucinich (D-Ohio)4.6-4.51.7------1.1
Sen. Joseph Lieberman (D-Conn.)2.1---------0.2
former Sen. Carol Moseley Braun (D-Ill.)4.3-4.71.6------1.1
注1) "-"は、評価に足る情報が開示されていないことを表す。
注2) 最後の"総合"は、各候補者に付けられた基準1〜10の評価ポイントを、筆者が単純平均したもの。ただし、評価がされていない項目(-)については、総合性を見る観点から、0点として計算した。



この評価結果を見ていて感じたことを列記すると、次の通りである。

  1. 総合評価が高いのは、BushとKerry。Bushの場合には、自己責任の高まり、政府負担の抑制、医療過誤保険料の引き下げなどが、高い評価を得ている。他方、Kerryは、全般的に高いポイントを得ているが、医療機関が市場に残れるかどうかの評価ができず、総合ポイントを下げている。実質的には、Kerryの政策提言が最も高く評価されているといってよかろう。

  2. 確かに、Kerryの医療政策提案を見ると、総合的かつ具体的な項目を列記しており、総合性という視点からも、最も評価されて当然と思われる。ただし、政府負担、企業負担の観点で増加が予想されることから、これらの点をどう説明していくかが課題となるだろう。

  3. Kerryは、現時点で、政治資金集めでも民主党のトップを走っている(「Topics 7月5日 大統領選候補者たちの資金調達」参照)。国民の関心の高い医療政策分野でも高得点を挙げられたとすると、かなりの有力候補ということになろう。後は、外交政策がどうなのか、という点が気になるところである。

  4. 逆に、Liebermanはどうしたのか。これだけ他の候補者達が医療政策について語っているのに、Liebermanは、ほとんどスタンスを明らかにしていない。これは、相当印象が悪いのではないだろうか。

  5. 共和党対民主党という構図で見ると、医療政策でBushに対抗しようという、党幹部の方針は、今のところ成功しているとは言えない。Bushは現役の強みから小刻みに現実的な提案を重ねている。Medicare Billが成立すれば、さらに彼のポイントは高まるだろう。

  6. 医療過誤専門の弁護士であったEdwards(「Topics 5月7日 藪医者 vs. 救急車追っかけ弁護士」参照)は、専門家達からはほとんど評価を得られていない。やはり、一点突破主義では大統領候補としての力量が問われるということか。



7月29日(1) Medicare Billに関する費用推計 Source : Cost Estimate for H.R.1 and S.1 (CBO)

両院協議会によるMedicare改正法案をめぐる協議は、それほどとんとん拍子に進んでいるわけではなさそうだ。Bush大統領と協議会メンバーとの話し合いでも、秋までには、との言葉が出ているようだ。この夏を挟んで、前に成立するか、後回しにするか、は、議会運営では大きな意味を持つと思われる。

短いワシントン・ウォッチの経験を思い出してみると、2001年の患者の権利法案は、夏休み後に回され、審議がだらだらと長引いている間に、9/11が勃発し、お流れになった(「Topics 3月12日(2) 医療過誤賠償法案」参照)。逆に、2002年は、夏休み直前に企業不正防止法が成立した(「Topics 2002年7月25日(1) 企業不正防止法」参照)。

ところで、議会調査機関であるCBOは、Medicare改正法案に関するコスト推計を公表した。いつもながら、こうした多角的な数量的分析が中立機関から出てくるという点について、さすが民主主義を標榜する国だな、と感心する。

ポイントとなる計数表を掲載しておく。

歳出増に関する推計

CBO1


歳入増に関する推計

CBO2


処方薬に関するコスト推計


CBO3



7月29日(2) Generation Y Source : New Generation of workers has different views, expectatoins (Mercer)

"Generation X"とは、

Generation X n.《文化/社会》カナダ人人気作家ダグラス・クープランド(Douglas Coupland)が1991年に発表した小説. 主に1950年代〜60年代生まれのモラトリアムな青年層(この小説発表当時は彼ら多くは20代にあった)を指した Generation X(または Generation-Xer) は小説の大ヒットとともに社会的に脚光を浴びる.  原書は St. Martin's Press から. 日本語版は角川書店から出ている. (http://www.alc.co.jp/be-line/vivaafn/DIC0214.HTMLより)

とされている。

Generation Y とは、その次の世代を指しており、彼らが今、徐々に労働市場に参入しつつあるのである。

上記Sourceによれば、ようやく経営陣がGeneration X への対応をしなければならないと気付き始めたところだが、次のGeneration Y もまた、特徴ある世代ではないかと推測されている。この調査では、Generatoin Y を、現在、18〜24歳の世代と位置付けている。

上記Sourceが他の世代と比較して浮き彫りにした、Generation Y の特徴は、次の通りである。

  1. 勤務先における仕事と生活のバランスについて、評価している。
  2. 教育プログラムに参加するために職場を離れやすい環境であると感じている。
  3. 業績評価を積極的に評価している。
  4. 上司に対する評価も高い。
  5. 勤務先の顧客サービスを評価している。
  6. 職場のチームが他のチームとうまく連携していないと感じている。
  7. 職場での評価が適正でないと感じている。
  8. 今の仕事、勤め先企業に満足していない。
  9. 基本給よりも、昇進機会の多さ、勤務時間の柔軟性などを重視している。
  10. 退職後医療保険や介護保険には関心が薄く、教育ベネフィット、子供の養育のためのFSA(Flexible Spending Accounts)、ペット保険などに関心が高い。
労働者の選好が変われば、人事政策もそれに適応せざるを得ない。経営陣トップの価値観だけでは、有能な人材を確保できなくなる。そうした危機感を、アメリカ企業の人事部門は持っているようだ。

7月29日(3) 人事政策の方向性の変化 Source : The Matter of Strategy: from People to Profit (Mercer)

上記Sourceでは、最近の人事部門(HR)の戦略動向について、HR担当者を対象に調査している。そのポイントは次の通り。

  1. 55%の企業が、人事戦略を持っており、それらのうち、88%が経営戦略と関連付けている。経営戦略と人事戦略を関連付けている企業では、概して、経営トップが人材(人財)の重要性に関心を持ち、コストというよりも価値の源泉と見ている場合が多い。

  2. 97%の人事部門責任者が、経営幹部から指示を受けている。また、54%が、直接、CEOに報告をしている。

  3. CFO達が、次第に、重要な経営資産として人材を見るようになってきており、人事プログラム等の設計に参画したいと考え始めている。人材に関する予算について、54%が、人事部門と財務部門が連携すべきと考えている。

  4. 人事政策の変更は、主に、人事部門の責任者の変更、経営環境の変化に対応して、進められている。

  5. 経営戦略と結びついた人事戦略を持っている企業では、人材を費用というよりも資産と見ており、組織内で有能な人材を発掘しようとする傾向がある。ただし、人材に関するROIに関心を持つ経営者は少ない。また、人材関連予算を人事部門以外の人達との連携で決定している場合が多い。

  6. 今後1年間に人事戦略を変更しようとしている企業では、人事部門での仕事の流れの効率化、人事部門スタッフの教育に重点を置こうとしている。

  7. 人事戦略の評価をする際に多用される指標は、従業員の勤務態度と転職率である。

当たり前の話ばかり並んでいるようだが、私として意外だったのは、上記3の項目である。3を裏返して言うと、人事戦略に関する予算について、46%が財務部門との連携を重視していない、ということだ。やはり、アメリカ企業でも、人事部門と財務部門という縦割り社会があるのだろう。そういった縦割りの弊害を排除するのが経営陣、取締役の役割(上記2の項目)となっているのだろう。

日本企業も、企業年金を契機に、人事と財務、経営企画が連携するようになったと聞いている。方向さえ定まれば早いのが日本企業の特質だ。この面での日本企業の改善は、案外早いかもしれないと期待している。

7月30日 EdwardsとKerryの医療改革提案

28日、Edwardsが医療改革提案を公表した。National Journalが評価を公表した直後で、Kerryが自分のwebsiteで「一番だった」とはしゃいでいる中、今ごろ提案を公表しても、証文の出し遅れという感がしないでもないが、何も出てこないよりはよほどいい。資金集めもかなりいい線でいっている訳だから、ここで包括的な医療改革提案を出しておけば、まだまだ候補者氏名争いに残れるのだろう。

Edwardsと医療、とくれば、医療過誤訴訟で子供のために弁護士として争った、というイメージだ(「Topics 5月7日 藪医者 vs. 救急車追っかけ弁護士」参照)。

それでは、Edwardsの医療改革提案のポイントをまとめると、次の通りである。

  1. 子供達の保険カバー率を高める。

    1. 企業が提供する医療保険またはCHIPで子供を加入させるためにかかる費用について、税額控除を認める。年収$75,000以下の家庭、または年収$100,000以下の大家族を対象とする。税額控除総額は$25B。

      1. 4人家族で年収$60,000の場合、税額控除は約$300。
      2. 4人家族で年収$60,000未満の場合、子供を医療保険に加入させるために要する費用を一日$1以下の負担とする。
      3. 4人家族で年収$36,000未満の場合、子供を医療保険に加入させるために要する費用を一日30セント以下の負担とする。

    2. 保険加入をしやすくする。出生時、学校入学時、医療機関訪問時、親の納税申告書提出時に、自動的に子供を保険に加入させるようにする。

    3. 親に責任を持たせるため、次の3段階のステップを講じる。

      1. 子供を保険に加入させない親に警告を行う。
      2. 税制優遇措置を認めない
      3. 強制加入させる

  2. 個人、小企業を支援する。以下の措置により、800万人の成人の保険カバーを実現する。

    1. 中下位の所得層の成人が、MedicaidまたはCHIPを通じて保険を購入できるようにする。その際、次のような補助を行う。

      1. 貧困基準(poverty level)100%以下の成人については、保険料自己負担なし。
      2. 貧困基準250%以下の成人については、保険料に関する補助を行う。


    2. 従業員50人未満の小企業については、州単位で加入者を募るグループ保険に加入できるようにする。

    3. 企業の医療保険で、25歳以下の子供も被保険者として加入できるようにする。

    4. 55〜64歳の成人がMedicareに加入できるようにする。

    5. 失業者については、連邦政府から保険料の70%を補助する。

    6. これらの措置により、800万人の無保険者をなくすことができる。

  3. 医療コストを抑制し、質の向上を図る。

    1. 処方薬の価格を抑制する。

      1. 誤解を与えかねないような薬の広告を制限する。
      2. 患者の安全を前提に、海外からの処方薬の再輸入を認める。
      3. 製薬メーカーの不正保険請求を調査する。


    2. 医療記録、請求を電子媒体化する。

    3. 医療過誤に関する乱訴を抑制することで、医療過誤保険料を抑制する。例えば、3回訴訟に失敗した弁護士には、以後訴訟はさせない。

    4. 患者の権利法を成立させ、HMOや保険会社に適正な保険支払いをさせる。

  4. 以上の措置により、約2,100万人の無保険者をなくすことができる。またそのために必要となる費用は、年間$53B。財源は、Bush大減税の廃止、防衛費の10%削減、銀行・生命保険・億万長者の農業経営者への補助金の削減による。


以上を読んでみての感想をいくつか。

  1. 全部の無保険者をなくす、と大上段に構えず、まずは子供から、というのは、政治的にはアピールする。また、彼の医療過誤訴訟弁護士としての経歴からも、ぴったりのテーマである。しかし、このメリットは、提案全体のデメリットにもなり得る。つまり、無保険者の子供にかかる費用は、それほど大きくない。中所得者で無保険者の場合は、彼の提案からは、まったく抜け落ちている。

  2. 以前にも書いたが、税額控除は税金をかなり納めている人にとって有効である。所得税をまともに払えない、もしくは少額しか払っていない層にとって、税額控除は満額受け取れない可能性があり、無保険者をなくすという政策目標にとって有効かどうか疑問だ。

  3. 医療過誤の乱訴を抑制することと、医療過誤保険料とは、直接的な関係は認められないというのが通説となっている。また、医療過誤乱訴の抑制は、彼の最大の支持基盤である弁護士から、不満が寄せられるのではないか。

  4. 財源の手当てとして、防衛費や農業経営者への補助金を持ち出すのは、優先分野が明確になる一方で、外交・安全保障、農業への配慮がないとの批判を受けかねない。

  5. 子供の無保険者をなくす、という切り口から入っているためか、国民全体を視野に入れている感じがしない。やはり、一点突破主義から抜け出せていないようだ。
また、民主党候補者としては最高の評価を得たKerryの提案について、まとめたことがなかったので、ここでまとめておく。ポイントは次の通り。

  1. 医療コストの抑制

    1. カタストロフックな医療費に対する公的負担

      2001年、民間保険において、$50,000以上の保険支払いがあったのは、全請求件数のうちのわずか0.4%であった。しかし、その請求金額は、全体のほぼ20%に達した。このような高額医療を取り除いてやることで、全体の医療費を抑制することができる。$50,000を超過するカタストロフィックな医療費については、その超過分の75%を(公費により)償還することを提案する。その際の条件は次の3点。

      1. この償還により下がったコストを保険料引下げに反映させる。
      2. 企業の場合には、全従業員に同等の保険プランを提供する。
      3. 病理管理、健康管理、健康増進策を徹底する。


    2. 処方薬価格の抑制

      1. Medicareに処方薬保険のプログラムを創設する。
      2. 薬価差益を明確にさせる。(「Topics 2月20日(1) アメリカの薬価差益」参照)
      3. 処方薬に関する特許の抜け穴を塞いで、genericが市場に出やすいようにする。
      4. 処方薬の価格引き下げに関する交渉を本格化させる。


    3. 医療過誤保険料の抑制

      1. 医療過誤訴訟において、損害賠償額に上限を設けることには反対する。上限を設けても、医療過誤保険料を下げることはできないし、医療費全体をさげることもできない。
      2. 専門家が合理的な訴求であると判断しない限り、個人の医療過誤訴訟を禁止する。
      3. すべてのケースにおいて、提訴する前に州政府が調停を試みる。
      4. 故意の過失など悪意が認めなられない限り、懲罰的損害賠償には反対する。


    4. 医療の質を高め、コストを下げる

      医療過誤により、毎年44,000〜98,000人が亡くなっているとの調査がある。こうした事態を改善するために、次の4点を提案する。
      1. 医療に関するベンチマークを定める。
      2. 電子媒体による医療記録システムを導入した医療機関に、経済的なインセンティブを提供する。
      3. コンピュータによる処方システムに経済的なインセンティブを提供する。
      4. 医療過誤について速やかに報告されるような体制にする。


  2. 無保険者をなくす、特に子供の無保険者をなくす

    1. Medicaidに加入している2,000万人の子供達の医療費を連邦政府で負担することとする。その代わりに、州政府はCHIPで子供達に医療保険を提供する。また、学校入学時に、児童の医療保険加入を強制する。

    2. 子供がCHIPに加入しているのに無保険のままになっている働く親達が約700万人存在する。貧困基準200%以下のこのような親達も、州政府の医療保険に加入させる。

  3. すべてのアメリカ人に医療保険を提供する

    1. 小規模企業、大規模企業の従業員に関する別勘定を設けたうえで、すべてのアメリカ人に、FEHBP(州政府職員医療保険)への加入を認める。

    2. 小規模企業の医療コストについて、最大50%の税額控除を認める。

    3. 個人の場合には、所得の6%を上回る医療費について、補助を提供する。

    4. 約800万人いる失業者については、医療費の75%の税額控除を認める。
      (最近の言い回しとして、失業者のことを、"workers in between jobs"と呼ぶんですね。)

    5. 55〜64歳の退職者についても、税額控除を認める。

  4. これらの提案により必要となる財源は、最初の5年間で、年間$72B。また、無保険者が約2700万人減少する。


Kerry提案についても、感想をいくつか。

  1. 別にNational Journalで評価されているから、というわけではないのだが、全体感として、Kerryの主張がしっかりと盛り込まれているという第一印象を持つ。Edwards提案と較べると、ちょっと言い過ぎかもしれないが、格が違うという感じだ。

  2. カタストロフィックな医療コストを公費負担するというアイディアは、今まで提唱されていなかった。無保険者2700万人と推計しているが、このアイディアにより、既に保険に加入している人達の保険料が下がる、または抑制される効果は大きい。特に、企業が提供する医療保険の持続性が高まると期待される。

  3. 医療過誤保険料と損害賠償額の関係が整理されている。この部分の彼の提案は、正当と評価できる。

  4. やはり気になるのは、財政負担の大きさである。上記2を実施しようとすれば、公費が大きくならざるを得ない。この辺のバランスを、専門家、国民は同評価するか、だ。


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